第44話 過保護で何が悪い!
本当なら、このまま一緒にお風呂に入っていちゃつく流れだが、そうは言っていられない!
俺は保護者なのだから!
「あ〜……23時くらいに帰るって言ってたよ」
「23時!?」
今日もラグビーの練習があったはず、明日もある。
いつものメンバーで食事なら、だいたい21時半には帰って来て明日に備えるはず……!
「愛ちゃん、さっき何か隠したよね……?」
「見逃して下さい」
「……貴ちゃんに電話しよう」
奥さんには強く出れない。
だが、何かあったら大変だ!
「あ、や〜……もう帰って来てるんじゃない?ほら、ここは貴ちゃんの部屋から遠いし」
「いや、それなら分かるはず!」
俺は貴ちゃんの携帯電話を鳴らし続ける。
「……出ない!」
「もう貴ちゃんも成人してるんだし……」
「いくつになっても子供は子供だよ!」
お母さんが「貴ちゃんは末っ子だから、いくつになっても赤ちゃん!」って言ってお父さんと喧嘩してたくらいだし!
「……大ちゃんに電話しよう」
「大ちゃん?」
「幼稚園から一緒の子だよ。食事メンバーには絶対、大ちゃんが入っているはず……!」
「……」
「……大ちゃんも出ない!」
なんで!? もしかして事件か事故に巻き込まれたんじゃ……!
「大ちゃんママに電話しよう!」
「結ちゃん落ち着いて!」
「落ち着いてなんていられないよ! うちの貴ちゃんにもしものことがあったら俺は死んでも死にきれない!」
「あ〜っと〜……」
「……あ! こんばんは。夜分遅くに申し訳ございません」
大ちゃんママに電話すると、すぐに出てくれた。
「大ちゃん帰って来てますか?」
『え? うん。今お風呂に……あ、今出てきたわよ、大樹ー』
「大ちゃん! 貴ちゃんとご飯じゃなかったの!?」
『え? あいつ今日デートだって……あ』
「デートぉ!!?」
信じられない言葉が飛び出し、ばっと愛ちゃんを見るとカクカクと面白いダンスを踊っている……。
(グルだな)
「どこに言ってるか知らない!?」
『いや〜そこまでは……』
「分かった! 大ちゃんありがとう! お母さんにも宜しく伝えて!」
『うぃーっす』
俺は大ちゃんとの電話を終える。
「……ちょっと探してくる」
こんな夜更けに女の子と二人なんて言語道断!
「宛もないのに!?」
「……貴ちゃんは渋谷、原宿近郊に生息してる!」
「生息って……」
「愛ちゃんは先に休んでて!」
「わ、私も行くよ!」
「いい! グルなんだろ!?」
先程までの恩はどこへやら。俺は愛ちゃんに鋭い目つきで見る。
「グルじゃないよ! 私ちゃんと言ったもん! お兄ちゃんに隠し事しないって!」
「……」
「23時までには帰るって……家を飛び出したの」
そこまで聞いて、少し冷静になる。
取り敢えず、事故や事件の可能性は低くなった。
――ブー、ブー
「っ貴ちゃん!?」
俺のスマホが震え、一目散に電話に出る。
『も〜お兄ちゃん、何だよ! 大樹からも電話かかって来ただろ!』
「今どこ!」
『え〜……お兄ちゃんには言えない所!』
「今すぐ家に帰っておいで!!」
こんな夜更けに! 女の子を連れてるなんて!
『まーたお小言かよー』
「……迎えに行くから。一緒にいる女の子も」
いつもの貴ちゃんの声に、冷静になった。
亡き両親から預った、宝物。
かわいいだけではいけない。
俺は直くんと貴ちゃんを立派に育て上げて、両親に恩返しがしたい。
これが……親不孝者の懺悔だ。
✽✽
愛ちゃんと一緒に貴ちゃんに指定された場所まで車で迎えに来た。
「貴ちゃん!」
まだ外灯は明るく、若い子が沢山いた。
「愛ちゃん、約束が違うよ!」
貴ちゃんは愛ちゃんに当たる。一言言いたいが、ここは一緒にいる女の子の方が優先だ。
「こんばんは。貴将の兄です。こんな遅くまでごめんね」
他の大学のラグビー部のマネジャーだったか……。
貴ちゃんの歴代の好きになった子と違って、随分と大人しい感じの子だ。
「いいえ……」
「ごめんなー、俺の兄ちゃんくそ真面目でくそ過保護だから!」
「……今日は貴将と遊んでくれてありがとう。もう夜も遅いから、帰ろう。送るよ」
なんか……グイグイ行くと流されそうな子だな。貴ちゃんは優しいから大丈夫だとは思うけど……。
「あ……で、電車で帰れます……」
「夜も遅いから。親御様に挨拶もしたいし」
うちの貴将が大事なお嬢様を連れ回した。ここは100%、男側の保護者が謝罪しなければ。
「ひ、一人暮らしですので……」
……そうか。
ここは東京。大学生ともなれば、親元を離れて上京している子もいる。
皆幼稚園から一緒の子しか知らなかったから分からなかった。
「……じゃあ尚更。家まで送るよ。女の子がこんな夜更けに一人で帰ったら危ないから」
「……」
大人しい子だな。貴ちゃんのタイプは年上。更にハキハキしたエネルギッシュな人とか、ゴージャスなお姉さん。
……なんか、大丈夫かな。
「……いきなり僕が出てきたからびっくりさせたね。貴将とせっかく遊んでくれていたのに、悪かったね」
「……」
喋らないが、首を横に振る。
これまでの貴ちゃんの周りにはいなかったタイプ。
なんか益々申し訳ない気持ちになった。
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