第39話 甘い朝
「……ん」
朝、いつものように目覚まし時計より先に目を覚した。目の前にはかわいい愛妻。
最高の一夜を更新。
(ありがとうございました)
起こさないように心の中で最敬礼。
俺の奥さんは真面目。真面目だから、思い詰めて、考え込む。
(もう少し、俺に甘えて貰いたいけど)
手放しでは、まだまだ難しそうだ。
〝結ちゃんの言うことを聞いて、結ちゃん好みの女になるよ〟
(……本当ですか?)
昨夜のことを思い出す。
そんなことを言われると、俺は愛ちゃんいわく〝いかがわしい〟ことしか出てこないけど……。
(本当にいいのかな?)
「ん〜……」
「おはよう」
あらぬ妄想がどんどん膨らんでいると愛妻が目を覚した。めちゃくちゃかわいい。
「おはようございます……」
目が合い、照れて真っ赤になる愛ちゃん。めちゃくちゃかわいい。
「今日も俺の奥さんでいてくれてありがとう」
俺は感謝を伝える。俺に養って貰ってるって感じないように。
共働き、専業主婦、どんな形であれ、夫婦となったからには同等だと感じてほしい。
「……ぃぇ」
真っ赤なまま、小声。めちゃくちゃかわいい。
「そうそう、この間知り合いが専業主夫になったって言ってたな」
「?」
愛ちゃんはまだ覚醒しきれておらず、真意が分からずにいるようだ。
「男性だよ。専業主夫」
「えっ!」
「もう今は多様性の時代だよ」
「凄い……都会だ……!」
「家事が楽しいって」
「そう……」
「奥さんからお給料貰ってるって」
「へー」
愛ちゃんはこれで、自分を肯定出来ただろうか?
「結ちゃん……好き……」
もぞもぞと俺の胸に顔を埋めて、引っ付いて来た。
何この生き物。
めちゃくちゃかわいいんですけど。
「俺も」
すり寄って来た愛ちゃんを抱き締めて、愛ちゃんの髪に顔を埋める。
いい匂い。愛ちゃんの匂いだ。
そう言えば以前、知り合いの占い師から聞いた。ソウルメイトと呼ばれる運命の人はその人そのものが出す匂いが無条件で好きだって。
……的を得てるな。
「好きだよ」
無条件に。
「……私も」
愛ちゃんは出会った当初に比べると随分言葉にしてくれるようになったと思う。
――ちゅ
俺はそのまま愛ちゃんの頭にキスをする。
「か、」
わいい、は言ってはいけない。
――ちゅ
バレないように俺は慌てて二度目のキスをする。
……だめだ。やっぱり……
「かわいい」
ここは開き直ろう。かわいい愛ちゃんをかわいいと言って何が悪い。
「……」
「愛ちゃん?」
怒られると思ったら無言。もしかして二度寝したのだろうか?
「ち……」
――ぎゅっ
声をかけようとしたら抱き締められた。
「ゆ、結ちゃんは……かっこいい……」
俺の胸に顔を埋めているため、愛ちゃんの息遣いが分かる。
「あ、あい……あ……あ、愛し……てる……よ」
「――っ……」
本当、何この生き物。
「めちゃくちゃかわいい」
もう止まれない。
「嬉しかった。ありがとう」
愛ちゃん、
「俺も愛してるよ」
聞こえるように、身体を丸め耳元で囁く。
「愛してる」
「っ……!」
ぴくっと身体を震わせる愛ちゃんが……
「すっごく、かわいい」
✽✽✽
「黒崎くん、社員の皆は今どのくらいボーナス出てるのかな?」
出社して確認する。
「……いつも金額の確認をせずに決済されてるような口ぶりですねぇ」
「あ゛」
しまった。
「トップがそのようだと、改ざんが日常的に起こっている可能性がございます」
「い、いや……ちゃんと見てるよ? 今のはたまたま……」
「私を騙せるとお思いですか?」
やばい。黒崎くんが怒ってる……!
「すみません!」
「仕事は抜かりなくやって下さい!」
「すみません!」
「わはは。おもしれーことやってるっすねー」
「!! なんで塚本くんがいるんだよ! 仕事して!」
いつの間にか自室の扉が開いて、塚本くんがいた!
「つ、塚本くん! ちょうど良かった! 話があるんだ!」
「えー?なんすかー?」
「CEO……逃げるおつもりですか?」
「えっ? な、何のこと? ありがとう黒崎くん。ちょっと塚本くんと話があるからさ」
「私に席を外せと。それを逃げと言うのです」
「すみません……」
「次はございませんよ?」
そう言って黒崎くんは部屋を後にした。
(戸塚さん凄いな。あの黒崎くんと正面から言い合えるんだから)
つい、この間の二人の言い合いを回想してしまう。
「で、なんすかー?」
「そうそう塚本くん!」
絶妙のタイミングで来てくれた塚本くんに俺は先程の件を聞くことにする。
「直近のボーナスってどれくらい?」
……黒崎くん、ごめん。決裁、あまり見てません。
うちの社員に改ざんするような人はいないから。
……って言ったらもっと怒られそうだ。ここは黙っておこう。そして、今度からはしっかりと見よう。
「ボーナスー? んーなこと聞いてどうしたいんっすか!?」
「いいからいいから。教えてよ」
「ただじゃ教えられないっすよー」
「あ、じゃあいいよ。経理に内線かけるから」
「三ヶ月分×二回っす」
「早いね」
掌返すの。
「それ皆同じ?」
「さー? 四月入社の夏のボーナスはもう少し少ないんじゃないんすか?」
「なるほど。わかったよ、ありがとう」
なぜボーナスを調べているのか。それはもちろん、妻の願いを叶えるため。
〝一度でいいからボーナスを貰ってみたかったなぁ〟
愛ちゃんのその夢は、俺が叶える。
ご覧頂きありがとうございました!
この二人のチョメチョメ小説に需要はあるんだろうか……。チキンなので、いつも寸止め感(´._.`)
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