第22話 夫の寝顔
朝、目を覚ますと……
「!!!」
目の前にイケメンが!
(朝から破壊力あり過ぎ!!)
「……」
心臓が殺られそうになった所で冷静になる。
このやたら早起きな男は私が寝付いてから眠り、私が起きた時にはもう既に起きている。
(いつも寝付くのは明け方で私はクタクタなんだから私は眠いのよ……やだ、恥ずかしい)
つまり、初めて私が起きていて結ちゃんが寝てるという状況だ。
(この前は私が頭を抱えちゃったから……)
ずっと見たかった、結ちゃんの寝顔。
すやすやと穏やかに眠るその状況に堪らなくなる。
(子供みたい。かわいい)
そ~っと起こさないよう手を動かして頭を撫でる。
サラサラな癖の無い髪。
きっと、結ちゃんの寝顔を見たのは私だけ。
嬉しさと同時に、切なさが湧き起こる。
無防備な顔で眠る結ちゃんは子供のよう。
当時、そんな子供に危害を加えるなんて……
結ちゃんは何もしていない。していたとしても許されない。
だからつい……無垢なあどけない子供に大人が寄ってたかってした仕打ちに苛立ちが湧き起こる。
助けを呼ぶ事も出来ない。自分を守るすべもない。大人がいなければ生きていけない子供に向かって……
(……終わったこと。過去を思っても意味がない……)
なんとか自分を押さえて、結ちゃんの頭を撫でる。
どうしようもない切なさと共に。
「ん……」
「あ、ごめん。起こした?」
結ちゃんが目を覚ました。ぼんやり結ちゃんは最高にかわいい。
「俺より愛ちゃんが早い……」
「結ちゃんの寝顔をようやく見れたよ」
さっきまで眠っていて、まだぼんやりとしてる。
「最高にかわいい顔ね」
「褒めてる……?」
「褒めてるよ。私のベイビーはとってもかわいい」
「……ありがとう」
自信を持って堂々と褒めると結ちゃんが照れた。
「良い子だね……結ちゃんはとっても良い子」
生家で過ごした期間は2歳から5歳ほど。その時期の子供に言うように私は結ちゃんの頭を撫でる。
幼少期の思い出が上書きされるように。
「俺、良い子……?」
「うん、結ちゃんはとっても良い子だよ」
「良かった……」
安心したように結ちゃんは微笑んだ。
その顔は見たこともない子供のような表情で……
結ちゃんが当時にタイムスリップして、少し……
過去を癒せたと……思う。
✽
二人で朝食を食べて、後片付けをした。
「今日どうする?」
私は結ちゃんに尋ねる。貴ちゃんが帰って来るのは16時頃。それまでは二人きりだ。
「愛ちゃんの〝お願い〟は?」
「え?」
「昨日は結局全部俺のご褒美になっちゃったから」
「……」
そこで私は昨日の羞恥が一気に蘇る。
「弄ったら怒るって言ったでしょ!?」
「え? どこ弄った?」
「恥ずかしい! 蒸し返さないで!」
私は両手で耳を塞いで抗議する。
「昨日はあんなに好き好き言ってくれたのに」
「はあっ!? いつ!?」
「あれ? 覚えてないの? 昨日の……」
「いやー! 言わないで! 覚えてるから!」
恥ずかしい! なんて恥ずかしいの!!
「良かった。覚えててくれて」
「……いじったら殴るって言ったわよね」
私は拳を握り締めてワナワナと震える。
「……冗談です。殿下、お許し下さい」
状況に気づいた結ちゃんが謝る。
「ふんっ!」
以前の喧嘩以来、無視する、飛び出すという行動は改めた。
目の前で怒る。まだ理性が残ってる時はこれが出来る。
「ごめん。俺が悪かった」
「態度が悪い」
「すみません。心より謝罪します」
「……」
本気で謝る結ちゃんを横目で見て、ボルテージが下がる。
今日は貴ちゃんが帰ってくる。子供に夫婦喧嘩は見せられない。
「……掃除機かけてくれたら……許す」
「分かった、掃除機ね」
ホッとしたように結ちゃんが胸をなでおろす。別にもう怒ってなんか無い。
次もちゃんと……好きって言おう。
「〜!!」
一気に真っ赤になる。素面では言えない!
「好きだよ、愛ちゃん」
「おーぅ……」
私が許すと言ったから、ここぞとばかりスパダリさんが歯が浮く言葉を言う。
私も、ちゃんとこんな感じで言えるようになろう。