第64話 朝からの甘い会話
――朝、目を覚ますと……
「おはよう」
「……おっ! おはよう……ございます……」
朝から目の前にイケメンが! 破壊力凄すぎますっ……!
「あー、かわいい。幸せ〜」
「かっ! かわいくない! 昨日のご馳走で朝から顔は浮腫んでパンッパン! な、はず!」
朝から何この空気! 恥ずかしい! 恥ずかし過ぎる!
「もう愛ちゃんという物体がかわいい」
「そ、そうですか……」
何でしょう……このとろけた空間は。
昨日はあれから家に帰り着いて……それから……それから……
煩悩。
「あー……かわいい……」
「……それ以上口を開くのはやめましょう」
縮まりたいのに縮まれない。縮まってしまったが最後、結ちゃんの裸胸が眼前に……!
今の視線の先は結ちゃんの首元。美しい喉仏が眼前に広がっております。
うん、この状況をキープしよう。これが一番恥ずかしくない!
――ギュッ
「ヒャ……」
「口は開いてないよ」
私を抱き締めていた手に力が入った。結ちゃんと身体が密着する。
――ドキドキドキドキ
心臓の音が大きい。きっと結ちゃんに伝わっている……。
「……腹黒大魔王さん」
「……何?」
「起きませんか? 朝でございます」
「まだ目覚まし時計鳴ってないよ」
「でしたら目を瞑って下さい」
「目を閉じたらいいの?」
「うん」
――シン……
静寂に包まれて、結ちゃんが目を閉じたことを悟る。
ホッ。少し息がつける。
(この……ドキドキが収まれば……)
「……愛ちゃん、まだ?」
「は?」
目を閉じているはずのスパダリさんの声が頭上から降ってきたと思えば、催促された。
「何よ」
「……キスしてくれるんだと思ってたのに」
「……はあっ!?」
びっくりした! このエロ魔人!
「この前、そう言われて目を閉じたらキスしてくれたのに」
「ぐ!」
あれだ! 神経衰弱したときの……! それを今ここで蒸し返されるとは……! なんてヤツ!
「いじったら怒るって言ったわよ!」
「え? 何をいじった?」
「朝から恥ずかしいわ!」
「分かってるよ、夜ならいいんだろ?」
慌てる私に悠々としたスパダリさん……! く、悔しい!
「今日首絞めてやる……!」
ネクタイ着けるとき! クイッって引っ張ってやる!!
「ああ。そういうのが好きだったんだ。言ってよ。早速今夜しよう」
「はあっ!?」
サラッといかがわしい内容に持って行かれ、驚く。
「違うから!」
(私は今日のネクタイのときの話をしてるのよ!)
「はいはい。女王殿下」
諭されるような言い方をされて、私が一人で慌てている構図となった。
(く、悔しいぃ!)
「次はいつ夜デートしようか?」
キュッと抱き締められて、とろける声で言われた。
「貴ちゃんももうすぐ試合で、合宿所に泊りになるから」
「そ、そう……」
「また僕とデートして下さい」
「は、はい……」
ど、どうしよう……。お互い裸で密着して、抱き締められて、王子様みたいなことを言われたら……
どうしたらいいか分からなくなる。
✽
「今日はこれにしよう」
ネクタイ選び。これには慣れてきた。なぜなら……
「どのみち結ちゃんが持ってるのっていいやつでかっこいいやつしかないから外しようが無い」
はい。私のセンスの問題は関係ありませんでした。
「頂き物ばかりで、自分で買ったのは無いかな」
「え! そうなの?」
「知り合いの社長とかの家に行くと大抵くれる」
「おーぅ、リッチー……」
そして……
――ぐぐぐっ
「うっ……」
「私をいじったバツよ」
ネクタイの最後の工程になり、私がグッと絞めた。そしてすぐに緩める。
「ゴホッ、……びっくりしたー……」
「次はこのくらいじゃ済まないわよ」
ジロリと睨む。すぐにいかがわしい内容に持っていくエロ魔人。
「いじったつもりは無いんだけど……」
「もうその態度がいじっとる」
「誤解だよ」
――ギュッ
「ちょっ……!」
「朝のハグだよ」
ギュッと抱き締められて、緊張する。
「心臓の音が聞こえる……」
「いじったわね」
私のこの早い鼓動を……! 緊張してるのを!
「いじってないよ。好きなだけ……」
そう言って、私の首筋に顔を埋める結ちゃん……
――きゅん
「好きだよ。……聞こえた?」
「うん……」
「恥ずかしい?」
「……静かにしなさい」
「……ふっ……」
「殴るわよ」
「すみません」
抱き締められた手はそのまま。
「か……綺麗だよ。愛してる」
「……」
「愛してるよ」
そ、そんなこと言われても……、本当なら、私も結ちゃんの背中に手を回して、身を委ねて、同じ気持ちを伝えたい。
だけど、どうしても恥ずかしくて。
――チュッ
「ひゃっ!」
首筋にキスをされて驚く。
「玄関で行ってきますのキスは出来ないから……」
「……」
「新婚だよ?」
(そんなこと言われても……)
少し、イメージしてみる。新婚の行ってきますのチューを……
〝結ちゃん、行ってらっしゃい! 早く帰って来てね! ん〜っチュッ!〟
…………無理。
「……ネクタイ選びました」
「え? ああ、そうだね」
「以上です」
「……何が?」
きょとんとした結ちゃんと目が合う。益々恥ずかしい……。
「愛ちゃんは……かわいすぎる」
「……は?」
真顔で言われ、呆気にとられた。
(朝からなんて恥ずかしいのよ!)
……
だけど……
「結ちゃんは……かっこよすぎる……」
たまには……照れを乗り越えて……勇気を出してみる……。
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