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第25話 振って下さい

 

 桑野さんをどうしたかったのか。


「……誰にも……渡したくなかったんです」


 俺は結婚はしない。子供は論外。


「俺は一生一人です」


 人を好きになることすら、しないと決めていた。


「出来る事なら……」


 俺以外のものにならないで欲しい。だけどそんなことは言えない。

 それは彼女にも、一生一人で生きていって欲しいと言うのも同じだ。



 桑野さんは結婚して、幸せな家庭を作りたいのに。



「すみません。これ以上は言えません」



 俺はあまりにも浅はかで、滑稽だ。

 告白したことに後悔はない。だけど、振られない場合を考えていなかった。


「なので、振って下さい」


 もう……何十年も思ったりしないように。仕事だけで生きて行けるように。

 桑野さんを思っての結論じゃない。俺がスッキリしたかっただけだ。



「振りません」



 彼女が凛とした声を出す。


「まず、この状態から言って、振るのであれば三井さんの方です」

「え?」

「最初、私はからかわれて遊ばれていたと思いました」

「そんなことはありません!」

「おかげで少し本性が出かけました」

「……さっきのあれでまだ全てではなかったんですね」


 結構、恐かったけど。特に目。


「幻滅したと三井さんが振る方が自然です」


 ……幻滅……か。確かにこんなにプライドが高い人とは思わなかった。穏やかに微笑む彼女が好きだった。

 だけど…


「プライドが高い女性には慣れております」


 イギリスのホームステイ先の娘。彼女は一家の女王様だった。


 それと……




 あ、そうだ。


 思い出した。お母さんだ。


「……何を笑っているんですか?」


 桑野さんが怪訝な顔で俺を見る。我ながらマザコンだったようだ。直くんの事をお母さんっ子だと言えない。


「ますます好きになりました」

「は?」

「私の直感は正しかったと確信しました」


 初めて一目見て、なんとも言えない安心感を得た。


「私の直感は間違えません」


 幻滅などしていない。



「ですから、俺を振って下さい」



 初めて、好きになった人だから。






 少しの沈黙の後、桑野さんが口を開く。


「俺の周りに女はゴマンといるから、と言うことですか?」


 ……は?


「プライドの高い女性に慣れているのですね。女性の扱いも上手い。かなり場慣れしてらっしゃいますもんね。付き合うつもりはない。だけど、俺の女の一人として入れてやってもいい。そういうことですか?」


 どういう解釈なんだ!


「そんな人でなしではないですよ!」


 俺ってそんな風に見えるのか?


「冗談です」

「……笑えません」

「私は三井さんが困った顔を見せると笑えます」

「……性格歪んでいませんか?」

「三井さんがドMだから、私が無意識にSになるんです」

「私のせいですか」

「責任取って下さい」


 ……は?


「三井さんが人情味溢れる方なのは分かっています。人を弄ぶタイプではないですよね」

「それは、ありがとうございます」

「……私はずっと結婚願望があって、これまで合コンや婚活パーティーと言われる出会いの場に足繁く通ってきました」


 やっぱり、そういう所に世の中の人は行くんだな。


「好意を持って下さる男性もいた事も確かです」


 それはそうだろう。こんなに美人なんだから。


「ただ、当の私が心の奥でNOを出すんです。何か違う。やっぱり違う。そう思って……」


 だからまだ結婚していない、と。


「そうこうしているうちに、出会いの場に行くことも億劫になって、男性が苦手になりました」

「そうでしたか」


 そこから男性恐怖症か。


「ずっと、自分が悪いんだと思っていました。好意を持ってくれる男性がいたら飛び込むべきだと周りからも言われました。結婚したいのに、相手を選んでる自分が悪いんだと」

「……好きでもない人と結婚しようと思っていたんですか?」


 やめてくれ。そんなこと。


「結婚すれば、情が湧くから。それが周りの意見です。一度結婚してみて、違ったら別れたらいいんだから、とも言われました。私は結婚したくても、そんな軽い気持ちでしたくありません」

「私もそう思います」


 結婚という、契約の重きを俺はよく分かってるつもりだ。


「だから、三井さんが始めから、結婚しないとおっしゃった事に寧ろ誠意を感じました」


 ……そんなことはないだろう。


「これまで、どんなに人を好きになろうと思っても出来なかった。それを覆してくれたのが三井さんでした」


お母さんのプライドの高さはシリーズ作品

『政略結婚の裏側に』をご覧下さい!

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