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最終話 家族

「そこから、人に優しくなろうと思って……」

「私の知ってる結ちゃんになったんだね」

「俺と関わってくれた全ての人から、人間関係を学んだよ」

「偉いね」


 結ちゃんの幼少期は、イメージすることしか出来ない。


「暴言には慣れてるけど……」

「慣れてるんじゃないよ」


 きっと、感覚が麻痺してるだけ。それを思うと、益々切なくなる。


「……慣れなくていいんだよ」


 結ちゃんを思って、私が悲しくなって、結ちゃんを抱き締めて、涙を堪える。


「結ちゃん……良く堪えたね……」

「愛ちゃん?」


 涙声になった私を結ちゃんが心配する。


「……」

「ご褒美が待っててくれたから」


 ――ギュッ


 結ちゃんが私を抱きしめる。


「愛ちゃんがいてくれるから……」

「……」


 そんなことない。私は結ちゃんの傷を抉ってる。

 暴言をはいて、叩いたり抓ったり。



 私がしていることは、結ちゃんを苦しめた人と同じだ。



「俺が甘えられるのも、甘えさせてくれるのも愛ちゃんだけ」


 私を抱きしめる腕に力がこもって、私の罪悪感が軽くなる。



 私だけ。それなら、いっぱい甘やかしてあげたい。


 感情的な私は、これから先も叩いたり抓ったり。暴言をはいたりしないって、断定出来ない。


 だから、出来るときに……


「結ちゃん、膝枕しよう。おいで」



 今、幼少期をやり直している大きな子供を



 めいっぱい甘やかしてあげたい。




 ✽


「結ちゃん、今日もお仕事お疲れ様!」

「うん」


 ソファーで結ちゃんを膝枕しながら、なるべく明るい声を意識して伝える。


「よしよし……」


 頭を撫でて、結ちゃんの癖のない髪の感触を堪能する。


「気持ちいい……このまま寝そう……」

「寝ていいよ」


 ウトウトする、無防備な結ちゃんを堪能する。


 いつも気を張っていて、完璧な姿しか見たことが無かった。


 私にだけ、こんな一面を見せてくれる。


「嫌だよ。まだお風呂入ってない……」

「明日の朝入ったらいいよ」


 頭を撫で続け、会話を続ける。


「朝だと愛ちゃんが一緒に入ってくれない……」

「やっぱりそれかい」


 ピシッと空気が固まる。


「……少ししたら、起こしてあげるから……」


 一度固まった空気を元に戻す。今日は思い切り甘やかしてあげたい。



「今日も一日偉かったね。結ちゃんがいつも一所懸命頑張ってるの、知ってるよ」


 よそ様から見れば、私は妻であり、彼のお母さんではない。この夫婦関係を誰かが知れば怪しく思う人もいるでしょう。


 だけど、私は幸せでとても満足してる。


「結ちゃん、大好きよ……」


(……言えた……!)


 愛情が貰えなかった、受け取れなかった彼の寂しさは私が埋めてあげたい。


 私は結ちゃんの妻で、家族で…そして初めて好きになれた人だから。


(あと、もう一つ……!)


「結ちゃん……、愛してるよ」


 本人を前にして言うのは物凄く恥ずかしいけど、今私の目の前にいるのは……大きな子供。


 誰かに甘えたくて、それが誰にも出来なくて彷徨っている子供。


 この愛しい人の心の傷の大きさは推測しか出来ない。だからせめて、こうして甘えてくれるだけで、私は嬉しくて……愛しい。


 私はまた、結ちゃんの頭を撫でる。


「結ちゃん、愛してるよ」


 結ちゃんが落ち着くまで、何度でも言える。


 恥ずかしくて中々言えなかった言葉を、意を決して伝えると……


 本当に何度でも言える気がした。



「昔さ……」

「うん」


 結ちゃんがポツリポツリと話しだした。私に背を向けて横になっている為その表情はわからない。


「子供が一人で泣いてて」

「うん」

「迷子かと思って声かけようとしたんだ」

「……変出者に間違えられた?」

「声かける前に母親と思わしき人が迎えに来た」

「そう……」


 一瞬、変出者に間違えられて警察沙汰になったのかと……。


「……いいなぁって」


 ポツリと最後に呟いた一言が、結ちゃんが一番伝えたい事。


「羨ましいって……思ってた」


 ……昔がいつ頃を指しているのかは分からない。だけどきっと……いつのときでも同じ気持ちなんだと思った。


「結ちゃんが迷子になったら探しに行くよ」

「うん」

「帰って来なかったら、探しに行くよ」

「ありがとう……」

「……迷子を気にかけて声をかけようとするなんて偉いね」

「……」

「寂しかったね」


 結ちゃんの頭を撫でて、頬を寄せる。


「……うん、寂しかった」

「結ちゃんには、私がいるよ」


 これでもかというくらいギュギュギューっと抱き締められた。少し苦しいほど。



 ……早くこの人に家族を作ってあげたい。


 改めて、思った。








 ✽✽✽




「何かあった?」

「……」


 あれから数日が立った。いつものように仕事、夕飯を終え、愛ちゃんの部屋にいる。


 今日の愛ちゃんは何かおかしい。帰ってからずっと俺と目を合わせない。


「そんなにモジモジしてどうしたの?」


 悪いことでは無さそうだ。少し頬を赤らめて、照れているようである。


「愛子さん?」


 めちゃくちゃかわいくて、抱き締めたい衝動そのままに抱き締める。


「か……今日も綺麗だ」

「おめでとうございます」

「……何が?」


 褒めたら、なぜか祝福された。


「私からは以上です」

「全然分からないけど……」

「……」


 照れてる愛ちゃんは完結に話す。が、俺は全く分からない。


「……家族が増えます」

「は?」


 意を決したように、だけど照れているのか、俺と視線を合わせないままボソッと呟いた。


(家族? お義姉さんが結婚するとか?)


 俺はまだ全容が掴めない。


「今日病院で言われた。結仁くんはもうじきお父さんになるのですよ」

「……え」

「……結ちゃんの家族が増えるよ」


 そう言って、愛ちゃんは俺の手を取り自分のお腹に導く。


「えっ。えっ……?」

「してやったり。驚く結仁は見ものだな!」


 照れ隠しか吹っ切れたのか、イタズラっ子のように言う愛ちゃん。


 家族が増えるって……。もうじきお父さんになるって……



 え。



 それは……もちろん……つまり……



 そう、だよな!?



「俺さっきかなりキツく抱き締めた……!」


(愛ちゃんとお腹の子になんてことを……!)


「それくらい大したことないよ……」

「……っ」


 照れて恥ずかしそうに呟く愛ちゃんに、心の奥底から気持ちがせり出す。


 ギューっと愛ちゃんを抱き締める。少しゆとりを持つことは頭において。愛ちゃんも手をまわしてくれた。


「……愛ちゃん、ありがとう」


 そう愛ちゃんの耳元で囁くと、涙が溢れて来た。


「「愛してる」」


 お互いの言葉が見事に調和する。




 あんなに恐れていた結婚。論外だった子供。



 始まった結婚生活は、とてもとても……幸せな毎日だった。




【完】

完結しました〜ε-(´∀`*)ホッ

ご覧頂きありがとうございました!

高評価、ブックマークもとても励みになりました。ありがとうございます(*^^*)


今後はまず、二人のR指定小説をマイペースに書いていこうと思っております。

よろしければ、こちらもお願い致します(*^^*)


↓リンクです。コピペしてお使い下さい。

https://novel18.syosetu.com/n1609gx/


おかげ様で、自己最長小説となりました。これも一重にブックマークをして下さった方、高評価をして下さった方、そして読んで下さった方のおかげでございます。

本当にありがとうございました(*^^*)


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