第58話 今度はメール。そしてデートの約束
「ふー……」
長引いた会議もようやく終わった。昼の打ち合わせまでいつもより時間が無い。
(早くご飯を食べよう)
いそいそと愛妻弁当を広げる。
「あ、おにぎり」
本日のお弁当の中身はおにぎりと茎わかめの炒め煮。愛ちゃんのメールを確認すると、早く食べれるようにおにぎりしたと書いていた。
「気が利くなぁ」
しかも、海苔は別添え。俺はどちらでも気にならないのに。
ほっこり。俺の奥さんは優しい。
パリパリと頬張り、メールの返事を返す。癒しのひとときだ。
✽
「「あ、お疲れ様です」」
「ご苦労様」
給湯室で弁当箱を洗って、戻ろうとしていたら、木崎さんと戸塚さんと遭遇した。
「CEOはどんな喧嘩を奥様とするんですか?」
「大人カップルの喧嘩理由を知りたいです」
木崎さんと戸塚さんからキラキラとした目で見られる……。
そんなこと知って面白いかな?
どんな喧嘩……。最近の喧嘩理由は……十時さん? だけど喧嘩では無いよな、あれは。
じゃあ……
〝あんたの子育てがなっとらんのじゃ!〟
「……子育てについてかな」
愛ちゃん大激怒の最初の一言目はこれだった。
「やっぱり喧嘩も高尚ですね……!」
「教育方針が喧嘩になるなんて、さぞ立派な子供さんが……」
「一番下の弟のことだよ」
「やっぱりエグゼクティブは違いますね!」
「弟さんもしっかりお二人で育ててらっしゃるとは……!」
「……そうでは無いんだけど」
……またしても誤解が
「室長とか厳しそうだよね、子育て」
「やだぁ! 気が早すぎよぅ!」
「貶してるの」
「はぁ!?」
……またしても雲行きが
「CEOそのネクタイ素敵ですね」
「え?」
「ほんと! 爽やかで良く似合ってますよー」
怪しくなった雲行きは木崎さんが愛ちゃんが選んでくれたネクタイに話を変えたことで終息した。
「ありがとう。今日は妻が選んでくれたんだ。伝えておくよ。喜ぶだろうから」
これはすぐに伝えよう。絶対喜ぶ。俺も嬉しい。
「えっ! 奥様が?」
「わー! 新婚さんっぽくて素敵ですね!」
「やっぱり嬉しいものだね。木崎さんはどうしてるの?」
「うちのは服に頓着無いんでいつも同じネクタイなんですー……」
「由紀がプレゼントしてあげたら?」
「まずは私服からよ! うちのは! ……だいたいセールだったからって、同じネクタイ三本買ってて、それを毎日ルーティン。CEO、どう思います?」
「堅実な旦那様でかっこいいと思うよ」
「え〜本当ですかぁ?」
「私もダーリンのネクタイを……」
「絶対怒られるから、止めとき!」
「うっ!」
……うーん、確かに黒崎くんは持ち物にこだわりがありそうだ。
✽
午後、打ち合わせが終わり、自席についてメールを確認する。
(登録されてないメール……)
見ると、相手はまさかの十時さん。
何でも今日個人メールアドレスが出来たそう。
「メールの添削か……」
初めての仕事メール。文面が気になるからまずは俺に見てほしいとのこと。
✽✽✽
「やっぱり今日も連絡来たか……」
「うーん……」
仕事を終え帰り着き、愛ちゃんに報告。
「中々精神力が強いとみた」
「電話のときは落ち込んでたようだけど……」
「だから、断られないように、メール、よ!」
「うーん……」
「なんかボルテージ上がってきましたよ、私!」
「ボルテージ?」
「かかってこい! 受けて立つ! みたいな」
「俺のために闘ってくれるの?」
服を着替えて、愛ちゃんを抱き締める。
「……」
「いい匂い。愛ちゃんの匂いだ」
ようやく、俺が俺に戻れる。
「今日も社長に怒られたー」
「また?」
「もう日常だけどさ」
「誰だって怒られるのにいい気持ちはしないよ」
「経営企画課長と人事課長と話した結果を言ったら上機嫌になった」
「……直くんのこと?」
「うん……」
直くんは次の人事異動で副社長になる。
「……嬉しいけど……複雑……」
「直くんももう25歳だよ」
俺の直くんの記憶は小学生すら超えて、幼児で時を止めた。「お兄ちゃん、御本読んで!」と走って寄ってきた直くんのまま。
「この間まで赤ちゃんだったのに……」
直くんに聞いたら、会社を継ぐ気持ちは変わっていないそうだ。随分としっかりとしていて、意思を持って話してくれた……。
もう……俺の助けなど必要ない。立派な大人に成長した。
「う〜。直くんが大人になる〜」
「もうなってる。落ち込まない!」
「嬉しいのは嬉しいんだけどさ……一緒のフロアで働けるし」
「結ちゃん、直くんと一緒に仕事するチャンスだよ!」
落ち込んだ俺を励ましてくれる愛ちゃん。
「そうだね……」
「私は十時さんのことで頭がいっぱいなのよ」
「お互い様だね」
「……明日貴ちゃん友達とご飯食べて帰るって」
「うん。大ちゃん達だろ?大ちゃんママからも連絡来たから間違い無い」
「凄いね、保護者のネットワーク」
「貴ちゃんにお小遣い催促されたし」
つまり、
「明日はデートしましょう、殿下」
俺はかわいい愛妻をデートに誘う。初めての仕事終わりのデートだ。
「うん……会社の下で待ってる」
「手を繋いで歩こうか」
「うん……」
愛ちゃんが照れてモジモジとする。
「木崎さんと戸塚さんがネクタイを褒めてくれたよ」
「えっ!? ほんとに!?」
「うん」
「そっか……! やったー、良かったー、安心したー」
嬉しそうに朗らかに微笑む愛ちゃん。
かわいい。
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