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第37話 就職活動

「俺も自分の本心がどこにあるのか悩む事があるよ」


 愛ちゃんが落ち着けるように、優しく伝える。


「俺は小さな頃から、あとを継ぐという明確な目的を与えて貰っていたから、自分の将来について考えた事が無かった」


 直くんは小さい頃はパイロットになりたいって言ってた。貴ちゃんはカツ丼。(なりたい物がカツ丼って……)


「俺には夢も希望も持つ事が出来なかったから」


 まだ……生家にいる頃、お兄さんに「結仁くんは将来何になりたい?」って聞かれたことを思い出した。


 俺は答えられなかった。


「きっと……会長がご顕在のときに直くんが産まれていたら、俺はそれを考えなければならなかったと思う」


 もし、それが本当に起こっていたとしたら……


「俺は今でもその答えは出せない」


 今、直くんにバトンタッチして俺が新たに何か始めるとしたら、経営者仲間とワクワクするような新しいことを起業するだろう。実際、そういう話もしている。


 だけど、それが当時だったら。


「俺は目的も無いまま、死ぬことも出来なくて宛もなく過ごしていたと思う」


 生家にいたままだったら、もしくは施設に入っていたなら。

 俺も目的を見いだせず、もがいたと思う。


「小さい頃から役割が決められているって、窮屈で不自由だけど、「それがある」って安心があるよね」


 お兄さんが言う、自由になりたい。

 愛ちゃんが思う、目的が分からない。


 これらは、お互いないものねだり。


「愛ちゃんは小さな頃何になりたかった?」


 愛ちゃんの腕を引き寄せ、俺の足の間に横抱きにする。


「……芸能人」

「なんか分かるな」


 言いにくそうだったけど、聞いて納得。ゴージャスが好きな愛ちゃんらしい。


「就職活動か……。俺もしたこと無いよ」


 叔父さんに頼んで、コネ入社。まあ……会長の遺言があったけど。


「アルバイトは即日採用で、一般の大学生の子がしてるような就活じゃないからね」


 俺は人事部にいたことは無いから、採用の流れは分からない。代表になった頃は最終面接に立ち会いもしてたけど、それも今は人事部に一任している。


「就活してる人を見ては凄いなって思うよ」

「……結ちゃんも?」


 ようやく、愛ちゃんが口を開いた。


「うん、もちろん」

「そっかぁ……」

「……アルバイトしてた頃、リストラされたおじさんが今日は面接だ、って嬉しそうに言ってたのを思い出したな」


 そのおじさんは50代。ヨレヨレのスーツにボロボロの鞄。

 そんな中で、面接まで残った事を嬉しそうに教えてくれた……。


「50社受けたって言ってたな」

「そんなに……!」

「その格好じゃ……って思ったから、俺がお父さんから買って貰った鞄とネクタイをあげたんだ」


 スーツはサイズが違ったから、鞄。


「お金の足しにしようと売る予定だったんだけど」

「結ちゃんの鞄は?」

「俺はお父さんが使ってたのが何個かあったから。流石に遺品は俺個人の権限で売れないからね」


 俺とお父さんはほぼ背格好が同じだったから、当時拝借していた。俺のは売ってお金に変えた。


 せっかく買って頂いた物だけれど、それを手放さずにお二人のお子様に不自由をさせる方が良くないと思ったからだ。


「そのまま置いてても経年劣化するから、そこは割り切って」

「よく頑張ったね」


 ……愛ちゃんを励ますつもりが今の愛ちゃんの言葉に俺が励まされた。


「ありがとう」


 当時の俺が、愛ちゃんの一言で、一瞬にして報われた。


「私は……そんな辛い思いをしたこと無い。貯金が19円でも、両親に泣きつけば何とかなったと思う」

「貯金19円は恐いね」

「あ゛」

「あ、言わない予定だった? 聞いてない聞いてない。大丈夫だよ」


 忘れられないけど、忘れたふりをしよう。


「結ちゃんって本当に優しいよね」


 俺の胸に頭を預ける。安心してくれているようだ。


「実家に帰ったらさ……」

「うん」

「みんな私が出戻った前提で話が進んでるのよ」

「それはなんでまた……」

「それを面白おかしく囃し立てて……」

「お義父様はユーモラスな方だったよね」

「でも、確かに……」


 ここで愛ちゃんが口ごもる。

 〝確かに〟は納得を意味する。続く言葉は肯定か。


「結ちゃんを信用してないわけじゃない。結ちゃんと同じように私も不安なの」

「そうだね」


 一生なんてものはこの世には存在しない。現実はいつも簡単にひっくり返る。


「……働きたい?」

「結ちゃんと安定を失うのが恐いの」

「そうか……」


 俺は愛ちゃんより長生きする気は全く無い。

 愛ちゃんと一緒に長生きして、愛ちゃんより早く逝きたい。

 だけど、俺が知らない愛ちゃんが増えるのはいやだから、なるべく死期も同じがいい。


(そう言えば、お父さんとお母さんは……同じ日に亡くなったな……)


 あれだけ重体だったお父さんがお母さんの状態を理解していたのかは分からない。


 それなら……あれが俺の理想の最後かもしれない……。


「じゃあ……一緒に……」


 死ぬ?



 なんて……


「え? なんて言った?」

「……お父さんはどうだったのかな」


 理想の死に方だった? 痛かった? 苦しかった?


 お母さんの最後を……


 お父さんは看取ったんだろうか。

ご覧頂きありがとうございます(*^^*)


愛ちゃんが羨ましい(´口`)


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