第53話 愛妻の膝枕は最高です
「それは、片思いだな」
家に帰り、愛ちゃんに今日の出来事を報告。
十時さんからの電話は午後からも数回続いた。
仕事の話は無く、内容は特に無く……。
「好かれるようなことをした記憶は無いよ」
「出た出た」
「そんなに焼かなくても」
「……腹黒大魔王」
「あ、なんか久しぶりに聞いた気がする」
上着を脱いで、ネクタイを緩めた所で愛ちゃんを抱きしめる。
「仕事の話はもういいよ。俺は今リラックスタイムなんだ」
愛ちゃんに抱き着いて、脱力。一日の疲れがスーっと引いていく。
「きみは危機感がないのう」
「ふっ、何それ」
「分かっとらんのう、きみは」
「ははっ」
楽しい言い方に、つい、笑ってしまう。
「結ちゃん、貴方は私に危機感が無いと言う前に、自分が気をつけなさい」
「はーい」
「理解してから返事をしなさい」
「愛ちゃんと一緒にいたら、脳が回らないよ」
「何よ、それは」
家に帰って、愛ちゃんの匂いを嗅いで、ようやく全ての重圧から解き放たれる。
ふわふわと夢心地だ。
「お弁当美味しかった」
「高野豆腐はね、体内の毒素を排出する力があるんだって」
「また食べたい」
「簡単だから今度また作ってあげるよ」
「うん」
「レパートリーが切れて副菜が素材を詰めるだけになっちゃった。ごめんね」
「俺は全然気にならないよ」
「食事に文句を言わない夫で良かったよ」
「愛ちゃんが出してくれるものは全部美味しい」
「まー、よく出来た子ですこと」
「褒められた」
「……結ちゃん、重いよ」
抱き着いてそのまま体重を預けていた。
俺は愛ちゃんの前では大きなベイビー。
「服着替えて、愛ちゃんの部屋に行こう」
今日は甘えよう。
✽
「結ちゃん、今日もお仕事お疲れ様。よく頑張ったね。偉い」
「うん」
十時さんとの会話で新入社員だった頃の自分を思い出してしまって、愛ちゃんに甘えている最中。
つまり、膝枕です。
ソファーに座っている愛ちゃんの膝の上に頭を乗せて、仰向けで目を閉じてリラックス。
こうなればもう、愛ちゃんはお母さんモードで甘やかして、褒めてくれる。
「結ちゃんは甘えん坊ねぇ」
「うん」
「よしよし」
頭を撫でられて、その心地良さにうとうとする。
「で、その十時さんとやらは要件は何だったのよ」
「うーん……さあ」
「ずっと無言電話?」
「……っていうわけにもいかないから、俺が質問したり」
「何それ」
「で、そうしたら向こうも話してくれて、そこからアドバイスしたり」
「あーあ。それよ」
「どれ?」
何を指すのか俺には分からない。
「結ちゃん、貴方はとてもモテるのよ?」
「誇らしい?」
「今は心配」
「俺と一緒だね」
「20代のギャルはさぞピチピチしてるでしょうから」
「……なんか言い方が」
「若い子に鼻の下を伸ばしちゃだめよ」
「愛ちゃんがこのままキスしてくれたらしないよ」
目を閉じたまま伝える。別に意味があったわけじゃない。
俺は愛ちゃん一筋。ビジネスで知り合った人はあくまでビジネスだ。
ただ……これで愛ちゃんからキスしてくれたら、と思い、引き合いに出した。
――チュ
「どうじゃ」
唇に触れた瞬間離れた、キス。
「……」
「何を不服そうにしてるのよ」
「そりゃあ……」
してくれるとは思わなかった。だから、してくれて嬉しかった。……だけど、もうこのくらいじゃ俺は満足出来ない。
「もうちょっと濃厚なのをお願いします」
「疲れてないみたいだから、降りなさい」
「もう何も言いません」
俺達の力関係はこういう所で出る。あーあ、残念。
「私も職場に慣れるまでは苦労したなー」
「うん」
「何か一つするにしても、いつもビクビクしてたな」
「そっか……」
「結ちゃんって、本当に凄いよね」
「何が?」
「私はそんな状況で耐えられない」
愛ちゃんに入社当時のことを言ったら、労ってくれた。
「大体、手続きがまずよく分からない」
「うん……」
「私って本当に無知だ……」
「俺が知ってるから大丈夫だよ」
「頼りにしてますよ、旦那様」
「……まさか俺がそんな風に呼ばれる日が来るとは思わなかったな」
「こんなにかわいいのにねぇ」
「かわいいも初めて言われたよ」
「スパダリさんは外ではかわいい所を見せませんから」
「そう?」
「かわいい、かわいい。結ちゃんはとってもかわいい」
「褒められた」
「よしよし、よーしよしよし」
「なんか俺犬みたい」
「ポチ? タマ?」
「……俺の名前?」
「結ちゃん肌綺麗ね」
「愛ちゃんのご飯がいいんだよ」
他愛もない話をしながら愛ちゃんに頭を撫でられて夜が深ける。
明日は土曜日。
貴ちゃんは早朝からまた遠征。大学まで荷物を持って貴ちゃんを連れて行ったら、俺の役目が終わってしまう。
愛ちゃんと二人。デートだ。
✽✽
「さて結ちゃん、どうしますかね」
翌日、愛ちゃんと共に外出。特に決まった用事は無い。
「よし結ちゃん、運動も兼ねて歩こう! 痩せよう!」
「うん、いいよ」
愛ちゃんと手を繋いで街を散策。俺の横にぴったりとくっついて歩いてくれる。
「あ、あのお店この前テレビでやってたよ! パン!」
「買おうか」
「うん!」
出会った頃と違い、俺の手をしっかりと握って率先して歩き、瞳をキラキラとさせてパン屋を目指す愛ちゃん。
なんとも愛しい気持ちになる。
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