第25話 うちの子がまだ食べておりません!
「ね、愛ちゃん!こっちとこっちどっちがかっこいい!?」
スニーカーを試し履きした貴ちゃん。
どうやら2種類の間で迷っているよう。
真っ赤なスニーカーと真っ紫なスニーカー…。
(すごいな…。私は履けないわ…)
そのど派手なスニーカーの二択…。
「貴ちゃんは赤だよ。赤レンジャーが好きだろ?」
「…」
結仁父ちゃん、意味不明な解答。
「俺はお兄ちゃんには聞いてない!女子の意見を聞いてんの!!」
「女子!?」
な、なんと…私は日本の女子代表としてこのスニーカーのどちらかを選ばないといけないよう…。
どうしましょう…。なんか責任重大だよ…。
「う、うーんと…………む、紫?」
ごめんなさい。日本の女子の気持ちは分かりません。多分私はその感覚からはズレています。
だけど…きっと貴ちゃんに赤の気持ちがあれば結ちゃんから進められた時に赤にしてたと思うのよ。遮断したということは紫に気持ちがあるのでは…
「紫!?紫にしたらモテる!?」
「えっ!?」
何それ!そこまで責任取れないよ!どんどん話が膨らんでないか!?
「あ…えーっと……ほら、貴ちゃん赤いスニーカーはもう持ってるし…」
この末っ子は結仁父ちゃんから色々と買い与えられ、スニーカーも私から言わせてもらったらかなりの数を持っている。
似たような赤いスニーカーは見たことある。紫は初めてだ。
「紫だと…ちょっと大人な感じ?」
そのど派手な紫には大人感はゼロですが。
「…そっか!クールで大人な俺をアピールだな!」
「う、うん…そうね」
「お兄ちゃん、これにする!」
ズイッと貴ちゃんが父ちゃんに差し出す。
「これで明日からモテるぞー!」
「ははは…」
ごめんなさい。その責任は取れません。
「貴ちゃん、世の中にはタイミングがあるからね」
ここで会計待ちの結仁父ちゃんが間に入る。
「貴ちゃんにぴったりのタイミングで運命の人に出会えるよ」
そう言って微笑む、父ちゃん。…やだ。なんか恥ずかしい。
「え?別にいい。俺はモテたいの。一人彼女が出来たらそれでいいわけじゃない」
「!!!」
なんと…!この真面目な父ちゃんの子とは思えぬ発言!
「貴ちゃんはラグビーが恋人だからね」
結ちゃん、フォロー。
なんか色々とジェネレーションギャップと衝撃を感じましたよ、私。
✽✽
「中華、中華!」
貴ちゃん自作の中華の歌を聴きながら辿り着いた。
…ごめんなさい、ここでも衝撃が。
「いらっしゃいませ」
にこやかに店員さんから挨拶され通された。
ここはとある高級ホテル内にある中華…。
私、中華って食堂みたいなところだと思ってたよ。
何このオシャレな空間…。
やっぱり家で待っておけば良かった。こんな空間って知ってたら…。貴ちゃんジャージだし。
なんかドレスコードありそう。キチンと正装させてあげるべきだった…。
(無知な私。ごめんなさい)
心の中で結ちゃんと貴ちゃんに謝る。
「お腹ペコペコなんで大体いつものを持って来て下さい!」
席に通され、貴ちゃんが店員さんに伝える。
…ん、あれ?いつもの?
「かしこまりました。すぐにご用意できるものからお持ち致します」
「お願いしまーす!あ、俺の彼女!」
「貴ちゃん、違うだろ?僕が結婚したんです。こちらに来るのは初めてでしたね」
「え!…あ、失礼致しました。そうですか。結仁おぼっちゃまもご結婚を…」
…何この会話。
「初めまして…」
全く分からないけど、とりあえず外面笑顔で挨拶した。
「ここは両親から連れてきて貰ってたんだ」
「今はお兄ちゃんが中華と言ったらここに連れてきてくれるよー」
店員さんがいなくなって説明された。
(それでジャージで堂々と出来たのね…)
「直お兄ちゃん達も誘えば良かったね」
「いーや、呼ばなくていい。直のやつ、最近益々口やかましい」
なんか心配して損したよ。
それにしても…ゴージャスねぇ。凄い空間。楽しい。
中華ってこういう所の中華ね。食堂のイメージしかなかった私…恥ずかしい。
「お待たせ致しました」
お、料理が来た…。…!なんて量!!
「まずはライスの大が3つ。回鍋肉、油淋鶏、天津飯…」
(何人前なの!?これ食べれる!?)
円卓に大皿がゾロゾロと…
「お兄ちゃん、俺あと棒々鶏食べたい」
「うん、いいよ。すみません、棒々鶏もお願いします」
「かしこまりました」
(まだ頼むの!?)
いやいや、まずはこの一順目に手を付けてから頼んでよ!
「愛ちゃん、天津飯いる?」
「え、あ…うん少し」
結ちゃんに質問され、ようやく声を出す。
なんと言ってもこんな所の中華なんて初めて。どれも味見したい。
「これくらい?」
「あ、うん。ありがとう…」
結ちゃんが取皿に取り分けてくれた。
「あ、私は後でいいから先に貴ちゃんに…」
あんなにお腹ペコペコって言ってたのに、私が先じゃあかわいそう…。
と、そう思った矢先…
「え?」
「いっただきまーす!!」
「え゛っ!!!」
私の言葉を聞き返した結ちゃんはそのまま…
私に取り分けただけの天津飯の大皿をターンテーブルの上から貴ちゃんの目の前へ!!
スプーンを持ち上げた貴ちゃん、そのまま大皿にスプーンを投入…!
衝撃的な一口。
珍百景。これは大食い大会の映像?
「美味しーい!お兄ちゃんありがとうー、大好きー!」
「どういたしまして。貴ちゃん、沢山食べてね」
ニコニコ貴ちゃんにニッコリ結ちゃん。
…二人はこれが当たり前の風景なのね。…私も慣れよう。
この食べっぷりは見ていて確かに気持ちいい。
金額凄い事になりそうだけど。こんなお店だし。
「はい、回鍋肉」
「あ、ありがとう」
貴ちゃんの食べっぷりに目を奪われていると、結ちゃんが回鍋肉を取り分けてくれた。
「もう少しいる?」
「え、いや、私はもう…。どれも味見したいだけで量は少なくて良いです…」
「そう?愛ちゃんも好きなの好きなだけ頼んでね」
「あ、ありがとう…」
「はい、貴ちゃん。回鍋肉」
「ありがとうー!うめー!」
そしてまた私の分だけ取り分けた残りの大皿が貴ちゃんの前に…。
ん?ちょっと待って。結ちゃん食べてる?
取り分けて…
「お兄ちゃん、水!」
「はい」
水を一気飲みした貴ちゃんが空のコップを差し出す…。
「水もね、うちだけここにピッチャー置いてくれてるんだよ」
「へー…」
私に説明する、結ちゃん。
「はい、愛ちゃん油淋鶏」
「ありがとう…」
私に取り分けて…
「はい、貴ちゃん油淋鶏」
残りの大皿を貴ちゃんの元に…。そして空になった天津飯のお皿を移動させて…。
やっぱり。うちの子が食べて無い。
私は慌てて私に取り分けてくれたおかずを少しづつ別のお皿に入れ、手を伸ばしてライスを一つとる。
(ライス大が3つ来て、そのうちの1つを今、貴ちゃんが食べてる。つまり、残りの2つは私と結ちゃんの分のはず…)
「結仁さんも召しあがって下さい」
結ちゃんの目の前にライス大と取り分けた油淋鶏、回鍋肉を差し出す。
一度こんな風に食べてみたいものです(笑)
以前の直くんも一緒に行った中華は【直くんとももちゃん、初恋の行方。】の【第2.5章 短編 何でもしてあげたい】に掲載しております。宜しければ是非☆
↑その時代から貴ちゃん成長し、貴ちゃんは大皿を直に食べるようになりました(笑)