表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
157/163

第63話 愛妻との時間

「だめだ……! 頑張っても参考書くらいしか出て来ない……!」

「きみは本当に物欲が無いのう」

「せっかくお母さんが俺に聞いてくれたのに……」

「そんなに真剣に考えなくても」


 当時は恐怖から逃げることしか考えていなかった。

 だから……お母さんの愛情にも、善意にも気付かず、拒絶した。


 それをやり直すために、必死に当時の俺に戻って考えたのだが……。


「勉強しかしてこなかった俺に、オモチャの種類なんか分かるわけ無い」

「うーん……じゃあほら、靴、とか」


 愛ちゃんも一緒になって考えてくれる。


「それもお二人に買っていただいた物だからなぁ……」

「うーん……あ! ほら、じゃあトランプよ!」

「トランプ?」

「うん! 結ちゃん神経衰弱強いんだし、トランプを買って貰ってご両親と一緒にするとか!」

「トランプ……」

「きみは本当にかわいいわねぇ」


 当時を思い出して、お母さんに「トランプ」と言った場合をシュミレーションしていると愛ちゃんに声をかけられる。


「ありがとう……」

「こーんなかわいい結ちゃんを見れて私は最高ですなぁ。でへへ」

「ふっ……言い方」


 愛ちゃんのその言い方がおかしくて、笑う。




 愛ちゃんと一緒にいると、時間が経つのがとても早い。

 コース料理も終盤。デザートが運ばれて来た。


「わー! 豪華絢爛! 良いですな良いですなー!」

「さっきから言い方が……」


 楽しい愛ちゃんにまたしても笑う。


「結ちゃんはよく笑うようになったね」

「え?」

「出会った頃と比べて、心から笑ってるよ」

「そっか……」

「微笑むから笑う、に進化した」

「脱皮したかな?」

「きみも言うようになったのう」

「ははっ! だめだ、耐えられない……!」

「かーわいい」


 愛ちゃんと一緒にいると楽しくて楽しくて……


「幸せだ、ありがとう」

「……お、おぅ」

「ふっ……照れた」

「さ、食べましょう」

「切り返しが上手くなったね」


 幸せだと、改めて思った。




 ✽


「美味しかった、楽しかったー!」

「良かった。安心したよ」

「結ちゃんは?」

「楽しかったよ」

「それは良かった」


 レストランを出て、エレベーターに乗り込む。


「タクシーで帰ろうか」

「……一駅か二駅、歩く」


 そう言って、キュッと腕を掴まれた。


「……めちゃくちゃかわいいんですけど」

「めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど」


 似たような言葉で返して来る真っ赤で、ぶっきらぼうな愛ちゃんに……


 愛しさが溢れて、止まらなくなった。



「かわいい。愛してるよ」



 俺の腕を掴んで、俯いている愛ちゃんにしっかりと伝えた……



 ら、




 ――バシンッ!



「いってっ!」

「恥ずかしい! 言わないで!」

「ここはエレベーター! 密室だよ!?」

「恥ずかしいものは恥ずかしいのよ!」


 真っ赤になって怒ってる愛ちゃんに背中を思いっきり叩かれた。服越しとはいえ、結構痛い。


「ほら、ついたわよ!」

「はいはい。かしこまりました、お嬢様」


 それでも叩いた手で再度腕を掴まれた。愛ちゃんに引っ張られて、エレベーターから出る。


 ロビーにはまだ、沢山の人がいた。


「ばかにしたわね」

「滅相もない」


 人がいたため、怒っていた愛ちゃんのボルテージはスッと引いた。


「前は……恥ずかしいから一生懸命バックの柄を握ってたな」


 独白のように呟いた。


「確かに。そうだったね」

「あ、いじらない」

「俺も状況は見てるよ」


(しっかりと叩かれたあとですから)


 ……というのは後付で、当時を思い出して、微笑ましくなったから。


 俺の隣をひょこひょことついて来ていた愛ちゃんを思い出して。


 縮まって、萎縮しているのが伝わっていた。だけど、俺の側にいてくれて……今は、こうしてギュッと握ってくれる。


「状況見てる割にはいつも地雷を踏んでますよ、お坊っちゃま」

「踏みたいときもあるんだよ」

「何それ」

「日常が幸せだって話だよ」


 エントランスを抜け、夜道を歩く。


「ここは街頭が沢山あって明るいね」

「そうだね」

「結ちゃん、料理美味しかった。ありがとう……」

「どういたしまして。またデートしてね」

「うん……今日……その……」


 愛ちゃんと会話をしながら歩いていると、愛ちゃんが口ごもった。


「ん?」

「今日……楽しかった……。あ、あ……ありがとう……」

「……嬉しいよ、ありがとう」


 きっと……「あ」の後に続く言葉は「ありがとう」では無かったはず。最初の「ありがとう」はサラリと言ってくれたから。


 恥ずかしさで、言えなくなったと想定。


 かわいいな。一生懸命頑張ったけど……と言ったところか。


 気持ちがどんどん燃え盛る、愛しさ。


(この、世界一かわいい愛ちゃんを手に入れたのは俺だ……)


「宣言したくなったな」

「何を?」

「今日は一緒にお風呂に入ろうね」


 世界中の男達に宣言したい。だけど、愛ちゃんの前で公言するのはやめておこう。きっとまた怒らせる。


「いやよ、恥ずかしい」

「えっ!? 今更!?」

「はっ!? 私は最初っから恥ずかしいっつーの!」

「分かった……今日はシャワーだけにする……」

「は?」

「俺は一人だと湯船に浸かれないから」


 心理戦。こうすると、優しい愛ちゃんは……


「湯船には……浸かった方がいいわよ。疲れが取れるから……」

「……」

「……分かったわよ」


 俺の願いを叶えてくれる。


「と、特別だからね?」

「いいの? 無理しなくてもいいんだよ?」

「無理じゃない……。じっくりお湯に浸かった方が……いい」

「うん、確かに。ありがとう愛ちゃん」


 もう最高だ。

ご覧頂きありがとうございました!

高評価、ブックマークもよろしくお願いします♪



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ