第55話 妻の過去の恋愛模様
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「愛ちゃん」
「……」
「愛子さん」
「……」
愛ちゃんの手を引っ張りレストランに足を運んだ。席についたが愛ちゃんは無言のまま……
「何食べたい?」
なんとかこの状況を打破しようと、優しく尋ねる。
「……」
聞くとメニューを指差しされた。
「分かった。……ここ、今度行こうって約束してたよね」
「……」
「愛ちゃんと一緒に来れて良かった」
「……」
注文して暫し待つ。
何か言いたげな愛ちゃん。
「指輪はしてたから」
きっとお怒りの原因はこれ。
「人が見落とすことにまで俺は介入出来ないよ。ビジネスの場で見せびらかすのもどうかと思うし」
「……」
「今度から、左手をよく使って動かすようにするから……」
今の俺に提示出来る解決策はこれくらいだ。
「……俺が不倫も出来ないように、見張っててくれるんだよね?」
以前、そう言ってくれた。俺の結婚の条件でもあった。
「……あれは私がピチピチの20代の頃」
「え?」
愛ちゃんがようやく口を開いたと思ったら、含みを持たせたナレーションのように話しだした。
「派遣社員の私は一人ポツンと社会人生活がスタートしました」
「うん……」
「同期はおらず、皆先輩。ガチガチに緊張していた私の元に……一人の男性が声をかけてくれました。分からないことがあったら何でも聞いてね、と……」
「うん」
「初めて見る年上のスーツ姿の男性に優しく声をかけてもらい、社会を知らなかった私は酷く心をときめかせたものです」
「ちょっと待って」
今のはこのまま聞き役に徹することは出来ない。
「その男の人のこと……好きとかじゃないよね?」
驚きを抑えつつ、探るように伺う。
「……」
「まさか……初恋……」
「それは違う」
否定され、パッと高揚した。
「そっか。俺は愛ちゃんが初恋の人だよって伝えたよね。愛ちゃんは?」
俺はにこにこと続きを期待する。
「……私の初恋は小学五年生」
「えっ!」
「クラス一かっこいいモテモテの男の子でした」
愛ちゃんの発言に驚き、俺の気分は急降下する。
「私にはもうパートナーがいると思っていたんでしょ?」
「思っていたけど……」
愛ちゃんを手に入れる前と後で俺の気持ちは違う。
愛ちゃんは全部俺のもの。分かっていても、実際には聞きたくなかった。
「私の初恋はアイドルのおっかけみたいなものだから」
「……」
俺の雰囲気が伝わったのか、愛ちゃんがフォローを始めた。
「じゃあその職場の男が本当の初恋なんだ」
「違うよ。中学のときはアイドルグループの一人に肩入れして、この人と結婚するって思っていたし」
「はあ!?」
「当時面食いだったのよ」
「お金は良かったんだ?」
「なんかすっごく棘のある言い方ね」
愛妻の過去の恋愛模様を聞いて、俺のテンションはガタ落ち。怒りすら覚える。
「何怒ってるのよ。手を繋ぐのも隣を長時間歩いたのも、私の初めては全てきみが奪ったんだよ」
愛ちゃんは俺の扱いが上手いと思う。
「私は結ちゃんのものよ。自信を持ちなさい」
「うん……」
骨抜き。俺のテンションは急浮上だ。
「だけど、その話を聞いたら、やっぱり職場の男の人が気になるよ」
「派遣社員を転々としてたから、その都度優しくしてくれた男性社員にときめいてたよ。そのレベル」
「悔しい。俺も愛ちゃんと働きたかった」
「ビジネスで出会った人とはビジネスなんでしょ?」
「愛ちゃんは特別」
「おやまぁ」
「あ、なんか久しぶりに聞いたな」
俺達はベストタイミングで繋がれた。それは理解していても、俺が知らない愛ちゃんの過去があることが悔しい。
俺の愛ちゃんなのに。
「つまり、十時さんもときめいたのよ」
「十時さん?」
急に話が戻った。
「あんなに若くてかわいい子が結ちゃん見つけて、飛び跳ねるように喜んでたじゃない」
「うーん……」
「私が男なら、でへへってなる」
「ふっ……何それ」
愛ちゃんの「でへへ」の言い方が面白くて……つい、吹き出してしまった。
「いいなぁ……愛ちゃんと働いた男の人」
「また話を戻したわね」
「中々流せないよ。俺だって愛ちゃんが入社して来たら、優しく声をかけるよ」
「仕事は?」
「かっこいい所を見せたいから、頑張る」
「もうかっこいいよ」
「……何も無かったんだよね?」
サラッと素面で褒められたため、つい、勘ぐってしまう。
何かまだ隠しごとがあるのでは……。
「独身だと信じていたら、妻子持ち。がーん。終わり」
「は?」
「指輪をしていないだけで、私がときめいたのは既婚者。何もあるわけない」
「……」
「今思えば既婚者だから、余裕があって声をかけてもらったんだろうねー」
「そっか……」
「だから、指輪は相手がいるかどうかのバロメーター」
急に愛ちゃんの目が鋭くなった。
「恋心に火がつく前で終わるか、好きになってから知るのか。ショック度が全然違う」
「なるほど……」
「私は十時さんの気持ちも分かるし、私が男なら、若い娘にムラムラしますよ」
「なんで愛ちゃんが男の気持ちが分かるんだよ……」
愛ちゃんは100%美しい女性。俺が知っている。
「私は結ちゃんが絡んで無かったら、でへへってしてた」
「それ。……やっぱり友田さんのアドバイスどおりだった」
女性同士と言って油断してはならない。
覚えておこう。
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