表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/163

第13話 私が一生添い遂げる人

「あ…お久しぶりです。こんにちは…」


声をかけられ振り向くと、結ちゃんと知り合った時のパーティーに出席していた男性がいた。名前は佐藤さん。


「桑野さんだとすぐ分かったよ。綺麗だからね」

「お上手ですね…。ありがとうございます」

「俺の目は美しい物しか見たことがないんだ!ほら俺、親も金持ちだし〜」


当時、連絡先を聞かれ数回メールのやり取りをした。

職業は医者。親も開業医。

…こういう事ばかり、私の頭はインプットする。


「今日は旅行?こんなところで会えるなんて運命を感じるよ。それか…まさか僕をつけてたりして?いるんだよな〜。そういう人!」

「…結婚して、こっちに住んでいるんです」


ほら、私の周りにはこういう自信満々の上から目線野郎が寄ってくる。私はこれが大嫌いだ。


バカにするな、って思う。


「は!?俺聞いて無いけど!」


当たり前よ。


「つーか、連絡してるのに全然既読にならないんだけど!まさか拒否ってるわけ!?」


あんたのメールが〝俺が俺で俺がさぁ〜〟ってなったから〝仕事が忙しくて暫く連絡取れません〟と送ったのを最後に連絡先を消して拒否したのよ。


終わったと思ってたのに、まさかまだ連絡を寄越してたとは…。


「俺以上の男なんていないのに!桑野さんもバカだなぁ」


ほら、やっぱり上から目線。


「素晴らしい人ですよ」


私も対抗して挑発的に言い返す。


(医者だし、結ちゃんの仕事には影響しないはず…)


「彼以上の人に出会った事がありません」


凛として言い返す。


私と対等に接してくれる人。

寧ろ下手に出て、私を立ててくれる人。

傲慢でも、高圧的でも無い。

どんな人に対しても思いやりと礼儀を持って接する人。


私が一生添い遂げようと心から誓った人は、人の気持ちが分かる人徳者よ…!



「はっ…桑野さんって結婚したから?結婚する前の方がおしとやかで良かったけどな」


それは私がそう見せてただけ。素はこっちよ。


「俺を選ばなかったから、おばちゃん街道まっしぐら!」


流石にキレそう。怒鳴りつけてやりたいけど、ここは静かな書店内。それに…結ちゃんとまたパーティーで会う可能性もある。


…仕方ない。


「足止めしまってすみません。私ももう帰らないと。それでは失礼致します」


怒りに満ちていた私を押さえて、微笑んで会釈。

そして足早にその場を後にする。


「……!」


背後から奴が何か言ったようにも聞こえたけど、振り向かない。


引き返さない。



相手にしない。



(結局…結ちゃんの症状が分からなかったな…)



それだけが心残り。




✽✽✽


「何があったの?」


夜、私のいるゲストルームのソファーで寛いでいる結ちゃんから質問された。この男は目ざとい。


「…いや〜」


言うべき?言わないべき?


〝俺以外の男と喋るの禁止〟って言ってたしなー。うーん。


「サラッと出来ない隠し事なら、後で苦しくなるよ」

「ゔ…」


黙っていたらズバリ言い渡されましたよ。


(…そうだよね。ここで言わない方が逆に結ちゃんを傷つける)


「実は…」


私は昼間の出来事を結ちゃんに隠す事なく伝えた。



「おいで、愛ちゃん」

「?」


何を言われるかと思っていたら手招きされた。

立っていた私は結ちゃんの方へと進む。


…と。


――ギュッ…


「悔しかったよね」


優しく腕を取って引き寄せ、抱き締められて、そう言われた。


「…うん……」


耳元で聞こえた穏やかな声に、ずっと強ばっていた私の緊張の糸が解けた。


そして不覚にも、この男の柔らかな低音に安心して…


涙ぐむ。


「ふぅ〜…」

「あー、めちゃくちゃかわいい。食べちゃいたい」


声を出して泣いてしまったら、結ちゃんが宥めてくれて…涙に濡れる私の頬に唇をつける。


「悔しい!結ちゃんにもバカにされた!」

「そう?」

「うぅ…バカー!ペテン師ー!」

「うん。そうだよ」


泣いてしまったのが悔しくて、結ちゃんに八つ当たりすると、穏やかに私に併せてくれる。



本当は佐藤さんに苛立ったのと同時に…恐かった。

一対一で…いざとなったら何かされるかも知れないと思って恐かった。


それを、一生懸命虚勢を張って…帰ってきた。そして、何事も無かったように過ごしてたつもりだった。


〝何があったの?〟


それを言い当てて心配してくれて…

私の気持ちに寄り添ってくれて…



ああ…もう大丈夫なんだって…。この人の前では素直になっていいんだって…


男性に対して虚勢を張り続けた人生を、もう終わりにしていいんだって…



結ちゃんが…全部丸ごと包んでくれる。



「…なんで私が泣かないといけないのよ〜!」


悔しい。男の人と言い合って恐くて泣いてるなんて…負けたみたいで、プライドが傷ついた事を結ちゃんにあたる。


「泣いてるの?…愛ちゃんは泣いてないよ」


結ちゃんは私を抱き締めていて顔は見えていない。だけど、濡れた頬にキスして涙を拭ってくれてる。


つまり、私が泣いているのはバレバレなわけで。



…それでも、私のプライドが傷つかないように気付かないふりをする。


「泣いてない…」

「うん、いつか見せてね」

「見せない。一生」

「見せてよ。俺、夫だよ?」

「知らない。バカ…」

「うん…」


昔、結ちゃんの目の前で泣いた事もあるのに、それには触れない。プライドの高い私をこんなに甘やかしてくれる人。


「好きだよ」

「…知ってる」


屈託なく言われて、恥ずかしくて…ぶっきらぼうに言い返した。



本当に…私には勿体無いくらい素晴らしい人。


私も大好き…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ