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第23話 妻のご機嫌

「殿下、掃除終わりました」


 俺は愛妻のご機嫌修復の為にせっせとゴマをする。


「ありがとう……」


 その顔と声のトーンにはもう怒りが感じられない。


(よし、ご機嫌取りは成功だ)


「では、改めて殿下の〝お願い事〟はなんでしょう」


 俺は改めて聞く。昨日の〝目を閉じて〟が愛ちゃんのご褒美だと、愛ちゃんがかわいそうだ。


「……もう聞いて貰ったでしょ」

「あれは俺へのご褒美だから」

「……いいよ。どうせ私負けてたし」

「……」

「スパダリさんが気遣って負けてくれたんだもーん」


 ……バレてた?


「それまではポンポンめくってたトランプを明らかに挙動不審に引いてたからね」

「……」

「私は結ちゃんがこんなにも分かりやすい子だとは思わなかったよ」

「ごめん……」


 これ以上はもうごまかせないな。


「直くんが〝兄貴はいつでもひょうひょうとしてる〟って言ってたのに」

「俺だって愛ちゃんと出会う前は自分を偽るのは得意だと思ってたよ」


 直くんと貴ちゃんに血が繋がっていないという事実も隠してたし、ポーカーフェイスもお手の物だった。


「俺は幼児退行と共にそういうスキルも退行したみたい」

「そう……」

「そんなに照れなくても」

「……照れてない。嬉しいの」

「何が?」

「……なんか……特別みたいな……」


 照れたのか、モジモジとしながら伝えてくれた。


(……めちゃくちゃかわいいんですけど)


「特別だよ」

「……そうですか」

「俺は愛ちゃんだけ」

「……そうですか」


 やっぱり、照れてる。


「愛ちゃんは?」


 俺は愛ちゃんに近づき抱き締める。続く言葉を耳元で直に聞きたい。


「……」

「……キスしていい?言わないとするよ。3秒前〜」

「は!? 3秒!?」

「2〜」

「ッ……! っ……ゆ、結ちゃんだけ……だ……から……」


 一気に俺の心が満たされる。


「……もうここまで来たらこのままキスする流れだよね?」


 俺は抱き締めたまま伺う。


「〜!!」


 耳まで真っ赤。あー、かわいい。



 これは肯定の合図だ。






 ✽✽


「ちょいとスパダリさんよ」

「ん? あれ? また……」


 デジャヴ?


「また今日もこれかい」

「愛ちゃんがかわいすぎるのがいけない」


 今日も昨日と同様、べったり後ろから抱き締めてソファーに座っている。


「私は掃除もしてないから動かないと……」

「じゃあ一緒に動く」

「……」

「充電」


 俺は更に抱き締める。……充電されていく。


「ね、〝すぱだり〟って何?」


 ここで俺は気になっていた事を口にする。


「……」

「俺は知らない言葉が沢山ある」

「……結ちゃんは知らなくていい言葉よ」

「何か良くない意味?」

「……」

「前に秘書課の木崎さんから〝おとめげーのヒーロー〟って言われたんだけど、愛ちゃん意味分かる?」

「……自分でネットですぐに調べなさい」

「あ、そうか」


 俺は本当に抜けている。情報は信頼出来る人から直接聞く、がスタンスだったからネットという存在を忘れていた。


「〝すぱだり〟もネットで検索してみよう」


 俺はスマホを手に取る。


「いや……スパダリは検索しなくていいよ」


 なぜか愛ちゃんが止めに入る。


「良くない意味?」

「……意味を知らずとも良いではないか」

「なんか言い方が殿っぽいね」

「調べるでない」

「余計知りたくなるよ」


 なぜか時代劇風に話し出す愛ちゃん。この位置から見える愛ちゃんの頬はほんのりピンク。

 ……照れてる。かわいい。


 つまり、調べられると恥ずかしい、って事か。


「えーっと、すぱだり……」

「わーわーわー!!」

「あ、スパダリって片仮名なんだね。意味は……」


 遮る愛ちゃんを無視して俺はスマホを見る。


「スーパーダーリンの略称……。 整った容姿、高身長、高学歴、高収入、大人の余裕と包容力があるといった高スペックな理想の夫、理想の彼氏をいう……」


 ……え。


「俺って愛ちゃんにとって〝理想の夫〟?」


 俺は甘ったれで、愛ちゃんの前では幼児に成り下がる。

 だから……愛ちゃんにとって理想とは言い難いはずで……。


「大人の余裕も無いし……」

「……」

「照れてないで顔を見せて」


 愛ちゃんの顔に触れ、少し後ろを向かせ、俺も顔を覗き込む。


「スーパーダーリンだもーん……」


 視線を下に向けて吐き捨てるようにいう愛ちゃん。


 堪らなくなる。


「ありがとう。嬉しいよ」


 出かけようと思っていたけど、やめた。

 今日はこのまま、愛ちゃんを堪能する。

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