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第26話 義弟との食事と夫のこれまで


「あ…ありがとう…」


結ちゃんにとって人生二回目の料理取り分け。私は自信満々に差し出す。


狼狽え結ちゃんは最高にかわいい。


「あ、愛ちゃんもご飯いる?」


ガツガツ食べてた貴ちゃんがこちらに視線を向ける。


「いや、お兄ちゃんと愛ちゃんはこれを半分にするから貴ちゃんは気にしなくていいよ」

「…?」

「じゃー俺、五目チャーハンと海鮮チャーハンも頼もう!」

「うん、沢山食べてね」


…意味不明なやり取り。


「いつも直くんと3人で来てたときは白ご飯は一つを俺と直くんとで分けて2つが貴ちゃんだったんだ。他にご飯物も注文してるから」


そう言って、別の取皿に私があげたご飯を少し取り分ける結ちゃん。


「愛ちゃんご飯これくらいで足りる?」


私があげたライスを3分の1自分の取皿に取り分けて残りを私にくれる…。


「うん。ありがとう…」


受け取りながら、しんみりした。

これが結ちゃんのこれまでの人生。


直くんと貴ちゃんがお腹いっぱいご飯が食べられるようにせっせと取り分けて、自分のことは後回し…。


多分、私が取り分けていなければ結ちゃんは今も目の前に料理が無い。


そしてご飯の量も私がお腹いっぱい食べられるように気を遣って自分の分を少なくしたんだ…。


最後に皆がお腹いっぱいになったのを見届けて残りを食べるんだろうな。


〝昼ごはんは食べないんです〟

以前聞いたこの言葉に…当時の結ちゃんの思いが詰まっていた事を知った。


優しくて、優しくて…かっこいい。



だけど、もう少し自分を大切にして欲しい。


一緒に食べて「美味しいね」って同じ時を共有したい。


「お待たせ致しました」

「ありがとうございます」


店員さんがまた出来上がった料理を次から次へと持って来た。


そして、また結ちゃんは同じように私に取り分けて、貴ちゃんに差し出す…。



なんか…吹っ切れちゃった。


「はい、貴ちゃん。お水」


私は貴ちゃんのグラスにお水を注ぐ。


少し冷めるけど、私はあとで結ちゃんと食べよう。

それまでは結ちゃんの連れ子とも言えるこの義弟のお母さんになろう。


〝弟がお腹いっぱい食べてくれるのを見れるのが嬉しい〟


以前、そう言った結ちゃんを思い出した。

その言葉には結ちゃんのこれまでの重みが詰まっている。



確かに…この食べっぷりは見ていて気持ちがいい。


結ちゃんが大好きな直くんと貴ちゃんが満たされる事が結ちゃんの喜びなんだ。


私もそれを陰ながら支えよう。


夫婦なんだから。



✽✽✽


「あーお腹いっぱい!美味しかったー!ご馳走様ー!」


貴ちゃんの胃袋が満足したよう。…それにしても凄い空き皿の数だ。エンゲル係数高いな…。


「貴ちゃん、お腹いっぱいになった?」

「うん!」


愛おしそうに貴ちゃんを見つめて問う結ちゃん。


「残りはお兄ちゃんにあげるよ!」

「ありがとう。貴ちゃんは優しいね」

「そうでしょう〜」


私の前には結ちゃんが少しづつ取り分けてくれていた料理とご飯。それを私と結ちゃんの間に移動させる。


「結仁さん、私達も頂きましょう」


私は結ちゃんに向かって微笑む。貴ちゃんが結ちゃんに残してくれてるのは数種類。これまでがどうだったかは分からないけど…。


せっかく来たんだもの。結ちゃんにも同じ美味しさを体験してもらいたいから


「あ…うん…」


私が食べずに待っていたのに今気づいたのか、気づきながらも貴ちゃんの手前、口に出来なかったのか、結ちゃんが申し訳なさそうにする。


「俺デザート選ぼうー!今日は何にしようかな!」


貴ちゃんがメニューに釘付けになっている間に食べ始めた。


「美味しいね」

「うん」


少し冷めた料理を結ちゃんと共有する。


なんとも言えない嬉しそうな申し訳なさそうな複雑なかわいい表情を浮かべる結ちゃんに…



私も堪らない気持ちになった。




✽✽


残りを綺麗に平らげた私達は家に帰る為に車に乗り込む。


「あー、美味しかったー!お兄ちゃんありがとう!お腹いっぱい!大好き!」

「良かった。また行こうね」

「うん!!」


幸せそうな二人を見て、私も幸せな気持ちになる。


さて、私はここで今日、大切なお役目がある。


「私も!今日は貴ちゃんとデート出来て良かったな〜」


白々しいまでの爽快な演技。


「はっ!?」

「一緒にお買い物して、靴を選んで、ディナーして…約束だったデートが出来て、良かった〜」


語尾を上げ、必死に大声を出す。


以前、結ちゃんと出来ない約束はしないで欲しいと言い合いになった。


確かにそう。私は反省した。


だから約束は守る。だけど、結ちゃんが嫌な結果にはしない。


「何言ってんの愛ちゃん!今日のはデートじゃないよ!」

「えっ?デートだよ〜」

「コブがついてる!!」

「えっ!?お兄ちゃんコブなの!?」


貴ちゃんのツッコミに本気で驚く結ちゃん。


「ちぇ〜。まあいいや。俺、今度本当のデートだから」

「「はっ!?」」


今度は私と結ちゃんが驚く。


「今日合宿行った先のマネージャーからファンですって告られてさぁ〜。ゲット!いえーい!!」


軽っ!!


「貴ちゃん、お付き合いするなら誠意を持って対応しないとね」


真面目な兄ちゃんからアドバイス。


「あーあ。お兄ちゃんにバレると面倒くさいから黙っておきたかったのにー」

「えっ!?貴ちゃんお兄ちゃんに隠し事あるの!?」

「あるよ」


ショックを受けてる結ちゃんにシレッと悪びれる事なく言う貴ちゃん。私も衝撃。


「いちいちお兄ちゃんに全部言わないよー!特に女の子絡むと口うるさいだろー?」



これは…何をどうフォローしたらいいの?

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