過去の選択は全て正しい
「はい、愛ちゃんこれ」
ニコニコと笑う夫から何やら封筒を手渡された。
――私は知っている。この表情は〝褒められたい〟
「……なぁに?」
「プレゼントだよ」
怪訝な私と対象的に嬉しそうに笑う夫……。
(プレゼントって……)
この封筒が?
いつも、結ちゃんからもらうプレゼントは品物が入った紙袋。
それが……結構分厚い、封筒……。
なんか怪しい。
スパダリさんのプレゼントは私の想定を越えている。
もしや土地の権利証……とか?
「愛ちゃんの今期分。お疲れ様でした」
「今期分?」
訳のわからない言葉に、急いで中身を確認したくなり封筒を開けた。
――ら、
「わーお!」
ごっそりとお金のお父様が!つまり一万円札が!束で出てきましたよ!
「ボーナスだよ」
そう言ってにこやかに微笑む夫の笑顔に……きゅん。
(……いや、まて)
「ボーナス?」
「そう。いつも俺の奥さんでいてくれて、ご飯にお弁当も作ってくれてありがとう」
「スパダリさん……」
嬉しそうにニコニコと笑いながら、結ちゃんの右手が私の頬に触れる。
「ボーナスって……始めてもらった……」
「嬉しい?」
「うん……」
私を見つめる瞳にドキドキして、挙動不審になる。
「ボーナスってこんなに手にすることができるんだね!知らなかったよ!」
アワアワとした心を見透かされないように、言葉を続ける。
「20代のときに友達が次々と結婚して家買ったりしててさ、なんでみんなそんなにお金あるの?って思ってたけど、正社員でずっと勤続してたら確かに買えるね! 半期に1度こんな大金が手に入るんだもん!」
言いながら、胸にチクッと刺さるものがある。
「でもさ……30歳近くなって今さら正社員で1から出発って……出来なかったな……」
周りと比べて卑屈になってた頃を思い出す。
派遣社員だった私より、年下の女の子達の方が裕福で、ボーナスが出たあとハイブランドのバッグやらお財布やら買ってて……
悔しいって思ってたけど、現状を変えることは出来なかった。
「愛ちゃん?」
暗くなった私に結ちゃんが問いかける。
ハッとして、結ちゃんを見つめる。
「結ちゃんのおかげ。本当にありがとう」
人生が上手く行ってないとき、過去の後悔に押しつぶされそうだった。
あのとき、あの学校に行っていれば。
あのとき、あの会社に行っていれば。
そしたら、こんな惨めな思いしなかった……って……。
「結ちゃんのおかげで、今は過去の選択全て正しかったって、自己肯定感爆上がりです」
泣きそうになるのを堪えながら、ニヒっと笑ってみせる。
「愛ちゃんの喜ぶ顔が見れて良かった」
結ちゃんが嬉しそうに笑って、私にキスを落とす。
私は結ちゃんに腕を回す。
「結ちゃん……私の選択は全て正しかったよ」
当時の私に言い聞かせるようにつぶやいた。
困難も後悔も、あの時は自己否定でいっぱいだった。
こんな未来が待ってるって、想像も出来なかったから。
「俺が夫で良かった?」
「もちろん」
派遣が切られたとき、人生が終わったって思った。
若い女の子達のボーナスにヤキモキ出来てたのは、そこで働くことが出来たからで、派遣切りでそれすらも出来なくなった。
ああしてたら、こうしてれば。
って……
過去の自分の選択が間違いだらけだと思って、苦しかった。
そこに……
「白馬の王子様、結ちゃんが私の未来を照らしてくれたね」
言い表せない、感謝。
「よーしよしよし、結ちゃんは偉いね。凄いね!」
私は結ちゃんの頭を両手でワシャワシャと撫でる。
「褒められた」
犬みたいにわちゃわちゃにしてしまったのに、結ちゃんは嬉しそうにしている。
「愛ちゃんに褒められると自信になる」
屈託ない笑顔を見せてもらって、私も満面の笑顔を結ちゃんに見せる。
卑屈から1歩抜け出して、行動したら、未来はこんなにも幸せに満ちていた。
間違った選択なんて一つもない。
ちゃんと全て幸せに繋がっている。
その当時の私に、今、会えたなら……
「あなたの選択は全て正しい」
〜おしまい〜
ご覧いただきありがとうございました!