第30話 久しぶりの実家
いつもは一緒に作るキヨさん達がいない為、私は一人でいつもより早く調理を始める。
「えっと……納豆」
とにかく貴ちゃんは食べる。納豆も一度でかなり食べるため、私は自家製納豆を作るようになった。
出来上がるまでの独特の納豆臭がかなり不評ですが……。
「結ちゃんにはネギと塩、貴ちゃんはネギと生卵とお醤油……」
あとは糠漬けを出して切って……海苔と青のりと梅干しを出そう。
貴ちゃんにはおかずがいっぱいいる。食べるご飯の量がほぼ一升だからだ。
「よし、ご飯もちゃんと炊けてる!」
人生初の一升炊き。とにかく緊張したが無事、いつもの炊き上がりに安堵する。
キヨさんはこれを今まで一人でしてたのか……凄い。
「……相撲部屋の女将さんってこんな感じかしら?」
ちょっと楽しい。沢山の量をどーんと作ってばーんと口の中に消えて行くさまは。
「愛ちゃん、何か手伝おうか?」
そうこうしているとスパダリさんが顔を出した。
「大丈夫だよ。ありがとう。結ちゃんは新聞読んでて。今日もお仕事なんだから」
朝、キッチンで料理する私とスーツの結ちゃん。新婚さんって感じ。
……キュンッ。
(スーツ姿を拝ませてくれてありがとう。かっこよすぎ)
「あまり寝てないだろうから」
「やだ、結ちゃん。朝は朝の会話をしましょう」
ハレンチは話は夜にお願いします。なんちゃって。あ、益々新婚さんっぽい。
「……そんなに変な質問だった?」
「……」
確かに。寝不足を心配されただけで理由とかも無いし。
なんか私だけちょっとテンションが違った。
……恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
「貴ちゃんにはもう一つ卵料理でもしようか」
急に真面目に話を変える。
「また〝貴ちゃん〟」
「……何よ?」
今度は変な事言ってないわよ。なんでそんなにブスっとした顔してるのよ。
「羨ましいって思っただけ……」
「……」
ちょっと不貞腐れたような言い回し。かーわいい。
「結ちゃん、食べる?卵」
私は明るく尋ねる。
身体を酷使する子供の食事に気を取られて、夫を蔑ろにしていた妻。
今の私はこんな感じかしら。
「……手間になるからいい」
そして、子供と違い気を遣う夫。
「消化に良いように大根葉と梅酢を入れてオムレツにしてお弁当に入れよう」
結ちゃんの食事は日々私が管理してる。そこに今日は貴ちゃんが加わった。慣れない方に意識が向き過ぎていた、私。
「卵の旬は春なんだよ」
「卵に旬ってあるの?」
ちゃんと気にかけてる。いつも思ってる。
私の料理を楽しみにしてくれるのは結ちゃんだけ。
「あるよ。鶏さんだって夏は暑くて産みにくい」
「そうなんだ」
しっかりと話を聞いて、食べてくれる。
こんな人に出会えるとは思わなかった。
「……昆布の佃煮もう一回入れて」
「……うん!」
食事に関して滅多に自分の意見を言わない結ちゃんからのリクエストに私のテンションは急浮上だ。
実家では不評だった料理の数々をリクエストしてくれる。
大好きな料理を好きなだけ作れる。
夢が実現した。
(結ちゃん、愛してるよ!)
……声に出しては、中々言えませんが。いつか!
✽✽✽
数日が経った。結ちゃんは海外出張で一週間ほどいない。
つまり、私は帰って来た。
「愛子、お土産は?」
この実家に!
「ありますよ、お姉様」
私が実家に帰るとメールしたら、長文のお土産リストメールが届いた。
内容は〝〇〇のマドレーヌ詰め合わせ十二個入り×一〟とか。
それがダーっと。
久しぶりの実家だもん。私もそれを買ってきてあげた。なんて優しい妹なの、私。
気恥ずかしさもあり、ちょっと胸に詰まるものがある。
そんな、再会――
「愛子太ったわねー」
「ぐ!」
久しぶりの感動もどこへやら。姉さんから鋭い指摘を受ける。
「私が男ならもう女に見れない。別物」
「ダイエットしてるって!」
「顔がパンッパン! あはは! ウケる!」
「姉さんだって似たような顔よ!」
「愛ちゃん、おかえり」
姉さんといつものように言い合っていたら、優しいお母さんの声が……
「…ただいま」
「おー、愛子! 久しぶりだな!」
「お父さん…」
どうしよう。泣きそうになるのと同時に恥ずかしい。
この家を出て二ヶ月。結ちゃんと暮らして私はここにいた頃の私じゃない。
それは両親も分かっているはず。
……それが恥ずかしい。
「お前もう三下り半か!」
「お父さんったら……。出戻って来ても迎えてあげましょうって言ったでしょう?」
「こんなに太ればねー。まー二ヶ月金持ち捕まえたなら良しにしようよ。あとは慰謝料がっぽり貰えば……」
「ちょっと……!」
恥ずかしさも感動も一瞬にして砕けちった。
「みんな私が捨てられて戻って来たと思ってんの!?」
「違うの?」
「円満です!」
「お前がそう思ってるだけで結仁くんは違うと思うぞ」
「もう、お父さんったら……。愛ちゃん、何も悲しまなくてもいいのよ」
「お母さんが一番笑顔で恐いこと言ってる!」
「まー、義弟からしたらちょっと周りにいない田舎娘をつまみ食いしたいだけだったのよねー」
「もう、お姉ちゃんったら……。一瞬選ばれただけでも生涯独身より良いじゃない」
「だからお母さんはフォローになってないって!」
私の家族はこんな家族だった……! なんて野蛮な!
あの結ちゃんとの穏やかな一時は幻だと言うの!?
「みんな心配しないで! もうすぐに帰りますから!」
「お、不倫現場に土足でGO?」
「姉さん違うって!」
「証拠はしっかりと押さえるのよ。慰謝料がっぽり貰わないと」
〜! この家族は〜!!
「もう帰る! 止めたって遅いんだからね!」
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個性が強い家族By愛ちゃん