第2話 まさかの再会
仕事が終わり、歩いて家に向かう。
歩くのは好きだ。
季節も深まり、冬。この冷たい風が心地よい。
「見て! あれが東京駅!」
!!
「あれが東京駅!」
「写真とろー!」
「お上りさん剥き出し」
あ、あ、あ……!
「姉さんと母さん入って」
冬は日が暮れるのも早い。そう簡単に人を認識出来ない。だけど、絶対間違えない。確信がある。
……彼女だ。
ドクンドクンと心臓が大きく音を立てる。
「次は愛子と私で」
「それなら、母さんが次取ろう。愛ちゃんカメラ貸して」
「こんな所で取りよったら恥ずかしいね」
女性三人。〝愛子〟〝愛ちゃん〟と呼ばれた、女性が彼女だ。
――7年ぶりの彼女だ。
(東京の人じゃなかったのか)
……どうりでこの7年会わないはずだ。
「風が強いなぁ。」
「早く銀座に行こう。この道真っ直ぐ行くと着くはず。せっかく東京に来たけん歩こう。」
彼女がリーダーシップを取って女性二人を連れて歩く。
つい、立ちどまっていた俺も足を進める。
ストーカー?いや、どのみち俺もこっちだ。大丈夫、ストーカーではない。
少し離れた後ろを歩く。
(さっきの、どこの方言だろ)
「はー。イルミネーションがキレイねぇ」
「お母さんは絶対好きだろうと思ったから、電車じゃなくて歩くことにしたんよ」
先程〝愛ちゃん〟と呼んだ女性がお母様か。
この並木道は冬になると木の電球に明かりが灯る。
母が喜ぶ事を考えたんだ。……やっぱり優しい女性だな。
ドクンドクンと心臓の音はもうずっとうるさい。
(会えた……)
初めて、名前を知った。もう、一生忘れない。
「東京の人はこんな所でデートするんやなー」
「恋も生まれるよね。こんなにリッチだと」
お母様と会話をする。
恋か……。母親と姉さん、つまり姉と旅行してるということは……
ものすごい期待をしている自分がいる。聞き耳を立てる俺は捕まる一歩手前だ。
「愛子! あれって、有名なケーキ屋?」
「そう! だけど今回は寄れないよ。時間押してるのよ。寄りたい?」
「時間押してるならいいわ」
彼女はリーダーシップがすごいな。
〝母さん〟と〝姉さん〟と呼んでいたが、この二人は彼女の意見を聞き、それに従う。
二人は彼女を信頼しているんだろうな。
中心にいる彼女は堂々としていて、神々しい。
背が高くスッとしたその後ろ姿は間違えなく彼女だ。
一人でいるならともかく、こう女性で連なっていると中々声はかけられない。
というより、この圧倒的存在感を放つ彼女を前にして、俺は自分からは話しかけられそうに無い……。
そうしていると、俺がフィットネス会員になってるホテルに着いた。ここで荷物を取って帰らないと。
これ以上追いかけたら本当にストーカーだ。行き先が違うのに。
……。
俺は結婚する予定もなければ彼女を作る予定も無い。恥ずべき存在の俺は恋なんかしちゃいけない。
きっと、宇宙が最後に……冥土の土産に引き合わせてくれただけだ。
離れて行くその後ろ姿にもう一度視線を向け、目に焼き付ける。
これで、最後。
視線を元に戻し、しっかり前を見て、慣れたホテルの中へと足を進めた。