第48話 仲直り
お昼になり、お弁当を広げる……
と。
「……アホ?」
愛ちゃんのボルテージは下がっていない。それを思わせる日の丸弁当。
その両サイドに海苔で描かれた、「ア」と「ホ」。
「……めちゃくちゃかわいいんですけど」
その作っている光景を思い浮かべて、思わず笑みが溢れる。
愛ちゃんは料理をばーんと作って、どーんと出す。
そんなダイナミックな愛ちゃんが、きっと一生懸命考えて、海苔をカットするという緻密な作業をしていると考えると……。
「あー……見たかったな」
おそらく、手をプルプルと震わせながら、きちんと俺に文字が伝わるように目を一生懸命見開いて、乗せたはず。
「か、かわいい……」
イメージだけで、眼福。それをおかずにご飯が食べられる。
――カシャッ
取り敢えず、記念に一枚。初めてお弁当を作って貰った日から、俺は欠かさず愛妻弁当を記録に残している。
と、
「あ、醤油がちゃんとかかってる」
これと言った味の無い焼き海苔に少し、醤油が感じられる。
意地っ張りな愛ちゃんの心配り。
「愛されてるなぁ。俺も」
〝梅干しとご飯があれば生きられる〟
つまり、俺に死慣れたら困るということ。
〝今考えると、海苔もつけてあげたら良かった〟
だから、今回はつけてくれた。
あんなに言い合って、火に油を注いだと思っていたのに。
「かーわいい」
今日帰ったら、謝ろう。喧嘩は負けるが勝ちだ。
俺が謝ると、優しい愛ちゃんは「私が勝手に怒ってたのに謝らせてしまった」と、俺に益々優しくなる。
俺はそこを狙っている。
今日はケーキを買って帰ろう。
✽✽
「お兄ちゃん! おかえりなさい」
「結仁さん、おかえりなさい」
「ただいま」
家に帰り着くと、かわいい二人が出迎えてくれた。
一気に仕事の緊張感が解ける。
「今日はケーキを買って来たよ。晩ごはん食べたらみんなで食べよう」
「ケーキ!! やったー!!」
二人の前にケーキを差し出すと、貴ちゃんが取り、駆け足でダイニングまで行った。
「愛ちゃん、俺が言い過ぎたし、言い方がきつかった。反省してる。ごめんね」
二人きりになり、俺は謝る。
「……結ちゃんは悪くないもん」
「え?」
一番検討外な、落ち込んだ声。
「また結ちゃんに先を来された……」
「何を?」
「私が先に謝るはずだったのに……」
落ち込んで、拗ねたような、困ったような、声。
なんなんだいったい。このかわいさは。
「愛ちゃんが怒ってなくて良かった。仲直りしよう」
「……うん」
「好きだよ」
「うん……わ、私……も……」
「お兄ちゃーん! 愛ちゃーん! 早くー!」
「「……」」
続く言葉を待っていたら貴ちゃんから催促の声が。
「あーあ。残念」
「……」
「続きはまたあとのお楽しみだね。行きましょう、殿下」
俺は靴を脱ぎ、愛ちゃんの手を取る。
「……」
言葉は無いものの、そっと握り返してくれた。
愛ちゃんは真っ赤な顔のまま、俯いている。
ああ、かわいい。
――疲れも吹き飛び、穏やかな気持ちに包まれた。
✽
夜も深まり、俺は愛ちゃんの部屋へ来訪。
「結ちゃん、ケーキ美味しかった……」
「良かった。また買ってくるね」
愛ちゃんはなんともしおらしく変貌。
部屋に招き入れてくれて、俺はソファーに座る。
「結ちゃん……」
「どうしたの?」
しおらしい愛ちゃんが俺の膝の上を跨ごして、抱きついて来た。
「俺がいなくて寂しかった?」
ぴったりと密着する身体を抱きしめて、更に密着する。
「――うん、寂しかった」
「……わーお」
ストレートに言われ、驚く。
(なんか……しおらしいを通り越して、落ち込んでる?)
「結ちゃんがいないと……ね、眠れない〜」
「へ?」
俺に抱きつく愛ちゃんの表情は見えない。
「うっ、ぐすっ……」
だけど、
泣いてる?
「うっ……昨日だって……待ってたのにぃ……」
「ごめん……」
「なのに私また怒った。良い奥さんになるって言ったのに……」
「良い奥さんだよ」
なんとも堪らない気持ちになって、愛ちゃんを抱きしめる手を一つ動かし、背中を撫でる。
「お弁当……ごめんなさい……」
「かわいかったよ」
今日は会議やら何やら色々とあり、張り詰めた環境だった。
そんな中、お弁当を一目見て、笑った。
「一生懸命作ってくれたのが分かった。美味しかったよ、ありがとう」
「うぅ〜……」
「あー、かわいいな。俺のお姫様は」
「うっ! う〜……」
「間違えました。殿下は綺麗です」
「結ちゃん……ごめんなさい……」
「俺は何も怒ってないよ」
表情は伝わらないけど、心を込めて微笑む。
こんなにも甘えてくれる愛ちゃんを見ると、
たまには喧嘩もいいなぁと思った。(もちろんいつも仲良しで甘えてくれたら、それが一番だが)
「俺の方こそ、言い方がきつかった。ごめんね」
俺はこれまで、喧嘩という類をしたことは無い。相手のペースに乗らないようにして避けてきた。
だから、喧嘩も愛ちゃんが最初で最後だと思う。
愛ちゃんの前では感情的になってしまうけど……
俺が素を出せるのは愛ちゃんの前だけ。
愛ちゃんしかいない。
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