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第12話 愛妻弁当

午前中一通り仕事をして、今は昼前。


「黒崎くんがよく言う〝あっちの世界〟に俺が行ってる時ってどんな感じ?」

「…実務に関係のない話は慎んで下さい」

「関係あるよ。いっつもあっちの世界に行ってたら仕事にならないからね」


俺の奥さんが俺の事を心配してる。

〝――戻った…〟と言うことは、またいつものように俺が自分の世界に入り込んでいたのだと思う。


俺は全く記憶にないのだが。


「縁側に佇むおじいちゃんですね」


黒崎くんが話し始めた。


「ぼっけーっと、後ろから頭を蹴りたくなるような感じです」

「…しないでね」


(怖いじゃないか)


まぁ…そんな感じなら愛ちゃんがあんなに血相変える事も無いと思うけど…。

愛ちゃんだってよく〝こっちの世界に帰っておいで〟って言ってるし。


「あ、もうお昼だよ。黒崎くんも愛妻弁当があるんだろ?」

「…なぜそれを」

「戸塚さんが教えてくれたよ」

「…妻ではありません」

「〝まだ〟ね」

「…」


あんなに彼女は作らないと公言していた黒崎くんにも春が来た。お相手は我社の秘書課の戸塚さんだ。


「ちゃんと美味しかったって言ってる?」

「…それこそ実務に関係ございません」

「あるよ。職場のムードが関係する」

「…」

「黒崎くんはいちいち言いそうにないから、お節介だよ」

「…小憎らしい言い方ですね」

「頭蹴らないでね」


――頭?


あ、昨日…


「謝らないと」


愛ちゃんに迷惑かけた。蔵と池。


「は?今更ですか?」

「あ、黒崎くんにじゃないよ」

「ああ、色ボケの方でしたか」

「そうなるのかな」


…ってあれ?


なんで…蔵と池?


「…黒崎くん、今なんの話してたっけ?」

「痴呆ですか?」

「まだそんな歳じゃないよ」

「認知症検査の予約ならお取り致します」

「…実務には関係ありそうだね」


…思い出せない。

だけど…愛ちゃんに昨日救って貰った。


ん?あれ?…なんだっけ?


なんか…そう脳裏によぎったんだけど…


――なぜ?


「ごめん、なんでもないよ」

「そうですか、それでは失礼致します」

「うん、ありがとう」



――パタン


黒崎くんが俺の自室から出て行き、一息つく。


なんだろう。さっきの。

とにかく昨日迷惑かけたから謝れって頭に浮かんだんだけど…


「…お弁当食べよう」


最近、昼が待ち遠しい。愛妻弁当が加わったからだ。


秘書課の皆にプレゼントしてもらったお弁当箱を広げる。


「あ、ひじき」


貴ちゃんに食べられて俺の口に入らずじまいだったひじきが入っていた。


スマホを触りメールを見る。奥さんからお弁当の内容メールが届いている。これも新たにルーティンに加わった。


「えーっと…ひじきレンコン煮、厚揚げと人参の煮物、人参葉のゴマ和え、昆布の佃煮ね」


美味そう。


「〝悪夢撲滅メニュー〟…悪夢?ああ、蔵と池か。」



……あれ?


「なんだ…今の…」


思い出せない。



(…なんかよく分からないけど、取り敢えず謝っておこう)


夫婦関係は穏便にいきたい。…大丈夫だよな?





✽✽


――ザー


お弁当を食べ終えて、お弁当箱を洗う。


「「あ、お疲れ様です」」

「ご苦労様。ごめん、すぐ濯ぐから」


給湯室に秘書課の木崎さんと戸塚さんがやってきた。


「CEO、ご自分でお弁当箱洗うんですか!?」


木崎さんに声をかけられる。


「うん、早く洗った方が気持ち良くてね」

「いい旦那さんですね〜」

「そうだと嬉しいね。黒崎くんは洗わないの?」


戸塚さんに話を振る。


「あの鬼はそんな事しないでしょ〜」

「由紀ぃぃ」

「ごめん…」

「私のダーリンは綺麗に綺麗に食べてくれてるんです」


幸せそうに戸塚さんが続ける。


「きっと私に〝美味しかったよ〟を伝えるために残さず食べて渡してくれるんです。」


つまり、洗わないという事か。


「幸せそうだね」

「あ、分かります〜?」


終始ご機嫌な戸塚さんに安心した。


「また奥様と一緒に飲みに行きましょう〜」

「えー真紀子ばっかりズルい!私も話してみたい」


以前、戸塚さん達と夫婦で飲みに行った。


「「CEOのプライベートを知りたいです」」

「…面白く無いと思うよ」


二人に声を揃えて言われた。


「大人カップルの日常って凄く気になります」

「ね!なんかべったりしないけど支え合うみたいな!いやーん、ドラマ、ドラマ!」

「僕は甘ったれだよ」

「そうやってご謙遜されるところがもうすでに遠といです!」

「奥様も穏やかで優しいし、喧嘩どころか言い合う事すら無いですよね!?」

「いや…」


…ほぼ毎日言い合ってるけど。凄く些細なことで。


「うちなんてドリンクのキャップの締め具合で大喧嘩しましたから!」

「どうせ由紀から喧嘩売るんでしょ?」

「飲もうと思ったらキツくて開かないんですよ!」

「それぐらいでー」

「真紀子なんか鬼相手だからね。忍耐つくよね」

「は!?」


なんか雲行きが怪しくなって来た。


「二人ともお相手と調和が取れてるね」

「「あ、すみません。足止めして!」」

「いや、楽しい会話をありがとう」


そのまま給湯室を出て、洗ったお弁当箱を持って自室に向かう。


(…俺のプライベートは愛ちゃんにべったりだけど。…なんか色々と誤解されてるような…)


愛ちゃんいわく大きなベイビー。…否定はしない。

〝黒崎くんにも春が来た〟の件は【脇役女子、奮闘します!〜冷酷な彼にデレて貰いたいんです〜】というシリーズ小説にて!


〝プレゼントのお弁当箱〟と〝夫婦で飲みに行った〟件は上記小説内の【第二章 第10話 CEO夫妻との飲み会のはずが…?】にてご覧いただけると幸いです♡

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