表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/163

第43話 甘えて、覚醒。俺は失態を侵した

「直くんと貴ちゃんになりたかった……!」


 涙が止まることなく溢れて来て、言葉も一緒に溢れて来た。


「羨ましい……羨ましいよ……!」

「そうだね……」


 愛ちゃんから抱きしめられて、俺は止まらなくなる。


 立ち上がると褒められる直くん、寝返りをして拍手喝采の貴ちゃん。


 俺はどうせ他人。二人とは違う。



 ……俺はどんどん卑屈になっていった。



 何とか気を引こうとして、一生懸命勉強した。自分が出来る身の回りのことを全てした。


 〝100点!結ちゃんは凄いね!〟


「う〜――……」


 せっかく褒められたのに……


 〝ご不快に思われていないようなら安心致しました〟


 嬉しさは感じなかった。


「うぅ……うっ……」


 次のテストまで首が延びたと安堵しただけだった。


 〝直くん凄い!お絵描き上手だね!将来画伯になれるぞー!〟

 〝わー!貴ちゃん、たっち出来たねー!凄い凄い!〟


 ……いいなぁ。二人は褒められて……


 いいなぁ。


 いいなぁ……。



 どうせ……俺は他人だから。



 〝結ちゃん、無理しておじいちゃんの約束を守らなくてもいいんだよ?〟


 ――……俺は廃棄されるんだ……。




 ……俺は親不孝者だ。




「お父さんとお母さんに謝りたい……」

「お二人とも……ちゃんと分かってるよ……」

「もう……勉強も疲れた……」


 俺は元々、経営者になりたかったわけでは無い。


 〝成れの果ては商人か〟

 そう言って、経営者を見下す人の中で育って来たのだから。


「疲れた……寝たいよ……」


 今では無い。当時の思いだ。


「寝たいよ……」


 けれども、寝たいのに寝れない。恐怖と勉強で。


「楽になりたかった……」


 その〝楽〟が何なのか分からなかったから、暴力が無い分、ここでの生活は楽だった。


 けど……

 直くんと貴ちゃんを見て、分かった。



 血の繋がった両親に愛されて育つ子供は……こんなにも幸せなんだ……。



 俺には、いない。



「もっと早く……直くんに伝えないといけなかったのに……」

「直くんは分かってるよ……」

「俺が……! お父さんとお母さんを拒絶したから……!」

「そんなことない……そんなことないよ……!」

「俺が……! 全部悪いんだ……!」


 もう自分を貶さないと決めていたのに。それを誓った最愛の奥さんの前で、それを裏切る。


 自分でも自分を止めることが出来ない。


 またしても後悔がのしかかる。



「結ちゃんは悪くない」


 幻滅させたと思っていたら、凛とした声が響いた。


「私の結ちゃんは、何一つ悪くない……!」


 その声と、言い方が……お母さんにとても似ていて……


「……ごめんなさい……」

「結ちゃんは謝らないといけないこと、一つもしてないよ」

「……」

「一つもしてない……!」


魂のこもった言い方に心が救われて……


「う……ぅ……」

「……結ちゃん……直くんと貴ちゃんのお兄ちゃんになってくれて……ありがとう」


 そう言う愛ちゃんが、本当にお母さんに重なって見えて……


 〝ねぇ、結ちゃん。この子のお兄ちゃんになってくれる?〟


 ――お母さん、お父さん。


「……僕に……家族を作ってくれて……ありがとうございました」


 〝兄……で、ございますか?〟

 〝そう。……弟とは思えないかな?〟

 〝それは……私が決めることではございません〟


 いつも、いつも……俺から拒絶したんだ。


 〝旦那様、奥様から与えられたお役目ならば、それに従うだけにございます〟

 〝そう……〟

 〝……勉強がありますから、これで失礼致します〟


 違う、そうじゃない。


「……ごめんなさい……」


 愛ちゃんは何も言わずに俺を抱き締めて、背中を優しくとんとんとしてくれて……


「ずっ……う……」


 俺は当時の思いと共に、愛ちゃんに抱き着いて……


 思う存分泣いて、



 ――甘えた。






 ✽✽


 思う存分泣いて、そしてふと、我に返った。


「……今、何時?」


 俺は愛ちゃんに抱きついたまま尋ねる。


「え?……あ、22時前だよ」

「22時!?」


 俺はガバッと顔をあげる。


 目の前には、涙を流す愛ちゃん。


「愛ちゃんが泣いてる」

「……当たり前だよ」

「俺のため?」

「他に誰がいるのよ……」


 俺の弱音を拒絶せずに聞いて、受け止めて、癒やしてくれる。


「ありがとう……」


 感謝と愛しさが募る。


 俺は愛ちゃんの頬に触れ、涙の痕をキスして、舐め取って行く。


 俺のために泣いてくれた、証。


「んっ……結ちゃんも……」


 そう言って、愛ちゃんの手が今度は俺の頬に添えられる。


「結ちゃん、大好きだよ……」


 真っ直ぐ見つめられ、俺の目尻にキスをしてくれる。


 どんな醜態を見せても、愛ちゃんは俺を受け入れてくれる。


「愛してるよ」


 言葉にして、しっかりと伝える。


 このまま、まろやかに眠りに落ちたい。愛ちゃんと一つになって、眠りたい。





 ――が!


「貴ちゃんがまだ帰って来ていない!」


 俺はしっかりと覚醒する。


 俺の問題に気を取られて、大事な大事な末っ子を放置していた。



 とんでもない失態だ!

ご覧頂きありがとうございます!


結ちゃん、覚醒☆貴ちゃんはどこへ!?(笑)


宜しければ評価、ブックマークをして頂けると嬉しいです(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ