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第16話 ひっつき虫、料理を作る?

あれから数日が立った。休日のお昼下がり、貴ちゃんは遠征。キヨさん達は俺に気を遣ったのか皆で大西さんの故郷へ旅行に行っている。


家には、愛ちゃんと俺の二人きり。俺はキッチンに立つ愛しい愛妻を後ろから抱き締めている。


すると愛ちゃんから声をかけられた。


「ちょいとスパダリさんよ…」

「すぱだり?」


なんて意味だろう?愛ちゃんからの新しいニックネームなのに…。

俺の知らない言葉だ。


「…この状況は変じゃないかね」

「全然」


すぐさま言い返す。何も変なことなど一つもない。


「〜!いや、おかしいって!私身動き取れないんだけど!」

「付いていくから、気にしなくていいよ」

「いや、この状況を説明してみ!」

「み?」


説明って…。ただ俺が愛ちゃんを後ろから抱き締めているだけ。


夫婦なんだから。


「俺の事は虫だと思って」

「余計嫌だわ!」

「なんで?愛ちゃんハエにまで優しいじゃん」


以前、家の中にハエが入ってきた。すると愛ちゃんは「はい、こっちにおいで」って声をかけて、懐中電灯で上手く誘導して外に出してあげてた。


愛ちゃんは虫にまで優しい。だから変な男の虫まで寄ってくる。危機感が足りない。俺がぴったりくっついていないと。


「愛ちゃんが右足出したら、俺も右足を出すから。何も心配いらないよ」

「〜!」


愛ちゃんの肩に顎を乗せて腰から手を回しているだけ。


「今日お昼ごはん何?」

「…結ちゃん何食べたい?」


じっとりと流し目で見られたが、話を変えたら愛ちゃんも答えてくれた。


「んー、…ち、」

「それ以上言わんでいい」

「俺まだ何も言って無いよ」

「分かりやすいわ!」

「言わなくても分かってくれるなんて、俺と愛ちゃん以心伝心」


長年連れ添った夫婦のよう。何とも幸せだ。


「冷蔵庫見てみよう」

「うん」

「動きたいから」

「付いていくから」

「…」

「…」

「これ、二人場折ってやつじゃないの?」

「俺が愛ちゃんを自由自在に操っていいってこと?」

「ポジティブだな」

「大事だよね、ポジティブって」


愛ちゃんは諦めたように動き出した。俺も抱き締めたまま付いていく。


「えーっと…キャベツ、人参、玉ねぎ…よし、焼きそばか焼きうどん!」

「美味そう」

「結ちゃんどっちがいい?」

「愛ちゃんが作りやすい方」

「それは無し!今日は貴ちゃんもいないよ。結ちゃんが自分の意見を言うの!」


俺はこれまで、直くんと貴ちゃんが食べたい物とか、会食する人の好みとかで決めてばかりだった。


だから、これは苦手だ。


「じゃあ、うどん」

「分かった、焼きうどんね!」


俺が意志を示した事に意気揚々とする愛ちゃん。…しかし、食べたいから、で選んだ訳ではない。


本当は以前、おじいさん自慢の手打ちうどんを皆でお昼に頂いた。


その時…俺の目の前でほふほふ言いながら頬を赤らめて、一生懸命熱いうどんをすすっていた愛ちゃんに…眼福。


あの光景をもう一度見たいから、うどん。


…って知られたら。

大丈夫。俺は口を割らない。


「結ちゃんにも手伝って貰おう」

「はい!」


もう〝ごっこ〟では無い。正真正銘の新婚さんだ!


「スープも欲しいね。うどんが粉物だからスープには粒を入れよう。確か雑穀が…あ、あった。もち粟。じゃあ、大根ともち粟のスープを結ちゃんに…」

「俺包丁握った事ないよ」

「もち粟を洗って貰おう」


そう言って愛ちゃんがボウルとザルを用意する。


「このザル買って正解だね。小さな雑穀も落ちないし」

「へー」

「これで、濁った水が出なくなるまでこうやって洗ってね」

「はい」


仕方なく体を離し、俺は言われた通り、雑穀を洗い始める。

愛ちゃんは横で野菜を切り始めた。



「…濁った水ってどのくらい?」

「大体6〜7回くらい水変えて。濁ったままだとエグくなるから」

「分かった」


慣れない作業にドキドキしながらそ~っと慎重に洗っていく。


「大根入れて、出汁昆布入れて…。結ちゃん、このお鍋が沸騰したら洗った粟を入れてね…って結ちゃん聞いてる?」

「え!?」


一生懸命洗っていたら横で次の作業を言われて動揺する。


「そんなに真剣にしなくても…」


愛ちゃんに呆れられた。


「濁った水が出なくなるまでって」

「もう充分。はい、次!」


次の作業はスープが沸騰するのを待つこと。野菜を切る愛ちゃんを盗み見したいけど、俺には重要なミッションがある。


ここは、我慢。


「先生、沸騰しました」

「雑穀入れて」

「…」


これは…ザルをひっくり返すのか?いや、この状況でひっくり返すとこの小さい雑穀は散らばる。

手に取って…


「貸してみ」

「また〝み〟?」


固まってたら愛ちゃんが変わって入れてくれた。ザルをひっくり返して…


愛ちゃん、器用だな。


「で、20分くらい煮て塩入れたら出来上がりよ」

「へー」


凄い。愛ちゃんの手にかかればあっという間だ。


「こっちも具材は切ったから、炒めよう。結ちゃんやってみる?」

「はい!」


人生初、炒める。何事も経験だ。


「はい、玉ねぎ入りまぁ〜す」

「ふっ…。何?その言い方」

「昔デパートの店員さんがこんな感じだった」


愛ちゃんのお茶目な行動に笑わされる。


愛ちゃんと一緒だと、一瞬一瞬がとても楽しい。


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