第54話 若い娘にデレデレしてません?
「わっ! 見てみて結ちゃん! 凄い人!」
人の多さと、店の活気、きらびやかなパン達……私は興奮が醒めない。
が……
「ど、どこまで続くの、この行列」
一体どこから人がやってきたのというくらい凄い人。
少しなら並ぼうと思ったけど、これじゃ……
「俺が並んどくから愛ちゃんどこかで時間潰しておいでよ」
「え?」
あたかも当然といったようにスパダリさんが私に伝える。
「近くなったら連絡するから」
「いやいや……」
「行列に並ぶのは俺の役目だから」
「は?」
「直くんと貴ちゃんと遊園地に行くとジェットコースターが行列だから、二人には他の乗り物に乗って貰ってたり、涼しい場所にいて貰ってたりしてたんだ」
懐かしいことを思い出したようにスパダリさんが目を細めて教えてくれた。
「……そうして乗ったジェットコースターは、格別だろうね」
その光景をイメージして、私は少ししんみりしてしまった。
「俺は乗ったことないよ。二人を乗せたら次のに並ぶから」
「結ちゃん、凄いを通り越してるよ」
「そう? 楽しかったって口を揃えて言う二人に癒やされてただけだよ」
「優しいね」
結ちゃんはいつも自分のことは後回し。
「直くんが成長して一緒に行かなくなって、貴ちゃんも段々とお友達と行くようになったから、もう暫く行ってないけど」
どこまでも弟ファースト。もう少し自分を労ってあげてと思うけど、私は結ちゃんのそんな所に惹かれた。
「好きだなー……」
そんな結ちゃんが大好き。
「ありがとう」
「え?」
……私……今、声に出した? もしかして。
「凄く嬉しい」
恥ずかしいけど、いっか。こうして喜んでくれるなら……。
今みたいに、サラッと言えばいい。
そうして、過去の結ちゃんも私が満たしてあげたい。
「パンは今度また結ちゃんとゆっくり並ぶから今日はいい」
「どうして?」
「結ちゃんと、一緒に待つ」
恥ずかしいから、ちょっとカチコチな言い方になってしまった。
「……分かった。ありがとう」
一瞬驚いて、微笑んでくれた。
好きだな。……好きだなー。
✽✽
手を繋いで、ウィンドウショッピング。
「あれかわいい」
「いる?」
「見ただけ」
デパート内を物色。このスパダリさんはすぐに私に物を与えようとする。
「――CEO?」
後ろから声をかけられ、振り向く。
――と、
「こんにちは。先日はありがとうございました」
「こ、こちらこそ!」
にこやかに挨拶をする結ちゃん、目の前には若くてかわいい女の子。
……まさか、この子が噂の十時さん?
「まさかこんな所で会えるなんて! とても嬉しいです!!」
興奮してる感じ。
「私服もイメージ通りでとってもかっこいいですね!」
……スパダリさんよ、これは気づかなかったってことは無いでしょう。めっちゃ高揚しとるぞ、この子は。
「ありがとう。奇遇だね」
「はい……!」
「あ、こちら、僕の妻の愛子です。こちらはこの間の会食相手の秘書の十時さん」
スパダリさんが紹介する。やっぱり……
「はじめまして。いつも主人がお世話になっております」
「え」
「お話は伺っております。期待されている秘書さんですと。優秀なんですね」
にっこりと外面良子で挨拶するも、少し、圧力が入ってしまったかも。
「……」
「十時さん?」
俯いて、黙り込んでしまった十時さんに結ちゃんが声をかける。
「指輪……」
「え?」
「今日はしてるんですね」
(……は?)
「先日お会いしたときは、結婚しているとは……」
「え?」
「っすみません仕事時間外に! それじゃあ失礼します!」
「あ……うん、仕事頑張って……」
震える声を止めて、空元気な声と共に背中を向けて走り去って行った……
…………。
「……ッいって!」
姿が遠くなった所で私は結ちゃんの背中をつねる。
「な、何? どうしたの愛ちゃん……」
私は結ちゃんを見ずに真っ直ぐ前を向いたまま。
「……お、怒ってる? ……っ!」
恐る恐る聞く結ちゃんをキッと睨みつける。
「きみは指輪をつけたり外したり自由自在か」
「ち、違うって! 絶対十時さんの見落とし……!」
「あんたが買ったやたら高い結婚指輪の輝きはそう簡単には見落とさない」
「いや、知らないって! 潔白だよ!」
「よーく分かった。私が少し外そうもんならブーブー言ってたのに随分と自分勝手なことで」
「わ、分かってないよ! 少しは俺を信用してよ!」
分かってる。だけど結ちゃんが黒かなんてもうどっちでもいい。
「若い娘にデレデレしやがって、このジジイ」
「はっ!?」
〝もう女として見れない! 別物!〟
姉さんに言われた言葉を思い出す。私は自分に自信が無い。
目の前に、若くて、かわいい女の子がいて……
〝あ、負けた〟って思った。
それが……また悔しくて悔しくて……
結ちゃんに悪態をつくことで、自分を守っている。
そしてまたそれに
……惨めになる。
結ちゃんに対する罪悪感と共に。
「なんでそんなに俺のことを信用しないんだよ」
「……」
結ちゃんの怒ったような声。分かってる。結ちゃんは何も悪くない。
悪くないから、怒ってるの。
「お昼……食べに行こう」
つねった私の手をスパダリさんが握り、歩き出した。
私は俯いて何も答えられない。
本来ならここで怒るのは結ちゃん。それなのに私はまた甘やかしてもらった。
だけど今更どうしたら良いか分からなかった。
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