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第29話 夜這いに来ました

 荷解きして母屋の風呂に入り、一日の日課を終わらせ、自分の部屋のベッドに入る。


(……冷たい)


 今日は一日、楽しく過ごせた。悪夢も無い。


 もう深夜。大人しく寝よう。


「……」


 寝よう。


「…………」


 寝……れない。


(……我慢は良くない。夜這いに行こう)


 意志薄弱。俺は自分がこんなにも忍耐力の無い人間とは思わなかった。


 自分のベッドから起き、動き出す。


(愛ちゃんはもう眠っているだろうから、そっとベッドに潜り込ませて貰おう)


 あとで絶対怒られるだろうけど、俺の快眠には愛ちゃんが必要だ。



 ✽


 ――コンコン、カッチャ……


 小さく小さくノックしてそ~っと愛ちゃんの部屋の扉を開ける。


(鍵がかかってなくて良かった……)


 部屋の中は真っ暗。これは妻がもう既に寝付いている事を物語っている。


「失礼します……」


 小さく小さく声をかけてベッドに潜り込む。


 愛ちゃんのベッドには枕が二つ並んでいる。愛ちゃんは丁寧にその半分のスペースを開けて寝てくれていた。


「ん〜……結……ちゃん……?」


 潜り込んでいると愛ちゃんを起こしてしまったようだ。


「すみません、夜這いに来ました」


 ここは正直に言おう。……と言っても今日はもう遅い。隣で寝させて貰うだけだ。


「うん……嬉しい……」

「え?」


 気のせい?恥ずかしがり屋の愛ちゃんから何とも甘い言葉が……


 暗闇にも目が慣れてきて、愛ちゃんと目が合う。

 とろんとした、目。夢心地のようだ。


「待っててくれたの?」


 静かに寝させてあげるべきだけど、少し意識がある愛ちゃんに抱きしめながら聞く。


(今なら本音が聞けるかも……)


「うん……待ってた」


 とろんとしたまま、嬉しそうに俺に微笑む。


「結ちゃんが来てくれるの……待ってた……」

「……」


 驚き過ぎて言葉が出ない。


 「恥ずかしい」が口癖の愛ちゃんが自発的にこんな言葉を言ってくれるなんて……


「……大人しく寝ようと思ってたのに、そう言われると襲いたくなるよ」


 ……覚醒して怒られるかな?


「嬉しい……結ちゃん……好き……」

「……〝寝ぼけてた〟は無しだよ?」


 どうせ死ぬなら今がいい。



 そのくらい、幸せだ。





 ✽✽✽


 ――ピピッピピッ


 時刻は5時。俺は目覚まし時計を止める。


「う〜ん……」

「おはよう」


 かわいい愛妻がお目覚め。めちゃくちゃかわいい。


「眠い……きつい……」

「そうだよね。ありがとう」


 まあ……疲れさせたし眠いだろうな。


「起きないと……」

「昼間ゆっくり休んでね」


 俺と貴ちゃんが出かけて、キヨさん達が帰ってくるまでの時間、一人でゆっくりしておいて欲しい。


「さっき寝たばっかりな気がする……」

「すみません」


 ここは俺は謝罪しか出来ないな。


「ん? あれ? 結ちゃん……?」

「あ、今気づいた?」


 俺が横にいるのに。


「同意の上だからね」


 俺は愛ちゃんにニッコリと微笑む。

 〝寝ぼけてたは無し〟だ。


「……」

「そんなに照れなくても」


 夫婦なんだし。

 昨日〝こう言ってくれたよね〟って改めて聞きたいところだけど、怒られるかな?


「……今日のお味噌汁は白菜です」

「いつもより少ないね」


 照れ隠しか話は変わって朝食へ。


「ワカメ入ります」

「白菜とワカメね」


 愛ちゃんと結婚して海藻を沢山食べるようになった。

 ひじき、ワカメ、青のり、茎ワカメ、アラメ……。


 海苔とワカメ、たまにひじきだった我が家。


「おかげでびっくりするくらい髪にボリュームが出た気がする」

「直くんに〝兄貴がハゲないように〟って頼まれたからね」

「……俺薄かった?」

「〝いつかストレスでハゲる〟って心配してたよ」

「良かった。今じゃないね」


 弟に薄毛の心配をされるとは……。俺も年をとったな。


「貴ちゃんには納豆と平飼い卵ね。あとは魚でも焼こうか?」


 普段通りの会話になったからか、先程まで照れていた愛ちゃんのトーンが普通に戻った。


「俺は合っても無くても……」

「貴ちゃんに聞いてから焼こうかな」


 貴ちゃんは毎食こってりした動物性を欲する。キヨさんがいない分、愛ちゃんは貴ちゃんの朝食を心配する。


「……いいなぁ、貴ちゃん。こんなに考えて貰って」

「結ちゃんのも考えてるわよ」

「俺は例え何が出てきても文句言わないもん……」


 食事にありつけるだけありがたい。ましてやちゃんと食べれるものが。


 そういうスタンスだった為、俺は貴ちゃんみたいに〝もっと肉ー!〟とか〝からあげ食べたい!〟とか言えない。

 まぁ、そんなに肉を食べたいとも思わないけど……。


「……結ちゃんは何が食べたい?」

「決まってる、ち……」

「それはもう食べたわ!」

「言うようになったね」


 前はもっと照れてたのに。


「はい、もう起きよう。ずっと寝てたら目覚ましの意味なし」


 俺が食べたいものは決まってる。それでも毎回本当の食べ物の質問をする愛ちゃん。


「朝ごはんとお弁当楽しみにしてるね」


 無理させたけど、俺の家事能力では料理は手伝えない。


ご覧頂きありがとうございます(*^^*)


「兄貴がハゲないように」と心配する直くんは

【直くんとももちゃん、初恋の行方。】の【第2.5章 短編 そのワケを知りたい】でもご覧いただけます(^o^)

こちらも宜しくお願いします!

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