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第11話 うちのスパダリさんがおかしい


うちのスパダリさんがおかしい。


「結仁さん、忘れ物ないですか?」

「うん、ありがとう」


お弁当を手渡し、いつものルーティンをこなす。


「貴ちゃんも大学まで気をつけて行くんだよ」

「うん!分かった!」


ここも、いつも通り。



…昨日のは……一体なんだったんだろう…?





〝先に寝てて〟


とは言われたものの、暗がりが苦手で寂しがり屋な結ちゃんを思うと、温かく迎えてあげたくて…


リビングで結ちゃんを待っていた。


深夜近くになり、ついうとうととしていた私は玄関から物音がして目を覚した。


(帰って来た!)


慌ててソファーから飛び起きて、小走りで玄関ホールまで向かう。


(結ちゃん、びっくりするかな?…喜んでくれるかな?)


結ちゃんが驚きながらも喜んでくれる姿を想像して……


「結ちゃん?おかえ…」


結ちゃんの姿が見えて、声をかけた。

だけど、なんか…様子がおかしい。


「……」

「結ちゃん?」


返事が無い。


(まーた、あっちの世界に行ってるな)


このスパダリさんは時々自分の世界に入る事がある。


(よーし!耳元で〝わっ!〟って言ってみよう!)


イタズラ心も交えて、結ちゃんに近づく。


「…?結ちゃん?」


なんか…違う。

小さな違和感。結ちゃんがあっちの世界に行ってるときは、ぼーっとしてるだけ。


今は…思い詰めたような…ずっと下を向いていて、だけど身体は動いてる。いつものように、靴を脱いで…


あ、これは…昨日見せた、顔。


〝俺無しでは生きていけなくなったらいい〟


あの時の、顔だ。


(どうしよう、どうしたら…)


こんな事が初めてで…


「…開けて下さい……」

「え?」


下を向いたままの結ちゃんから小さな小さな声が聞こえた。

(開けて?)


「すみませんでした……」

「な、何が?」

「許して下さい……もう…許して……」

「結ちゃん…」


ブツブツとか細い声が続いて…今、結ちゃんの意識がここに無いことを察知する。


(なんとかしないと…!)


もしかしたら、記憶が過去に飛んでいるのかもしれない。

そう思って、ふらふらと歩こうとする結ちゃんを抱き締める。


「結ちゃん!」


この人の闇はどれほどなんだろう。これまでもこんな事があったのだろうか?それとも初めて?


私は必死に結ちゃんを抱き締めて名前を呼ぶ。

ここで私がしっかりしないと…!


「――…あ、あれ……?」


強ばっていた身体からふっと力が抜けた。そして…いつもの、声。


恐る恐る顔を上げると、結ちゃんの瞳がしっかりと私を移していた。


「――戻った…」


しかし、一連の流れを結ちゃんは記憶していなかった。

そして、それぞれ自分の部屋で寝ることになったのだが…



妙に気になって眠れない。



(大丈夫かな…?)


先程の様子が気になり、いてもたってもいられず枕を持って結ちゃんの部屋へと向かった。




「……夜這い?」


口調はいつもの結ちゃんだけど、顔が青白い。


(…やっぱり大丈夫じゃ無かった)


「よしよし、ねんねーころりー」


結ちゃんを抱き締めて、優しく頭を撫でる。さっきの事には何も触れずに。


ただ結ちゃんが…



安心して、穏やかに眠れるように……。



それが昨日の出来事。


✽✽




「愛子さん、お茶を入れましたので、飲みませんか?」

「あ、はい。ありがとうございます。いただきます」


考え込んでいたら、キヨさんから声をかけられた。

大西さん家族と共にダイニングルームでお茶を飲む。


「……」


いつもなら他愛もない話をして和やかに過ごしているのだが…。


(なんか…今は…お義母さんの顔を見たくない)


「愛子さん?」


キヨさんから声をかけられたが私は残り少なくなったお茶を口に入れる。


「…あ、ごちそうさまでした。私、ちょっと出かけて来てもいいですか?急ぎの用事を思い出しましたので」


誰とも視線を交わさず、立ち上がる。


「タクシーを呼びましょうか?」


キヨさんが穏やかな声で提案してくれ、なんだかゾワゾワしていた気持ちが少し和らいだ。


「運動がてら歩きます。話の腰を折ってしまい申し訳ありません。皆様はゆっくりされて下さい」


変に思われないように、皆様に向かって微笑んで、その場を後にした。



最後に目の合ったお義母さんにやっぱり気持ちが向かう。



私の…


愛しい人に



一生消えない心の傷を負わせた人。



…お義母さんだけが悪い訳でもないのに、目の前にいるからか私の矛先がそちらに向かう。



私の愛しい人を産んでくれた人。



それなのに………



✽✽


「いらっしゃいませー」


電車に乗り大きな書店にやってきた。用事とは、これ。


(結ちゃんの昨日の症状を…)


それらしき本が置いてそうなフロアへと向かい、本を手に取り見ていく。


(夢遊病…?とかなのかな…?)


酷く怯えた顔をしていた。なのに、声が届かない。


〝開けて下さい〟〝許して〟

きっと、あれは幼少期のもの。


(私が…結ちゃんを救ってあげたい)


本に目を通すが、中々これ!というものが無い…。


私は次々と本を捲っていく。


と…


「あれ?…もしかして…桑野さんですか?」

「え?」


夢中になって本を読んでいると、声をかけられた。

その方向へ振り向く…


「あ…佐藤さん…?」

誰!?(笑)

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