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第18話 親猿子猿

「嫌とかじゃなくて、何かあったの?」

「何も無いよ」


愛ちゃんに変な虫がつかないようにしてるだけ


「何かお友達から嫌な事でもされたの?」

「まさか言われる立場になるとは…」


直くんや貴ちゃんに元気が無いとき、そう聞いていた事を思い出した。


「…黒崎くんから頭蹴りたいって言われた」

「誰の?」

「俺の」

「まっ!」


本当は愛ちゃんにくっついていたいだけ。だけど、それを伝えたらこの状況が終わりそうで…


〝嫌な事をされた〟状況にしておく事にした。


そうすると、優しい愛ちゃんは…


「うちの子になんて事を…」


この状況を肯定してくれる。


「痴呆が入ってるって言われた」

「ふっ…何それ」


俺の味方となって、怒ってくれるかと思って伝えたら、吹き出して笑われた。


「結ちゃん忘れ物したの?」


そう言ってクスクス笑う愛ちゃんがかわいい。


「んー、内緒…」


あまりのかわいさに脱帽。俺は更に抱き締めて愛ちゃんの後頭部に鼻を埋める。


「いい匂い…」

「…ほぉぅ」

「か…」


わいい、は言ってはいけない。


「結ちゃん、交代しよう」

「交代?」

「今度は愛ちゃんが結ちゃんを抱き締めてあげよう」

「うん、ありがとう」


俺の奥さんからまさかの提案が。俺はがっちりホールドしていた腕を解く。


「…」

「…まだ?」

「早く後ろ向きなさいよ…」

「えっ!?」


前からのハグを期待して待っていたら、愛ちゃんは振り向いたまま固まっていた。即すと、意図しない返答が…!


「交代って言ったでしょ」

「だから愛ちゃんが抱き締めてくれるんだよね?」

「〝後ろ〟からね。はい、早よ向きなされ」

「えー…見えないよ」

「何を見たいんじゃ」

「決まってるだろ、愛ちゃん!」

「〜!恥ずかしいわ!」

「夫婦だよ、もういい加減慣れてよ」

「いつまでも恥じらいを忘れない夫婦でいよう。ほれ、回る!」


愛ちゃんに体をグイグイと押される。仕方ない。ここは妻の意見に従おう。


後ろを向くと、お腹に愛ちゃんの手が回されて背中が温かくなった。



「…なんか親猿子猿みたいじゃない?」

「親猿子猿?」

「なんか絵面が…」

「…」


親と子…猿?…あ、あんな感じかな。前にオーストラリアで見た、コアラの親子。


お母さんの背中にぴったりとくっついている、子供のコアラ。


それが…今の、愛ちゃん…。


…眼福!


見たい。いや、体制を崩したらだめだ。カメラを…!


「なーんて。私は結ちゃんとそんなに大きさ変わらないからね」

「愛子さん…カメラをセットしても宜しいですか」

「は?」

「記念に撮っておこう」

「何を?」

「この状況を…」

「…アホか!」

「いいじゃん!思い出だよ!」

「余計恥ずかしいわ!」

「動画にしないから」

「当たり前じゃ!もう手を離すよ!?」

「!もう言いません!」


怒られた為、断念。だけど、この状況を続けてくれている。



「…お義母さん何か言ってた?」

「え?」


少しの沈黙の後、愛ちゃんが神妙な面持ちで呟いた。

今度は俺が急な話にびっくり。


「ちょっと…この間…私の態度が良くなかった…かも…」

「…何があったの?」


いつから?全然気づかなかった…夫なのに。


「やー、お義母さんは特に気にした感じ無かったから、大丈夫だったと思ってさ…」

「何があったの!?」


俺の奥さんにやっぱり嫁姑問題が降り注いでいたとは…!

(嫁では無いけど!)


「…私の態度が悪かっただけよ」

「理由があるだろ」

「…」

「何か言うにしても、状況が分からないと」

「は?何を言うのよ」

「愛ちゃんが嫌な思いをしてるならそれを改善しないと」

「私じゃない。お義母さん」

「原因があるだろ」

「…」


中々愛ちゃんは口を割らない。これだと改善の余地が無い…


「香川の家を買い戻そうか」

「え?」

「前みたいに、生まれ故郷で暮らして貰えば…」

「ちょっ、ちょっと待って!」


そうすれば、顔を合わせる機会も少なくなる。


「結ちゃんだってさっき〝内緒〟って言った。だから私も内緒。つまり、結ちゃんが責任を感じて動かなくて良いってこと!」

「愛ちゃんが過ごしにくいだろ」

「…私が勝手にお義母さんに対して苛立ったの」

「うん」


愛ちゃんが諦めたように話し始めた。


「結ちゃんが…苦しんでたから…」

「え…?」

「つい…お義母さんのせいで…って…」

「……」

「嫌な顔したと思う…」

「…ありがとう」

「何が?」

「俺の為に怒ってくれて…」


どうしよう。どうしようもなく、嬉しい。


「愛ちゃんに会えて良かった…」

「そこまで振り返る?」

「うん。…産まれて来て良かった…」


本当に、初めて思った…。


「結ちゃん、よしよし」


後ろから愛ちゃんが俺の頭を撫でてくれる。


「結ちゃん…愛してるよーぉぉぉ…」

「最後照れたねぇ」


おかしくて笑いそうになる。


「さらりと言えばいけると思ったんだけどね…」

「言葉にしてもらえるって嬉しいね」


照れて、途中から口調が変わるとこさえかわいい。



〝産まれて来て良かった〟


まさか俺が、こんな言葉を言う日が来るとは…。

過去の自分に会えるなら伝えてやりたい。



ちゃんとご褒美が用意されてるって…。

「何か嫌な事されたの?」の件は【直くんとももちゃん、初恋の行方。】の【第2.5章 短編 スキンシップ】にて!直くんに聞いております(笑)

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