第32話 夫婦喧嘩はハレンチで。
私の夫は心配性。
「俺も行く」
「出来ない事を言わないの」
何に感化されたのか、私が女子に襲われると心配しているもよう……
時刻は十六時過ぎ。私達は玄関から結ちゃんの部屋へと場所を移した。
一階でキヨさん達が夕飯の準備に取り掛かろうとする時間だ。
(……私だってお手伝いがあるのに)
結ちゃんにここに引っ張り込まれて、同性愛の心配をされる私。
「そんなことは現実に滅多に起こることではないの」
「確率論の話じゃない」
「……もし例え襲われるような事があったとしても女子には勝てる自信あるわよ」
私を誰だと思っているの。重たい鉄鍋を振り回す女よ、私は。
「そんな話をしてるんじゃない」
「じゃあ何よ」
この男はこの間からクドクドクドクド……!
「俺のライバルが増えたら仕事どころじゃない!」
「アホか。増えない」
「〜! なんでそう言い切れるんだよ!」
結ちゃんのボルテージが上がって来た。つまり、私のボルテージもマックス入りました。
「黙れ、心配性!」
「この状況を前に黙れない!」
「未来の心配をしてどうする!! 私はこの人生モテた試しはないわ!! この好き者!」
「もう少し自分を理解くらいしろよ! 最近益々色っぽいんだから……!」
「はあっ!?」
怒りのボルテージがどっかに行って羞恥心に火が付く。
「あんなピッタリしたやつ履いてフェロモン振りまいてたら……!」
「あれはヨガレギンス!!」
なんなの……! お色気の話に変わってきた……!
恥ずかしい、恥ずかしすぎる!!
「あの格好で目の前歩かれたら、誰でもクラッと来るから!」
「いやー!! もうやめて! 恥ずかしい!!」
ただのスポーツウェアをそんないかがわしい目で見てることの方が問題よ!
……この男は〜!!
「……出てけ」
私は地を這う声で呟く。
「今すぐここから出てけー!!」
渾身の大絶叫! 指を指しドアの方へ向ける。
「ここは俺の部屋だよ!!」
怯んで謝るかと思ったら、結ちゃんも応戦モード。
「家から出てけ!」
「ここは俺の家でもあるから!」
「あっそ! じゃあ私が出て行ってもいいの!?」
「良くない! 俺も付いていく!」
「黙れ、変態!」
「変態で結構! 愛ちゃんの前で変態にならない方がおかしいから!!」
くっ……! この男はぬけぬけと〜!
「……結ちゃん、お尻はね。腎臓が高さを決めるのよ」
にっこり。私はここで一気にクールダウンして別の話題で話を逸らす。
(これ以上羞恥を煽られる前に何とかしないと……!)
「もちろん運動や筋トレも関係するけど、要は腎臓なの。腎臓が弱ると胸もお尻も広がって、垂れるのよ」
「じゃあ愛ちゃん整ってるね」
お、結ちゃんのボルテージも下がって来た。よしよし、このまま、このまま……。
「愛ちゃん形めちゃくちゃ綺麗。彫刻みたい」
「はっ!?」
一気に話題がハレンチな方向に戻ったよ!!
「言ってたら見たくなって来た」
「な、何言ってんの!!」
「愛ちゃんから話を振って来たんだろ」
この男はぬけぬけと〜!!
「胸なんか寝たら散って跡形もないわ!」
「そんな事ないよ。今度写真取ってあげる」
「な、何言ってんの!?」
「え? そのままだけど」
結果、私のボルテージだけが再浮上して結ちゃんクールダウン。
本当にどうしてこうなった……!
「愛ちゃんだって俺の身体ペタペタ触って褒めて、好き好き言ってくれるじゃん」
「はっ!?」
「はい、今はまだ明るいから恥ずかしいんだよね?」
そう言って勝ち誇ったように笑う、腹黒大魔王……!
「っ! この悪代官!」
「あ、新しいニックネームが増えたね」
私のこのボルテージをサラリと交わし、通常のトーンで話す結ちゃん。
「どうしてもヨガがしたいなら、オンラインで」
ボルテージの下がった結ちゃんが真っ直ぐと私を見つめ真面目な顔付きで言う。
その表情にときめきかけて、我に返る。
話の内容は見た目のキュン度と相反するお子ちゃまな内容……!
「体験は生ライブに限る」
これ以上ボルテージを上げて応戦するとどんどん恥ずかしくなる。ここは冷戦で。
「それにさ、私は恥ずかしいから上がロングTシャツなのね」
先程上がったウェアの話を冷静に話す。
「ダボっとしてるし、お尻の下まで隠れてるし……。通ってる人とか凄いんだよ? おへそ丸出し! やっぱり上級者になると違うのかしらねぇ……」
今日体験に行くと、私以外は身体ぐにゃんぐにゃんの長期継続の玄人さんばかり。
私もこんな風に身体を柔らかくしたいと感動して帰った。
「そんな格好したら発狂する」
「……結ちゃん、今年は海に行きたいんじゃ無かったの?」
結ちゃんの結婚してから私にしてもらう事のリストに「海に行きたい」があった。
私の目標はそれまでに体型を戻す。
もちろん、それはなぜかと言うと……
「海って水着だよ? ヨガウェアよりずーっと露出が多いよ」
本当はビキニで結ちゃんを悩殺させたいところだけど、流石にそれは……ね。
「プライベートビーチだから大丈夫」
やられた。この男は大金持ち……!
「俺しか見ないから、何も心配いらないよ」
勝ち誇ったように笑われ、私のボルテージはマックス。
真夏の人が密集してる海しか知らない私を馬鹿にされた。
「――このっ!!」
「坊っちゃーん、愛子さーん! お夕飯が出来ましたよー!」
言い返そうと思いっきり息を吸い込んだところで、キヨさんの声が下から聞こえた。
「あ、もうこんな時間。愛ちゃんと一緒だとすぐに時間が経つね」
何も気にした風なく、にっこりと私に微笑む結ちゃん。
「下に降りましょう、殿下」
ほーう。結仁よ……。君はあくまで譲らぬ気だな。
この勝負……受けて立ちますよ、私!!
ここまでご覧頂きありがとうございます(^o^)
この二人がいつも言い合っていることを知る人が現れる日が来るのか……。(笑)