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第24話 最後かもしれないから伝えておきます。

 

 直之が入籍し、家を出て行った。

 今、家には俺と貴将とキヨさんで暮らしている。


「それは寂しくなりましたね」

「はい。それはそれはもう、思った以上に」

「あはは! 弟さん想いですね」


 今日で最後の桑野さんとの食事。月一で夜食事に行って五回目。それ以上の連絡は基本的に無し。


 これでいいのかもしれない。


「子守唄でも歌いましょうか?」

「それは楽しみですね」

「手がかかりますねー」


 彼女は随分と打ち解けてくれたようにも思える。お茶目な人だなと思う事も多くなった。


「私この前、おっちょこちょいをしでかしましてー」

「……しっかりされてる印象なのに意外です」

「私、ちょいちょい抜けてるんです」

「私もよく抜けてると言われます」

「え!? しっかりされてる印象なのに!」

「「……また合いましたね」」


 またしても共通点がが。そしてハモる。


「「ハモりましたね」」


 また。


「あはは!! 本当にハモってる!」

「しかも息ぴったりでしたね」


 彼女が楽しそうに笑う。


「電車の5両編成を5番乗り場と勘違いしまして」

「……電車乗れました?」

「気づいてマッハで階段駆け上がりました!」

「それは見物でしたね」

「バカにしましたね?」

「滅相もない」


 他愛もない話をして、温かい気持ちになる。……最後か。



 ……最後か。



「これが最後かもしれないので悔いのないように伝えておきます。俺は桑野さんが好きです」


 モヤモヤとした気持ちを残したままだと、心が晴れない。それはいずれ後悔に繋がる。どうなろうとも、今言わない選択肢は俺の中になかった。



「初めてあったときから……そしてこうして会うようになって確信しました。俺は桑野さんが好きです」



 しっかりと目を見て言う。誠意を込めて見つめる。桑野さんは時が止まったように固まっている。


「あ……えっと……その……ありがとうございます……。嬉しいです……。……とっても」


 彼女はしどろもどろに答え顔を真っ赤にして俯いてしまった。うん、後悔はしてない。告白をした事に。


「私も……三井さんが好きです……。ずっと好きでした」



 そうか……。そうだったんだ。


 ただ……



「ありがとうございます。そう言って頂けるととても嬉しいです」


 きっと、世の中の人達はここから交際を始めるのだろう。


「ですが、私は誰とも交際するつもりはありません」

「えっ……」


 俺はつくづく、最低な男だ。


「私は結婚願望が全くありません。交際を始めるといずれそういう話も出てくるでしょう」


 彼女に誠実であろうと、自分の正体を知ろうとも思った。

 実際、お兄さんが今調べてくれている。


「以前、おっしゃいましたよね。〝結婚して子供が欲しい〟と」

「は……い。」


 それを知ったからと言って、俺の気持ちは変わらない。

 後になってそう気づいた。俺は本当に抜けている。


「私は不適合者です」


 俺がどのような人間であれ、俺はきっと不誠実な人間になる。お兄さんは否定してくれたけど、それは確約ではない。


 俺は俺みたいな子供を増やしたくない。


 これまで必死に……必死で這い上がって、もがいてここまで来た。

 それでも、俺はきっと……あんなに憎んで嫌った、実の両親の様になるだろう。




「……じゃあ、なんで言ったんですか?」


 彼女がか細い声で俺に問う。


「こ、好意を告げられて、私も同じ気持ちで……嬉しかったんですけど……、その……それなら、言って欲しくなかった……かも……」


 それは確かに当然だな。


「……お分かり頂けたのではないでしょうか。私が自分勝手な人間だと言うことが」

「私をからかって楽しかったですか?」


 ……俺を見る彼女の目が冷めていた。


 あぁ、この目は記憶にある。




 京都の屋敷で見た



 正妻の目だ。





 桑野さんは俺を……憎んでる。





「……お怒りはごもっともです。最後ですから、お互い凝りなく晴れやかに……と思っただけのつもりでした」

「それは貴方だけですよね。私は寧ろ凝りだらけになりました」

「そうですね……。申し訳ありません」

「心なく謝るのはやめて下さい」


 ズーンと空気が重くなった。

 心を込めて謝罪したつもりだが。


「……三井さんは私にどうして欲しかったんですか?」

「え?」

「これが、多分……初対面だったり、会って間もなかったりしたら、私はここで三井さんに水をぶっかけて帰っています。……ちなみにそれだけでは収まらないので、かなりの罵声を浴びせます。しばらくこの近辺を歩けない位、再起不能になるほどの泥沼の罵声です」


 ……それは恐いな。


「私、穏やかな見た目を剥いだらかなりのプライドを持った女王様なので、ずっと用意周到にからかわれていたと思うと、怒りと羞恥で我を忘れます」


 プライドの高い人だったのか。


 ん? あれ? なんかこの感覚は身に覚えが……



 なんだっけ。



「ただ……こうして何度かお会いさせていただき、お話させていただく中で……三井さんはとても誠実で、きっと……いや、もしかしたら、何かご事情があるのかもと、ふと思いつきましたので、もう少し、冷静になって三井さんの意見を聞こうと思いました」


 プライドの高い女王様がどうしても引っかかる。



「もう一度聞きます。三井さんは私にどうして欲しくて、その……そのような言葉を言ったのですか?」



 どうして欲しかった、か。


 俺が桑野さんにどうして欲しかったのか。


 俺が、桑野さんに好意を伝えて、どうしたかったのか。



 そんなの……

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