第60話 甘いあーまい雰囲気。皆さま耐えられますか!?
結ちゃんとフランス料理に舌鼓をうつ。
「美味しいー。リッチな気分になるね」
「そうだね」
(いやはや、貴方はやはりイケメンですね)
にこやかに会話を楽しみながら、豪華なホテルのフレンチ。料理はもちろんのこと、結ちゃんの背景もかっこいい。
そこに引けを取らないどころかマッチする、エグゼクティブ結仁。
(うーん、この世の極楽じゃ)
「……愛ちゃん?」
「会議は良かったの?」
うっとりしていたら声をかけられた。私は慌てて話を変える。
「うん。遅くなってごめんね」
「社長さんに怒られなかった?」
「うーん……」
「まだうちの子に付けるイチャモンがありますか」
「イチャモンか……」
「違うの?」
「肯定しても良いのか判断が……仕事の流れだからね」
「ふーん……」
「ワンピース、良く似合ってる」
「え……」
「この前俺がプレゼントしたのだろ? 良く似合ってる。綺麗」
「あ……ありがとう……」
真っ直ぐ見つめられ、照れる。恥ずかしい。
(バレたのかと思った。結ちゃんのネクタイの色に合わせた色味にしたのが……)
ひっそりと匂わせペアルック……に、なるように。
だけどそんなこと恥ずかしくてもちろん言えない。
「キヨさんにも……褒めてもらったの」
「そうだろうね。俺の奥さんは世界一綺麗だから」
「おーぅ……」
「まだ照れるんだ」
「からかったわね?」
「滅相もない。愛でたいだけだよ」
甘い、あまぁい雰囲気。服の意図はバレて無いようだけど……。
恥ずかしくなって、目を泳がせる。
(結ちゃんが嬉しそうに私に向かって微笑んでくれてるから……)
出会った頃の食事を思い出して、恥ずかしい。
本当に、男の人と二人きりでの食事が恥ずかしくて恥ずかしくて……どうしたらいいか分からなくて、一生懸命空元気を出していた。
結ちゃんに気に入られたくて、変に思われたくなくて……あわよくば、好いて貰いたくて。
結ちゃんと恋に落ちる方法を探して、恥ずかしい以上の勇気を出して、頑張った。
今、それを思い出して……また、恥ずかしくなった。
「顔赤いよ?」
「お構い無く申し上げます……」
「何それ?」
下を向いたままだったけど、結ちゃんが笑ったのが分かって、下からチラッと見た。
出会った頃と変わらない、優しそうで、女性に慣れた印象。
きっと、周りには沢山の女の子達がいて……そう思っていた。
「結ちゃんは……初めて会ったときから変わらないね」
かっこよくて、優しい。こんな人がこの世の中にいたなんて……。
「そう? どんなだった?」
「……胸に秘めておきます」
「ああ、照れるようなことなんだね」
「は!? 違うわ!」
(……私のアホー! 違わないわー!)
「俺は初めて会ったときからもっと好きになった」
「……」
言葉の衝撃に、口をあんぐり開けて固まってしまった。
「愛してるよ」
……
…………
「はっ……恥ずかしい〜!!」
私は両手で顔をおおって悶える。
(こんな不意打ち耐えられない! 照れる! 照れ過ぎる!!)
「かわい……。初めて会った頃は、こうして感情を出してくれることは無かった」
「一生懸命だったんです!」
嫌われたくなくて、完璧な自分を演じていた。
「だから、今はもっと好きだな。ちゃんと言ってくれるから」
「……」
変に思われないように張っていた虚勢。
(そっか……。結ちゃん相手なら最初から張らなくて良かったんだ)
無理しなくても、良かったんだ。……結ちゃんなら。
「恥ずかしいなら恥ずかしいって言ってくれるようになった。前は〝余裕です〟って感じだったから。言われ慣れてるんだろうなって思ってたよ」
恋愛経験の無い女と思われたくなくて、必死に繕っていた。
それを……結ちゃんに曝け出せるようになって、自然体でいられるようになって……
「私も成長したのよ」
「殿下はさすがですね」
過去の話をされて恥ずかしくて、上から目線で返したら結ちゃんが下手に出てくれてホッとする。
あんなに恥ずかしかったのに。あんなに恥ずかしかったのに。
今、改めて実感した。私、結ちゃんと夫婦なんだな……って。
「で、十時さんは?」
だけどやっぱり恥ずかしくて、話を変える。
(本当なら、私もここで好きって伝えるところなのにぃ!!)
「電話は?」
「……メールが来るくらいかな」
「まだ!?」
あの子、やっぱり諦めていない!
「内容は?」
「なんか取り調べみたいだね」
「内容をお聞かせ下さい」
「取り留めもないことだけど……」
「で?」
「アドバイス出来ることはしてるよ」
「……」
「愛ちゃんが焼くようなことは一つもないよ。十時さんもそろそろ気づくべきだ」
「……何を?」
結ちゃんが甘いまろやかな表情から一転、経営者の顔をになった。
「社会人として、その会社を背負っているということを」
「……」
「会社の印象って、会社が出しているものじゃない。担当として会った人がその会社の全ての印象を操作してるんだ。営業なら営業で会った営業マンの印象が悪いと、その会社の印象も悪くなる」
「……確かにそうかも」
「〝なんだアイツは〟にはならない。〝なんだあの会社は〟となることを、知っておかないといけない」
結ちゃんの顔は険しい。家では見せない、職場の顔だ……。
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