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第14話 過去の清算は出来ますか?

「お弁当、美味しかったよ。ありがとう」


結ちゃんが私を抱き締めたまま伝えてくれた。


「念願のひじき、ようやく口に入った」

「昨日買って帰ったからね」

「戸塚さんがまた愛ちゃんに会いたいって」


私が落ち着いたのを感じて、きっと気持ちを切り替えれるように明るい話をしてくれる。


外面良男(そとずらよしお)

「なんですか、外面良子(そとずらよしこ)様」


二人で言い合って…


「「…ふっ」」


二人で顔を合わせて笑った。


「好きだよ」


結ちゃんはとろけるような笑顔で、もう一度そう言って、私の頬に触れて涙を指で拭ってくれた。


その手が優しくて優しくて…私を傷つけないように、そっと触れてくれているのが伝わってきた。


「戸塚さんって逞しいよね」


泣いた事が恥ずかしくて、何事も無かったように他愛もない話をする。


「なんで?」

「…黒崎さんってあんなにクールだと…私は恐くて近寄れない」

「当たり前だよ。近寄ったらダメだよ」

「ヤキモチ」

「そう。俺の独占欲に対応出来るのは愛ちゃんしかいないよ」

「そうだよ。感謝して」

「もちろんです、殿下」


結ちゃんを攻撃する事で、私は先程の気持ちを中和する。

結ちゃんは気にした風なく、私の腰に両手を組んで回したまま。


「……」


恥ずかしいから悪態をつこうと思ったけど、やめた。


結ちゃんが…


ずっと穏やかな顔で微笑んだままだから…



私の毒気も抜けてしまった。



「ごめん、迷惑かけた…蔵と池で」


え?


「お、思い出したの!?」


私は結ちゃんの肩に手を置いて目線を合せる。

〝蔵と池〟昨日の結ちゃんは確かに〝開けて〟と言った。


それはきっと、幼少期に蔵に閉じ込められたときの事で間違い無い。


それを今…謝罪するって事は…!


「どこまで思い出したの!?」

「え…いや…」


私の剣幕に結ちゃんが目を泳がせる。これは…


「ごめん、なんかパッと浮かんだだけで…」

「…思い出したわけじゃ無いの…か…」


思わず落胆する。


「思い出せないけど、昨日かなり迷惑かけたみたいだね」


あ。


しまった。これは気づかれても仕方ない。


「俺、愛ちゃんに何した?」


だけど…なんて言ったらいいの?結ちゃんの昨日の症状を…本人に直接言って、もっと酷くなったり…


結ちゃんが…思い出したくない事を思い出させてしまったり…


この責任感の強過ぎる男はきっと自分を責める。



「甘えてきた」


今は隠しておこう。言ったところでいい方には進まない。


「それはいつもだよ。昨日…愛ちゃんも濡れただろ?」

「濡れた?」

「ほら、池から救ってくれて…あれ?」

「結ちゃん…?」


今の結ちゃんの状況が全く分からない。


「…蔵も……」


思い出してるの?違うの?


「……」

「結ちゃん?」

「ごめん、何も覚えて無いんだ…」

「…何も無かったんだよ」

「違う…なんかパッと浮かんだ…」

「……気のせいだよ」


このまま、はぐらかす…?


どうしよう。どうするのが一番いいの?



「結ちゃん…」


私は結ちゃんを思いっきり抱き締める。


「結ちゃん…大好きよ」

「めずらしい。…泣いてるの?」

「私は何があっても…結ちゃんの味方だからね…」


抱き締めている為、顔は見られていない。

胸が押しつぶされそう。当時の結ちゃんを思うと…。


今も苦しんでいる結ちゃんを思うと…。


「覚えて無い事を謝ってごめんね」

「結ちゃんは謝らないといけない事なんてしてないよ」


この人の過去を…私は救えるのかな…?


「昨日…俺が何をしたかは…教えられない?」

「…分からない」

「俺は…愛ちゃんに迷惑かけたのを覚えて無いのは…苦しいよ」

「……」

「言いたくない訳じゃないなら教えてほしい」

「…」

「〝蔵と池〟そして覚えて無い事を想定すると、俺は…生家を思い出して自分の世界に入っていたんだろ?」


中々口を割らない私に、結ちゃんが穏やかな声で私を誘導する。


もう…ここで〝いいえ〟は言えない。


「うん…」

「俺、病院行った方がいいね。覚えて無いって危険だよな」


私は結ちゃんを抱き締めていて、その顔は見えない。

だけど…その空笑いするような声色に、結ちゃんが平静では無い事を知る。


「行かなくていいよ」

「なんで?」

「根掘り葉掘り聞かれて、思い出したくない事まで言わされるかも知れない」

「自分の過去には責任を持たないと」


そう言う結ちゃんの声は凛としてる。何かを決意したように…


「俺は…愛子を幸せにするから」


肩に手を置かれた為抱き締めていた手を離すと、頬に手を添えられて向かい合い


しっかりと目を見つめて、言われた。


「だからこそ、これ以上過去に振り回されない」


熱い視線に吸い込まれそうになる。


「もう、迷惑をかけない」

「迷惑なんかじゃないよ」


私も、凛として返す。


「結ちゃんは…今のままで素晴らしい…」


やっぱり恥ずかしくなって小声になってしまった。


「ありがとう。…いつも愛ちゃんに救って貰う現状はなんとかしないと」

「救えてる?」

「うん、昨日も救って貰った。蔵の鍵を開けてくれて、池から引っ張ってくれた」

「思い出したの?」

「いや…。これまでもあったんだ、何度も。思い出せないけど、酷く体が疲れてて…」

「そっか…」

「だけど、今回は全く疲れてなくて…寧ろスッキリ」

「そう…」

「そんなに照れなくても」

「はっ!?照れてないわ!」


さっきまでのしんみりしてた雰囲気はどこに行った!?


「…私が結ちゃんを救えてるなら…良かった」

「明確な治療をしないと、これから一生愛ちゃんが苦労するよ」

「しないよ。結ちゃんも…私を救ってくれたでしょ」

「いつ?」

「私を、一生独り者かも知れないと言う惨めさから」


周りが次々と結婚して、子供が出来て、その子供達が成長して…だけど私は彼氏もいなければ好きな人もいない。そんな惨めで…生き難い状況から救ってくれた。



私は、この人に救われた。


愛ちゃんが「戸塚さんって逞しいよね」と感じたのはシリーズ小説【脇役女子、奮闘します!〜冷酷な彼にデレて貰いたいんです〜】の【第二章 第11、12話 始まった飲み会①②】をご覧頂けると嬉しいです♪

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