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第10話 俺のソウルメイト?トラウマを消し去る為に賭けに出る

 

 桑野さんと食事をして以来、彼女が東京に月に一度来る日に合わせての食事がなんとなく定番になった。

 季節は初春。年度末を迎えようとしている。



 進展はあったかと言えば、ない。


 月に一度、会って食事をする。それだけ。

 二人で食事に行ったのは三回。来月もまた行く約束をしている。


 ……友達と言えるくらいの関係だろうか。


 この一連の流れを誰かに言ったらきっと、急かされる事だろう。何かアクションを取ったほうがいいと。


 それは俺に関係を進める気持ちがあればだが、俺には無い。俺は一生一人。


 彼女と会うたび、気持ちは揺らぐけれども。


 話していたら、驚くほど共通点が多かった。まさかの同い年。あの広いパーティー会場で同い年に会えるとは。

 そして独身で彼氏もいないと聞けたし。


 ポーカーフェイスの奥で、かなり心が高揚した。





 ✽✽


「それをね、世の中ではソウルメイトというのよ」

「そうですか」


 占い師の知り合いの女性とホテルのラウンジでお茶。俺は顔が広い。色んな職種の人が周りにいる。


「彼女は三井さんから動いてくれるのを待ってるかもよ?」

「それは、どうでしょうか。僕は動く気もないですしね」


 彼女は結婚したら子供が欲しいらしい。これは前の食事のときに聞いた。つまり、俺は不適合者だ。


「……運命の人はね、一人に付き必ず一人は割り当てられているのよ」

「そうですか」

「三井さんが独身貴族を貫くなら、三井さんの運命の人は一生幸せになれないのよ?」

「……」


 占いを否定するつもりは無い。俺も吉日には拘る。占いも好きな方だ。

 ただよく分からない自分の運命の人の幸せの話をされてもついていけない。


「仮によ? もし、彼女が三井さんの運命の人だとしたら、彼女、一生幸せになれないのよ?」

「それは……」


 もしそうだったとしたら不憫だ。俺が幸せにしてあげたい。


「〝それは〟? 何?」


 ! 駄目だ。今の気持ちは却下だ。何を考えているんだ俺は。


 桑野さんは美人だ。雰囲気も柔らかく優しい。

 彼女を慕う男は山ほどいるはずだ。


 高嶺の花。今はたまたま彼氏がいないだけで、彼女さえその気があればすぐに彼氏が出来るだろう。勿論結婚も……。


 あの笑顔が他の男に向けられるのか。幸せそうに他の男と笑うのか。


 ……誰にも渡したくない。俺に微笑んで欲しい。


「答えは、三井さんの魂が知ってるわよ。頭で考えるのもホドホドにね」

「そうですね」


 ビジネスは右脳でスパスパ決めていくのに。どうしても桑野さんの関係においては左脳優位だ。


 桑野さんを誰にも渡したくない、だけど、俺とでは幸せになれない。


 ……不毛だな。


「まずは、三井さんのトラウマを消し去ることね」







 ✽✽✽


 家に帰り、自室の机に座る。

 もう寝ないと。



 トラウマ、か。


 トラウマの原因は分かってる。


 俺を産んだ人だ。



 俺が産まれたから、皆が不幸になった。

 俺が存在するだけで皆が……。


 それは昔の話だ。

 三井の家に貰われてから、今は生きてて良かったと思っているし、長生きしたいとも思ってる。


 それは、弟達と仕事の事で、パートナーシップに至っては全く考えが変わらない。


 俺みたいな疫病神と一緒になる人は……可哀想だ。

 それが、俺が好きな人なら尚更。


 好きな人か。


 ……うん、もう認めよう。気持ちだけは認めよう。

 俺は桑野さんが好きだ。それはずっと変わらない。

 11年前……あのケーキ屋で会ったあの時から、ずっと好きだった。



 誰かの物になってほしくない。俺を好きになってもらいたい。


 俺だけのものになって欲しい……。






 もう寝ないと、と思っているのにクローゼットの奥の奥を探す。


 使うことは出来ないけど捨てることはもっと出来なかった。


「あった……」


 古びた便箋。貼られてある切手は足さないと今は金額が違う。なんせ28年前のものだ。


 その古びた便箋を見て、胸にこみ上げてくるものがある。

 なんとも表現出来ない……胸がいっぱいで。



 その古びた便箋に意を決して文字を書く。失礼のないように。


 これは俺が京都の屋敷を出る前日に腹違いの長兄が持たしてくれたものだ。

 夜も深まり、皆が寝静まった中、そっと俺の部屋に訪ねて来たお兄さんが俺に渡してくれた。

 バレたらお兄さんは罰を受ける。俺みたいな汚い子供と同じ空間にいることさえ許されなかった。それなのにお兄さんは俺の身を案じてくれた。どこへ行くかもどうなるのかも分からない俺を心配して、何かあったらすぐに連絡出来るようにと。


 〝ばれんように持っとくんやで。何かあったら、いつでも頼って欲しい〟


 お兄さんは本当に優しい人だった。他所で子供を作った父である旦那様と恐ろしい正妻の子供とはとても思えない位俺を気遣ってくれた。



 お兄さんには迷惑をかけられない。

 この便箋は使えるはずも無いけど、お兄さんの優しさに捨てる事は出来なかった。

 当時はお守り代わりにずっと肌見放さず持っていた。


 それをまさか28年経って使うことになるとは。




 ✽


 翌朝、切手を足して投函する。住所も宛名もお兄さんが書いて下さっていた。……俺が投函するだけでいいようにして下さっていた。


 28年経ってはいるが家は変わっていないはずだ。旧家だし。お兄さんは跡取りだ。確か8つ違い。今は41歳か……。


 きっと立派にお家を継がれて、御当主になられているはずだ。


 ……確実にお兄さんの元に届くかは分からないが、俺の携帯の番号を書いた。

 もし、正妻にバレても大丈夫だ。俺はもう、何も出来なかった子供じゃない。




 一か八か、これはビジネスと同じだ。俺は賭けに出る。

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