第45話 私はツンデレではありません
「結ちゃん、今日はごめんなさい」
家に帰り、貴ちゃんがお風呂に行ったタイミングで謝る。あんなに血相変えて貴ちゃんを探す結ちゃんを目の当たりにして……
黙っていた、罪悪感。
「貴ちゃんだろ。いいよ、終わったことだから」
そういう結ちゃんの背中は殺伐としたオーラが出てる。
「……絶対怒ってる」
「怒ってない」
「背中が怒ってる……」
この男は怒らせると結構恐い。
今更ながら、怒らせた恐怖が……。
「……最初からデートだって知っていたんだろ?」
その声はいつもより恐い。
(……やっぱり怒ってる)
「食事だけって言うから、世の中には異性の友達が沢山いる人種もいるし……」
そう、私が男友達と呼べる人がいなくて、男性と二人で食事となったら身構えるだけ。
それを貴ちゃんから指摘された。
モテなかった女と思われたくなくて、流した。
それが、この結末。
「俺がしっかりしてなかったのが悪いから。貴将はまだ大学生なんだし」
「何よ、私に任せたのが悪いみたいな言い方じゃない」
反省してたのに……。
「何かあったら、こういうのは100%男が悪いんだから」
「……もう少し貴ちゃん信じてあげたら?」
なんか……ムカムカして、言い返してしまった。
「信じてるよ。うちのかわいい貴ちゃんは好奇心旺盛だからね」
「それを信じてるって言うの?」
「……貴ちゃんの常日頃の言動と照らし合わせているだけだよ。貴ちゃんは優しいから、無理やりでは無いにしろ、何かあってからじゃ遅いから」
「あっそ。もういい」
話す気にもなれない。確かに黙っていたのは私だけど、あんな小馬鹿にされた言い方されたらさ……。
今時の若い子はジェンダーレスなんだなって、思うのも当然じゃない。
「もういいって、絶対思ってないだろ?」
結ちゃんのその言い方に腹が立つ。あー、もうっ!
「〜〜! あんたの子育てがなっとらんのじゃ!!!」
叫ぶ。渾身の大絶叫。
(人を掌の上で転がす所は、絶対、腹黒大魔王のこいつ譲り!)
「愛ちゃんが隠してたのと俺の子育てと何の関係があるんだよ!」
結ちゃんのボルテージにも火が着いて、ついに私達の仁義なきディスカッションが始まった――
✽
――ザー
結ちゃんと別れて、一人でシャワーを浴びる。
(あー、一人でお風呂ってなんて気楽なのかしら!)
まだボルテージが収まらない。
あれから貴ちゃんがお風呂から出てきたため、私はディスカッションを終了した。
――ざぶんっ!
「あー、一人でお風呂って広くて快適ー!」
湯船に浸かり、悪態をつき、一息。
「貴ちゃん変なこと告げ口してないでしょうね」
〝愛ちゃんがえっちな女の子だってお兄ちゃんに……〟
……別に今更か……
というより、そこじゃない。
この年で男女の関係が、恋人にしろ、友達にしろ、言える実話が無いことを、貴ちゃんに悟られたく無かっただけ。
男友達すらいないとか、交際経験無いとか……14歳下にバレたく無かった。
「やっぱり結ちゃんに伝えるべきだったな……」
そうしたら、こんなことにはなっていない。
「――〜〜! で、でも! 結ちゃんだって貴ちゃんが女の子と会うって知ったら、えっちな方向を心配してたし!!」
やっぱり、私がそう感じてもおかしくないよね!?
「そもそも貴ちゃんがデートって言うから……」
〝女の子と二人だよ?〟
「あんな言い方されたらさ……」
……結ちゃんとのデートは夜遅くてもプラトニックだったな。
それでも、私の中ではデートだった……。
「ぅう〜……」
この家にいて、結ちゃんと一緒にいない夜は滅多に無い。
結ちゃんがいない。それが……
「寂しい……」
一人でお風呂も入れなくなってきた……。
「…………いいや! 私は悪くない!!」
――ざぶんっ!
湯船から勢い良く立ち上がる。
(寂しがり屋な結ちゃんは絶対、一人じゃ眠れないはず!)
ここに来て、膝まずいて謝ったら……
「ゆ、許してあげてもいいけど……?」
✽✽✽
――ピピッピピッ、ぱんっ!
目覚まし時計が鳴り、止める。
「……一睡も出来なかった……!」
(なんで!? どうして来ないの!? 結仁さん!!)
お風呂から出て、髪を乾かして、ウロウロして、ベッドに入って、ゴロゴロして……
ずっと待ってたのに。
「……う〜!!」
ちゃんと結ちゃんのスペース開けておいてあげたのに……。
「〜〜あー、もうっ!!」
――ばさばさっ!
ベッドの半分が綺麗なままなのが悔しくてぐちゃぐちゃにする。
「はー、はー! ……っ! ま、待ってなんかないんだから!!」
絶対、一睡もしてないのは結ちゃんの方!
「意地を張るから……よっ!」
私は勢い良く立ち上がり、ベッドメイキングを開始した。
(朝、寝れていない結ちゃんの可哀想な顔を見たら……)
「ゆ、許してあげてもいいけど?」
私は身支度を始める。
「お母さんがいなくて一睡も出来なかった結ちゃんに、まー、お弁当豪華にしてあげても良いけどっ!?」
✽✽
リビングの扉の前に立って、息を整える。
(さー、リビングで新聞読んでる結ちゃんに挨拶でもしてやるか!)
いつもなら結ちゃんは、私の部屋を出たあと、ここで再会する。
(普通に……挨拶してあげよう……)
しょうがない。寂しい一夜を過ごした結ちゃんを許してあげよう。
――カッチャ……
リビングの扉を開ける。――いた。
私はにっこりと笑顔を貼り付ける。
「おはよう」
ご覧頂きありがとうございます(^o^)
愛ちゃん、あまのじゃーきー(天邪鬼)
結仁お兄ちゃん、結構大変です(笑)
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