第51話 新入社員
「黒崎くんって俺のマル秘情報知ってる?」
「実務に関係ない話は慎んで下さい」
俺のマル秘情報を知りたがっていた愛ちゃんに、なんとか情報を作ってあげたいのだが……
「そんなことより、本日の会食ですが……」
「ああ」
今日は事業拡大のため、以前パーティーで知り合った別会社の社長と会食の予定だ。
寂しがってくれる愛ちゃんには悪いけど、今日は夕飯は別。
遅くなるかも知れないから先に休んでもらうようにしている。
✽✽
「ご無沙汰しております、CEO」
「こちらこそお時間を頂戴し、ありがとうございます」
会食となり、お互いにこやかに挨拶。
俺と黒崎くん、相手側の社長と……
「は、はじめまして……! 十時と申します……」
初々しい、若い女性……
「この度の人事異動でね、新卒のこの子を秘書に抜擢したんですよ」
「そうでございましたか」
俺と面識のあった秘書さんではなく、新人さんらしい。
「これから宜しくお願い致します」
新卒かー、と懐かしいことを思い出しながら名刺を渡し、挨拶をした。
✽✽
「――では、そう致しましょう」
「宜しくお願い致します」
会食も終盤、今後の話も上手くまとまり、そろそろお開きといったところだ。
「あれ? うちの十時はどこに行ったかな」
「私が探して参ります」
「あ、私が。黒崎くんは残っていて」
黒崎くんは人当たりのよいタイプでは無い。ここは、俺が行こう。
「十時さん?」
部屋から出て探していたら、廊下でうずくまっている女性を発見した。
「あっ……」
「具合悪いの? 大丈夫?」
「すみません……お酒飲めなくて……」
俺もしゃがみ、目線を合わせる。見ると青白い。
……そうだよな。4月入社なら入社してまだ数日。それがいきなり社長秘書、しかも夜の会食とは……。
「だけど、具合悪くなったなんて……知られたくないんです……」
「大丈夫だよ。言わないから」
「……すみません」
「期待されているんだろうね。社長から」
「私……秘書になると思ってなくて……もう……続けられるか……」
新入社員、出来上がっている組織に入り、これまでと違う生活を送る。
真面目な人であれば尚更、この変化はきついだろう。
「……まずは一週間だよ」
「え……?」
「一週間頑張ってみて、次は二週間……そうやって自分の中で設定して、そして先ずは一ヶ月やってみたらどうかな。そうすれば、何かが変わるかも知れないし」
両親が亡くなり、3月末で急遽決まった俺の入社。
小さい弟の世話と、色々な手続き、慣れない環境に冷めた目。俺は当時、何度も胃液を戻していた。
「あんまり難しいようなら人事課とか……そっちの会社のシステムは分からないけど、相談出来る人を探して相談したら良いと思うよ」
「はい……」
「戻れそう? もう少し休む?」
「あ、も、戻ります……」
「社長が心配してたよ。新入社員は大変だよね」
「ありがとうございます……」
少し話して、顔色も良くなって来た。
「あー、戻って来たか」
「あっ……席を外して申し訳ございませんでした」
「社長、そろそろ良いお時間でございますから、また是非私と二人で食事をしませんか?」
「なんだ、今日はもう行かないのか?」
「明日も早朝ミーティングなんです。残念ですが、今度またゆっくりとお時間を頂きたいと思います」
「ああ。私が今日しか時間が無かったから……すまなかったね」
「いいえ、こちらこそ。良い事業になりそうで――」
挨拶をして、お開き。
社長と十時さんを乗せたタクシーを見送り、俺と黒崎くんもそれぞれ帰路についた。
✽✽
「それ、結ちゃんに惚れたな」
一次会でお開きとなったため、早く帰り着いた俺を愛ちゃんが出迎えてくれた。
「新卒ってことは20代前半くらいだよ」
「大人の男の魅力にやられてるはず」
今日起こったことを愛ちゃんに伝えると、そう返事が返ってきた。
「焼きもち?」
俺は嬉しくなって愛ちゃんを抱きしめる。
「そうだよ。結ちゃんはなんせジェントルマーンですから」
はぐらかされると思えば、肯定された。
「そう?」
「貴ちゃんのこと……ありがとう」
「解決したなら良かった」
「……ジェントルマーン」
照れて、不貞腐れたように言う。
「あーかわいい」
「違うもん、戸塚さんが言ってたの」
「戸塚さんが?」
「CEOは家でもジェントルマンですかって」
「そうなんだ。外面良男?」
「早く寝たら? 早朝ミーティングなんでしょ!」
「無いよ、早朝ミーティングなんて」
あれは、辛そうな十時さんを早く返すための措置。社長とはまた今度二人で飲みに行く約束もしたから大丈夫。
「外面良男」
「あ、やっぱりそうなんだ」
悪態をつきながらも、愛ちゃんが俺に腕を回してくれた。
「俺は愛ちゃんのものだから」
「……」
「指輪もしてるし」
俺の左手の薬指には愛ちゃんとお揃いの結婚指輪がある。カモフラージュでもなんでも無い。正真正銘、俺は愛ちゃんのものだ。
「こんなに早くなるとは思わなかったな」
「そうね」
「どうします? 殿下」
「……」
俺は愛ちゃんを誘う。
「ちゅっ」
「んっ……」
軽くキスをすると、愛ちゃんも応えてくれる。
「愛ちゃんの部屋に行こうか」
遅く帰って、添い寝だけだと思っていたけれど、これはこれで、頂いたチャンス。
「好きだよ」
今日も俺は愛ちゃんと夜を過ごす。
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「戸塚さんが言っていた」の件はシリーズ小説
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