スパダリさんの大きな愛
前回からの時系列の短編になります(^^)
「結ちゃん、この前はありがとう」
自分の選択は全て正しいってわかっているのに、ついネガティブに傾いて、結ちゃんにそれをぶつけてしまった。
「なんのこと?」
「……好き」
結ちゃんは私を責めない。ニコニコと笑って両手を広げられた。
つい素直な気持ちが溢れる。
「嬉しい」
私が立ち尽くしていたら、結ちゃんの方が歩み寄ってくれて、抱きしめてくれた。
「きみはジェントルマンか〜」
私がしたことを全て包んでくれる大きな愛。
ついつい泣いてしまった。
「最近の愛ちゃんは素直だから嬉しいな」
頭をヨシヨシと撫でられて罪悪感が解けていく。
ハイスペックの妻にあるまじき、精神不安定をぶつけてしまったのに。
「結ちゃんと再会できたのはベストタイミングだよね……」
自分に言い聞かせるように、呟く。
「そうだよ。俺の心の準備ができるまで待っててくれてありがとう」
「うん……」
私も結ちゃんの背中に腕をまわす。
「20代だったら愛ちゃんの痛みを受け止める隙がなかったから。ちゃんと結婚まで辿り着ける時期に合わせて再会できたんだよ」
「うん……」
「愛ちゃんがその間に葛藤を抱えてたのは胸が痛むけど、ちゃんと俺を選んでくれた。ありがとう」
「うん……」
ネガティブを自分でなんとかしないとだめだと思って苦しかった。
「俺は子供8人よりも愛ちゃんとの時間が欲しい。子供は言い方は良くないけどオプションじゃない? 子供がいるから幸せ、多いから幸せは全員に当てはまらないよ」
「うん……」
「愛ちゃんは母性が強いから子供につきっきりになりそうだし。そしたら俺は不貞腐れるな」
「ふふっ」
私のネガティブを全てポジティブに変換してくれる最愛の人。
「肌のハリは……ごめん、俺はよく分からない」
「さすがにそこはポジティブ変換できなかったか」
パーフェクトに見える旦那のかわいい一面。
もう充分私の心は温かい。
「多分全体像で見てるからシミがとかホクロがって分からないんだよね。というより、なるべく愛ちゃんの変化は見逃さないようにしてるけど」
「逃した数年より、結ちゃんがいない未来の方が怖い。ほんとそう」
私が気になる小さな……だけど、私にとって大きな身体の変化。でも、そこに囚われているともっと大切なものに気づけない。
「私も結ちゃん見習ってポジティブに生きるね」
ネガティブを抱えたままだと、結ちゃんの価値を下げてしまう。私もしっかりしないと。
「なんで? 俺はありのままの愛ちゃんが好きだよ」
「へ?」
きっと、げんなりさせてると思ってた。
「俺の直感は間違えないから、一目見て愛ちゃんだってピンときた。だから、踵とかシミとかポジティブだからとかは、はっきり言ってどうでもいいんだ」
「スパダリさん……」
「愛ちゃんが自発的にポジティブにしたいならそれも愛ちゃんだから止めないけど、無理してるならそれは違うよ」
「……」
「ポジティブが正解で、ネガティブが悪ではないから。愛ちゃんが感じるネガティブも俺には魅力的だってこと」
「み、魅力的?」
そんな言葉使う人初めて見た。
どうしよう。むず痒い気分だ。
「私はいつも結ちゃんを傷つけてばかりだね」
嬉しさを隠すようにこの前の懺悔をする。
「え。いや、俺全然傷ついてないから」
「……スパダリぃ〜」
いともあっけらかんと返された、言葉。
嬉しさとか愛しさとか色んな感情が込み上げてきて、涙がでる。
「え? 泣くとこ!?」
「これは嬉し涙!」
私が泣き出したから、結ちゃんが慌てる。
「喜んでくれたの?」
結ちゃんの嬉しそうな声が聞こえる。
「君は人格者か」
何があっても、私に幻滅しない。頼もしい夫。
「違うよ。愛ちゃんが好きなだけ」
屈託なく、私を信頼しきった蕩ける笑顔に、胸が締め付けられる。
本当に、待っててよかった。
この人が旦那さんでよかった。
私のネガティブさえ、倍の愛しさに変えてくれる。
だから、私も……
「結ちゃん、あ、あ……愛、してるよ」
〜おしまい〜
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