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第23話 本音

 

『今日、帰り遅くなる』

 

 仕事中に直くんからメールが来た。

 仕事中に連絡しないでと言われていたから、謹んでたけど、直くんの方から来た。


 相変わらず、端的。だけど、直くんらしい。思わず笑みが溢れる。


 残業かな?


『了解。お仕事頑張ってね。無理はしないようにね』


 それから何を入力しようかな。せっかく来た直くんからのメールだ。あと……


 ……ウキウキしすぎた。俺は。

 弟二人との距離感が近いとよく言われる。


 俺の歪んだ気持ちを潤してくれる存在だ。俺を憎しみのこもった目で見ることなく、疑う事なく俺を信頼してくれて、俺を頼りにしてくれる。

 俺の卑屈な心を洗い流してくれる。


 だから大切で、大切で、大事にしようと思って……。




 だけど、これも永遠には続かない。

 俺は常に失うことへの恐怖が強い。養子に貰われてからも、いつか……この生活が終わるんじゃないか。捨てられるのではないか、と恐怖と隣り合わせだった。


 そして、実際両親が事故で亡くなって、更に確信を得た。

 永遠なことは何もない。それどころか、一瞬で終わる。



 いつか終わる関係を前に、弟を溺愛せずにいられなかった。弟を可愛がる事で、自分の虚無感を埋めていたんだ。




 直くんにはあれから文字は付け足さずに返信した。

 俺の虚無感を埋めるために、弟を利用してはいけない。



 大丈夫。俺には仕事がある。



 それと……



 〝血が綺麗なんですよ!〟




 ……。


 仕事をしよう。




 ✽✽✽



「今日、叔父さんの家に行って来たから」

「え?」

「挨拶。百子と行って来た」


 ……仕事じゃなかったのか。俺の釈明の前に行って大丈夫だったのかな。百子さんに何か言わなかっただろうか。


「なんでまた急に」

「叔父さんが百子を見に来たから。早くしないと落ち着かない」


 塚本くんの話のやつか。……多分また百子さん発案だろうな。


「そっか。叔父さんはなんて言ってた?」

「おめでとうって。快く迎えてくれたよ」


 ……叔父さんは直くんにはトコトン甘い。ご立腹はどこにいったんだ。


「良かったね。あとは食事会の日程だね」


 挨拶は直くんに先を越されたけど、ここは保護者として率先して……


「それはまた俺と叔父さんとで話し合うことにした」

「え」

「だから兄貴は何もしなくていいよ」





 直くん、完全に巣立ちました。





 ✽✽✽



 寝る前になって仏壇の前に座る。


「お父さん、お母さん。今日も皆無事に一日を過ごす事が出来ました。ありがとうございます」


 日課の挨拶をする。


「……保護者になるのは、寂しいものですね」


 ついつい本音を言う。


「私はまた一人になるのが、恐いです」


 物心ついた時からずっと一人だった。それでいいと思っていた。それが気楽とさえ思った。


 それは愛情を知らなかったからで。


 京都でお兄さんに優しくしてもらっても、申し訳無さしか無かった。お兄さんが俺にくれていたのは哀れみだと思っていたからだ。


 俺は養子に貰われて愛を知った。知ると抜け出せない。

 こんな温かい気持ちがこの世に存在するのかと味をしめてしまった。


「夜は恐い気持ちになります」


 京都の屋敷にいた頃、蔵に押し込められて、真っ暗の中、泣いて過ごした。以来俺は暗所恐怖症だ。夜も真っ暗だと恐い。普段は平静を装っているけど。


「お二人の前でも、ボロが出ないようにと、必死で取り繕っておりました」


 今思えば、もっと素直に伝えれば良かった。


「私には、恐いものが沢山あります」


 恐れ以上に


「懺悔しなければならない事が沢山あります」


 お父さんとお母さんを他人として扱ったこと

 お父さんとお母さんを信じてなかったこと

 直くんと貴ちゃんを所有物のように思ってたこと

 お兄さんに迷惑をかけていること

 お兄さんの家庭を壊したこと

 ……産まれて来てしまったこと



「お父さんとお母さんに直くんの今を見せたかったです」


 結婚式、出たかったろうな。

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