第20話 スパダリベイビー、駄々をこねる。
「さて、夕飯何食べたい?」
パウンドケーキで腹はパンパン。だけど、夕飯の時間はやってくる。
ある意味、規則正しい。ここはポジティブで。
「んー、…ち、」
「それ以上言わんでいい」
「昼と同じ会話だね」
こいつは止めないと昼と同じく私を指す。
「よし、冷蔵庫を見てみよう」
いかがわしい方向に行く前に止めねば…!
「うーん、あ!」
そうだ、ハンバーグにしよう。結ちゃん思い出のお母さん手作りハンバーグ!
が、私、お肉は使いませんので…
「タカキビのハンバーグにしよう」
「タカキビ?」
「挽き肉みたいな雑穀よ」
それと、海藻が足りてないからワカメスープ。
後は小松菜を茹でよう。よし、メニューは決まり。
…さて、このスパダリさんはどうしようかしら。
「…俺見とく」
「は?」
ベイビーが話しはじめた。
「愛ちゃんが料理作ってるのを見てる」
「…」
ベイビーが駄々をこねはじめた。
「〜!気が散るわ!」
「邪魔しないから!」
「見られてるって無理!」
「料理番組だと思って!」
「閲覧者一人じゃないか!」
「俺の他に誰に見せるつもり!?」
またしても言い合い…。あ、そうだ。
「結ちゃん。草むしりしておいで」
私はにっこりと微笑む。
「年老いたおじいさん達に頼りっぱなしもね…。晩ごはん出来たら呼ぶから。さ、行っておいで」
私は更に微笑む。
「草むしってる結ちゃんは最高にかっこいいだろうね。あー、見たいなー。褒めてあげたいなー」
✽✽✽
「結ちゃーん!ご飯出来たよー!」
最近めっきり甘えん坊が加速してる結ちゃんを引っぺがして、私はキッチンで料理、結ちゃんは草むしりに強制連行。
出来た為ダイニングルームに運んで、結ちゃんを呼ぶ。
「草むしりお疲れさまー。やーかっこいいねー。土が似合う男は!」
「…」
「うーん、お庭も綺麗になったし。結ちゃんのおかげだなー。すごいなー、かっこいいなー」
「…手、洗ってくる」
「はいはい。準備しておくね」
ふー。やれやれ。結ちゃんは何か言いたげだけど、私がマシンガンに話し通した。褒めたし。これでオッケーでしょう!
「「いただきます」」
二人で向かい合って手を合わせる。
「美味そう」
「お口に合えば宜しいですが」
「…美味しい」
「それは良かった」
評価は上場。ホッ。
「小松菜は肝臓にいいから、イライラを抑制出来るよ」
「じゃあ愛ちゃん沢山小松菜食べた方がいいよ」
「はっ!?」
「はい、今」
コイツ…草むしりに強制連行した事を根に持ってる。
「タカキビは心臓にいいよ。後は脳とか」
にっこり。夫婦関係は穏便に行きましょう。
「ご飯食べたらイチャイチャしようね」
「このエロ魔神!」
穏便なんて無理!
「今日は二人きりだよ」
「だからなんだ!」
「どこでイチャイチャしても問題無い」
「あるわ!」
「じゃあ俺の部屋?それかホテル取りましょうか、殿下」
「そういう意味じゃなーい!」
晩ごはん食べてる時に話す会話じゃなーい!
「そうだ!結ちゃん、トランプしよう!」
「トランプ?」
「いつも3時のおやつを食べたら、キヨさん達と全員でトランプしてるのよ」
「へー」
「トランプして、結ちゃんが勝ったら一つ、お願いを聞いてあげる」
…私も成長した。つい話していると気が大きくなってしまう癖を抑えられた。
〝何でも受けて立つ〟から〝一つ〟に…!
「分かった。約束だよ?」
「もちろん!」
よし、ベイビーも乗り気だ!
じゃんけんすら初体験だった結ちゃんはきっとトランプもしたこと無い。ここは私が有利!
✽✽
夕食の後片付けも終わり、リビングでトランプを広げる。
「いつもババ抜きしてるの」
「へー」
「因みに、今の所1位はキヨさん。めちゃくちゃ強い」
「愛ちゃんは?」
「私は2位。後はどんぐりの背比べ。皆さん表情ですぐ分かる」
「…なんか想像つくね」
「結ちゃんババ抜きは知ってる?」
「昔、直くんと貴ちゃんとお父さんとお母さんがしてたけど、俺はしてない」
…なんかまずい事を聞いてしまった。
「誘ってくれたんだけど、家族の輪に入れなくて〝勉強があります〟って逃げて、やったこと無い」
「ごめん…」
「難しい?」
「うーん…あ!神経衰弱にしよう!」
「すごいネーミングだね」
「こうしてバーっと広げて、2枚ひっくり返して…」
私は結ちゃんに説明する。
「出来そう」
「よし、やろう!」
家族の輪に入れず、寂しい思いをした結ちゃんの…
過去を上書き出来るように楽しい思い出になるといいな。
(…一回は負けてあげよう)
トランプ初体験の結ちゃん。勝敗は目に見えてる。
「絶対勝ちたい」
「私は負けないよ」
お願い事というご褒美を前に意気込む結ちゃん。
「じゃあ、まずはじゃんけんでどっちが先にするか決めよう」
「うん」
「「最初はぐー、じゃんけん…!」」
…この掛け声と共に私もスイッチ入りましたよ!いざ!