第21話 戦利品は最高傑作ばかりです
俺は記憶力がいいと思う。
「また揃った!」
「はあっ!?」
俺から始まった神経衰弱は、最初ルールが掴めず苦戦した。
「はい、次愛ちゃん」
「えーっと…確かこの辺で2が出たはず…どれだったっけ…」
中盤あたりからルールを掴み、一度開いたトランプは全て俺の頭の中に入ってる。
「あ゛ー!違う!!」
「じゃあ俺の番ね」
俺は愛ちゃんが間違えた2を揃える。
「あ゛ー!!」
「はい、愛ちゃんどうぞ」
カードも残り少ない。これは俺の勝ちだ!
✽
「結ちゃんの勝ちー…」
「やった!」
人生初トランプ。これは楽しい!
「じゃあ、お願い事一つね」
「…」
「愛ちゃんがとぼけて反故にしないように、紙に書いておこう」
「は!?」
俺は近くにあったメモ用紙とペンを取る。
「よし〝一緒にお風呂〟」
「…」
「もう一回しよう!」
俺は意気揚々と愛ちゃんを誘う。
「もうしない」
「勝って終わりたくない?」
「…」
「また俺に負けると思ってる?」
俺は上手く誘導する。
「…負けるわけ無いでしょ」
「よし、じゃあもう一回!勝ったら〝一つお願い事〟をかけて!」
「…」
「愛ちゃん、じゃんけん」
いつも愛ちゃん主導で始まるゲームを俺が仕切る。
「…次は負けてあげないわよ」
「真剣勝負だね。俺も負けないよ」
これまでゲームといった物をした事が無い。
こんなにも楽しい物だったとは…!しかもご褒美付き!
勝ち続けて、俺は愛ちゃんという戦利品を手にする!
✽✽
「5連勝…!」
「おめでとうございまーす…」
あれから勝ち続けて、5戦全勝。
「ご褒美が沢山!」
「おめでとうございまーす…」
意気揚々とする俺の斜め前で、明らかに投げやりな愛ちゃん。
「約束だからね。ちゃんと守ってよ」
「…分かったわよ」
「もう一回しよう」
次で6回目。次は勝ちを愛ちゃんに譲ろう。
じゃないと俺が有利なこのゲームを二度としなくなる。
「次で最後よ」
「分かった」
✽
「やったー!!勝った勝った!バンザーイ!!」
「あーあ、負けた」
やっぱり負けて正解だ。無邪気に喜ぶ愛ちゃんがめちゃくちゃかわいい。
「…なんか棒読みじゃない?」
「…本当に悔しい」
俺に演技を求める方が間違ってる。ここは精一杯で。
「愛ちゃんのお願いは?」
早急に話を変える。
「そうだなー。なんにしようかなー」
結果、俺がご褒美5個。愛ちゃん1個。
「…結ちゃん、目閉じてみ」
「目?」
「〝勝ったお願い〟よ。ほれ、ぎゅっと」
「…なんか恐いな」
即されるまま、目を閉じる。
「絶対開けたらダメよ。…10秒間」
「…叩かないでね」
負けた腹いせでもされるのかな?
「…!」
テーブルの上に置いていた俺の手に愛ちゃんの手が重なる。
見えない分、びっくりしてしまった矢先…
「……」
「…もう…目、開けていいよ…」
俺は慌てて目を開ける。目の前に真っ赤になって目を泳がしている…愛ちゃん。
目を閉じていた間…俺の唇に温かくて柔らかい感触が…。
「…何か言いなさいよ」
「え…今…」
「弄ったら殴るわよ」
「え…なっ…えっ…!」
えっ!?
「今キスしてくれたよね?」
「弄ったら殴るって言ったよ」
「確認です!」
「…」
無言は肯定。だけど…確証が欲しい。
「言葉に…して頂きたい…です…」
「…いっつも結ちゃんからばかりだから、悪いなと思って」
その言葉は肯定。
「愛ちゃんは本当にギブアンドテイクだね」
「…」
「嬉しかった。もう一回して」
「出来るか」
照れて、俺と一切目を合わせない。
「また目を閉じとくから」
「知らない知らない知らなーい!」
天を仰ぎ、首を横に振る愛ちゃん。
だめだ。愛ちゃんが愛しくて仕方ない。
胸の奥から、どんどん気持ちがせり上がって来る…!
「また楽しみにしてる」
「…エロ魔神」
「そうだよ。今日はこれから俺のご褒美が5つあるからね」
「いかがわしい内容ばっかりにしやがって」
照れを紛らわすように俺に悪態をつく。その姿が愛しい。
かわいい。
「お風呂に入りましょう。殿下」
俺は愛ちゃんの手を取る。
暗い夜は苦手だった。
愛ちゃんと出会って、結婚して…
今、夜が待ち遠しい。
今日も夜はまだまだ長い。
それが…最高に嬉しい。
✽✽✽
――ピピピッピピピッ
朝、久しぶりに目覚まし時計の音で目を覚した。
「ん…もう朝…?」
愛しい愛妻もお目覚め。俺は目覚まし時計を止める。
「二人だし、もう少し寝よう」
「うん…」
その言葉を残して、愛ちゃんはまた眠りの中へ。
「あー…かわいすぎる…」
至福の一時。
(結局、全部俺の為のご褒美だったな…)
愛ちゃんにはまた別のお願い事を聞いてみよう。
「…結ちゃん、よく眠れた?」
寝たと思っていた愛ちゃんの目が開いた。
「うん、ぐっすり。愛ちゃんのおかげだよ。ありがとう」
あの一件以来、愛ちゃんはよく俺にそう聞くようになった。
昔は寝るのが嫌いだった。目を閉じると真っ暗になる、それが恐くて目を閉じたくなかった。
疲れ果てて寝落ち。これが俺のスタンスだった。
夜間のアルバイトも相まって、俺の当時の平均睡眠時間は3時間ほど。
そして今、俺は随分長く寝れるようになった。
「寝顔見られたくない。結ちゃんも寝て…」
眠そうな愛ちゃんからお願いされる。
(寝顔なんてもう何度も何時間も堪能してるけど…)
俺は一度目を覚ましたら寝れない。もうしっかり覚醒している。
「結ちゃん、まだねんねよ…」
うとうとと言う愛ちゃんがかわいくてかわいくて…
「分かった」
俺は人生初の二度寝をした。