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第1話 俺は一生一人

『直くんとももちゃん、初恋の行方。』シリーズです。

↑第三章の最終話 繋がっていく が終わった年の冬の物語からスタートです。

上記作品をご覧頂くとより分かりやすいです。


『お兄ちゃんのこれまで』がプロローグの様になるので、是非ご覧下さい(*^^*)

 

 ずっと孤独だった。


 寂しかった。


 誰か……たった一人の運命の人と出逢って、心の底から溶け合って一つになりたい。


 自分のこの虚無感を何とかして埋めたかった。


 自分は愛なんか似合わないし、そんな事を思っている事自体がもう既におかしい。


 男とは心の傷すらも味として自分の深味に変えるもの。



 ……それが俺の持論だ。








 ✽


 三井結仁、33歳。職業は大手企業の最高経営責任者。

 家族構成は弟が二人、同じ職場で働く23歳の直之と大学一年19歳の貴将。それとお手伝いのキヨさん。四人家族。



 この春、婚約の決まった上の弟の直之から「結婚しろ」と詰め寄られた。



 弟と言えども血が繋がっていない。そして、亡くなった両親とも。


 それは俺は養子だから。



 血の繋がったの父は京都の歴史ある旧家の長男だった。産みの母は知らない。


 ――俺は自分が大嫌いだ。



 俺はどんな血が流れているかも分からないおぞましい存在で、ひっそりと死に絶えたいと考えている。


 弟二人、立派になったのを見届けて、迷惑をかけないように死んでいきたい。


 ……そう思っているのに、その事を考える度にふと、過去に三度会った女性の顔が浮かぶ。


「今頃、どうしてるんだろうな……」


 その女性と初めて会ったのは10年前。会社近くのケーキ屋だった。人に気を使えて、ふわりと微笑むその人の顔が目に焼き付いて忘れられなかった。


 二度目はその次の日、出勤途中に反対側の道路を歩いている所を見かけた。


 三度目は業界主催のパーティーで。名刺交換して、挨拶をした……。


 厳密に言うと〝交換〟はしていない。

 声をかけられ、名刺を俺から差し出した。


 ……自分の名刺を渡しただけだ。



 お近づきになる、千載一遇のチャンスだったのに。あの後すぐさま知り合いの社長に声をかけられ、その間に彼女はいなくなってしまった。


 しかし、あのパーティに来ていたということは、これから先も会う機会はある。


 そう、……完全に油断していた。


 仕事をやめたのか、たまたま居合わせただけなのか、以来、彼女とは会えていない。



 つまり、名前も知らなければ、どこの誰とも分からない。




「俺って本当に抜けてる……」

「ようやく自覚されましたか」

「……」


 自分の世界から引き戻され、気付く。ここは職場だった。息抜きがてらボーッとしてたら、突然秘書の黒崎くんに声をかけられた。


「ノックはしましたよ? 返事がありませんでしたので、生存確認のため、勝手に失礼いたしました。」

「生存確認って……」


 黒崎くんはズバズバと俺に物を言う。一般社員からCEOになった俺には、黒崎くんのように、言いにくい事を鋭く言ってくれる存在はとてもありがたく、貴重な存在だ。


 俺が立場にあぐらをかいて、慢心する事のないようにしてくれる。



 もうここ最近の定番だ。時間があればあのときの女性を思い出す。

 初めて会ってから、もう十年もたった。


 とても綺麗な人だった。背も高くてモデルかとも思った。きっと彼氏とか……もしかしたら結婚してるかもしれない…


「……」


 グラグラと俺の中のドス黒い血が騒ぎ出す。三度しか会ったことのない女性に対して、独占欲を剥き出しにする俺はやはり、汚い。


「CEO、本日はこの後、来客の予定です」

「うん、ありがとう」


 黒崎くんはそう言って部屋を後にした。


(今から仕事の続きをしても中途半端になるな)


 俺はもう一度椅子に深く座る。



 俺は自分を産んだ母親を知らない。この身体にどんな血が流れているのかを知らない。


 俺は自分が汚らわしい人間だと思っている。だから、結婚なんか出来ないし、勿論子供も残せない。


 分かっているのに、あの女性が他の男のものかもしれない事実が許せない。


 こんな事を最近いつも考えてる。きっかけは分かってる。

 弟の直之に結婚相手を探してやると言われてからだ。


 ……結婚するなら彼女がいい。


 俺は結婚しないけど。



 最悪な男だな。自分の都合ばかりだ。現実を受け止めよう。


 彼女と接点もない。どこの誰とも分からない。以来7年間会えもしない。




 〝お前は一生一人〟


 宇宙からそう告げられているんだ。

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