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第7話 腕枕論争


「――でお願いします」


メニューを注文して暫し待つ。


「いい枕買えて良かったね」


先程買った枕を話題にあげる。


「ほーんと!これだとぐっすり熟睡出来るよ!」


そう言って嬉しそうに喜ぶ、愛ちゃん。

俺が買ってあげたものを喜んでくれるのは嬉しいんだけど、


(暗に…俺の腕枕が嫌だったと…聞こえるんですけど)


「帰って、開けるの楽しみ!」


そう言って、買った枕を抱き締める。


(…俺、そんなに強く抱き締められた事ないけど)


「…そうだね」


楽しいデートがズーンと気持ちが沈む…


「…何考えてんの?」


ぴしゃりと突っ込まれた。


「…何も」

「結ちゃんは愛ちゃんに嘘をつくの?」

「…愛ちゃんだって言わないじゃん、俺に。」

「…何を?」

「……腕枕」


なんか…言ってて情けなくなって、つい小声になってしまった。


「…分かった。じゃあ今度から愛ちゃんが結ちゃんに腕枕をする」


怒らせたかと思ったら、斜め上を行く…宣言。


「そんな事させられない」

「なんで?」

「…俺がしたいの」

「だからたまには交代。お母さんが腕枕をしてあげるわよ、結ちゃん」

「……」


もう…彼女の気持ちは固まっているよう。


「愛ちゃんの腕を俺の頭が敷くなんて出来ない」

「それは私だって同じだよ」


…そうだった、愛ちゃんは


ギブアンドテイクの人…


「…そこは…男女区別で」

「結ちゃんは腕枕派、私は普通枕派。この価値観の不一致を統合するのにはお互いの主張を纏めないと」


そして…説明になると理論的になる人だった…


「俺の頭の重量と愛ちゃんの重量は違う」

「私は髪も結ちゃんより長いし、顔の大きさには自信がある」

「…それ、自信になる?」


人の顔の大きさってそんなに違い無いと思うけど。


「体重計に頭乗せて、計ろう」

「そこまでしなくても…」


だめだ。言い合いになると俺はなすすべがない。


「だから、結ちゃんに合わせて私が結ちゃんを腕枕する。いい?分かった?」

「腕痺れるよ」

「まぁ、腕は筋肉より贅肉が勝っている」

「そういう意味じゃなくて…」

「私の事を気遣ってくれてるんだよね?」


なぜか言い合いから言い当てられる。


「だったら結ちゃんも分かったよね?私も気を遣うの」


…やられた。愛ちゃんの伝えたい結末に持って行かれた。


幸せだったのに…名実共に俺のものである俺の奥さんを実感して、眠りに落ちる。



味をしめてしまった、至福のとき。



それを継続出来るように…なんとかまた、策を練らないと。




✽✽✽


「「いただきます」」


料理が運ばれて来て、ランチを食べる。


「わー、豪華だねぇ。」

「そうだね」


目をキラキラと輝かせる愛ちゃん。


「リミッター解除!」

「リミッター?」

「あ…食欲…」


打って変わって恥ずかしそうに目を泳がせる愛ちゃん。


「か…」


わいい、は、言ってはいけない。


「何よ」

「なんでもないよ。沢山食べてね」

「腹黒大魔王」

「俺は何も言ってないよ」


意味を読まれたかは分からないけど、しれっと返す。


「こんな食生活を続けていたら、肥満になる。それはすなわち、健康に悪い」

「それは困る」


元気で俺より一日でも長く生きてもらわないと。


「…ペテン師さんはひ弱じゃ無かったの?」

「は?」

「毎日歩いてるから体力があるのは分かる。でもジムで筋トレしてるわけじゃないんでしょ?」


急に尋問に変わった。


「それなのに筋肉ついててさ…。細マッチョ?って言うの?歩いて草むしりするくらいじゃそんなに筋肉はつかないと思うのよ」

「…」


ここでようやく愛ちゃんの伝えたい意図が分かった。


「ひ弱そうだった?」

「昼は食べないって言ってたしね」

「結婚して体力があるのが分かった?」

「…そこから先は年齢制限」

「年齢制限?」


照れたのか急に顔を無表情にする。だけど、顔色までは隠せない。


ほんのり、ピンクの頬。


かーわいい。


「ラグビーの付き添いしてるからね」


だけど、ここは弄るのはやめよう。きっと怒らせる。


「貴ちゃんや貴ちゃんの友達がトレーニングルームで筋トレしてる時に〝お兄ちゃんこれ出来る?〟って見せてくれるんだ」

「うん」

「俺はそれを褒めちぎるわけ」

「…目に浮かぶわ」

「そしたら、その子達が〝教えてあげるからやってみてよ!〟って」

「…大学生だよね?少々子供っぽくない?」

「みんな小学生の頃から何一つ変わらないよ」

「結ちゃん、みんなのお兄ちゃんになってるよ」

「うちの貴ちゃんと仲良くしてくれる子はみんなかわいいよ」

「…話がそれてるよ」

「…だから、ジムではシャワーだけだけど、ラグビー付き添いの時に、誘導されるまま筋トレしてる」


子供達が得意げに〝こうするんだよ!〟って言うから、俺を引き合いに出して褒めるつもりが、続けるうちに俺にもしっかり筋肉がついた。


「なるほど…」


愛ちゃんはなぜか妙に納得して頷く。


「私もジムにでも行こうかなー…」


すると、そう呟く。


「なんで?」

「歩いてジム行って運動して歩いて帰ったら健康にいいよ」

「ジムは男がいるからダメ」

「は?」


俺の奥さんは危機感が全く無い。


俺はしっかりと主張すべく、愛ちゃんを見据える。


「行くなら女性100%の所か、俺と一緒に行くか」


腕枕は俺が折れたんだから。ここは俺に譲って欲しい。

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