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第五話 山の麓の町のとある物語 その2

一章は前置きみたいなものなんで適当に流して読んでいただければ幸いです


 役場を出て洋服店に二人は向かった。向かってる途中でカズヨシは疑問を口にする。


「あの、この国の相場は知らないんですけど、魔物討伐でなんでそんなにいっぱいお金がもらえるんですか?」

「そりゃ、できる人間が少ないし、そもそもこれは大人数でやるもんだからな。例えばさっきの仕事を十人強の傭兵で一週間でおわらせりゃ、割って結局一人当たりの配当は少し給料がいいくらいになるだろう?」

「師匠は一人で受けるんですか?」

「ああ、ワシは強いからな」

「なんか、かっこいいですね!」

「よせ。おだてても何も出んぞ」


 少し照れ臭そうにユウサイはそういうと早足で服屋に向かう。


 ついた服屋は特段きれいな建物というわけではなく、普通の民家のようであった。中に入り適当な値段の服をユウサイが見繕う。


 カズヨシはその傍らで着せ替え人形のように黙って選ばれた服のサイズを確認していく。服の趣味に関しては特に言及しない。そもそも購入してもらえることが幸運なのだからそれに文句を言うなどあり得ないと考えたからだ。幸い、ユウサイの服のセンスは特段悪いわけではなったため、一般的な服を数着入手することができた。


 服屋を出ると次は薬屋、その次は鍛冶屋を回った。その途中でカズヨシの目に一つの建物が目に留まる。


「あれはなんて書いてるんですか?」


 建物を指さし、ユウサイに尋ねる、


「ああ、あれは図書館だな」

「図書館」ふいに声に出してしまう。

「行きたいのか?」

「いや、その、そんなことはないです」


 手を振り、必死に否定する。買い物を終え、役場に向かおうとするユウサイを止めたくはなかったカズヨシの謙虚さのあらわれであった。


「そうさな、もう少し読み書きができるようになったら行ってもいいぞ」


 そう言ってユウサイは兜越しのカズヨシの頭を乱暴に撫でまわす。


 否定はしたものの、二年以上学校に行っていないカズヨシは少しでも遅れを取り戻すために自主的に勉強ができるならやっておきたいと思っていた。


 よく、テレビで貧しい国に生まれて学校にも通えないという話を聞いてうらやましいとさえ思っていたカズヨシだが、実際に自分がその立場になると、相手の気持ちがよくわかるものだとしみじみ実感していた。


 そのため、ユウサイの言葉を受けてあまり表には出さなかったが、カズヨシは兜の内側で少し微笑み、ユウサイに感謝した。


「ありがとうございます」


 そして二人はたんたんと役場に向かった。


 役場に行くと先ほどの老人が「待っていた」と声をかけてくる。話を聞くと先ほどの依頼の報酬額が見直され報酬は銀貨300枚になるとのことだった。


 ユウサイからすれば希望していた額よりもかなり低いが、それでもかなりの金額である。また、きょう一日でそれなりの額を使っていため、貯金額も底を尽きかけていた。そのため、渋々ながらもユウサイはその依頼を引き受けることとなった。


 ユウサイは依頼を引き受けるにあたり、必要な書類を提出し、「期待しとけ。近日中にまた来る」と、言って、そそくさと役場から出て行った。


 二人は町に来た目的がすべて完了し、山道に向かう。陽は高く、まだ時間には余裕がある。


「初めての町はどうだった?」

「うーん、なんとも」

「言葉はちゃんと聞き取れたか?。人前じゃだんまりだったが」

「まあ、半分ちょっとくらいは……」


 ユウサイが町の人々と流ちょうに会話している反面、カズヨシはこちらの言葉に慣れておらず、ほとんど聞き取ることに専念していた。それでも知らない単語が多く、ほとんどは頭から抜けていく。


「それじゃあ、これから何をするかはわかるか?」

「ええと、魔物退治?、ですか?」

「まあ、その通りだな。これからワシは大ヘビ退治だ」

「大ヘビ……」


 その単語を聞き、思い出したくもない記憶がよみがえる。


 半年前の地獄のような惨劇。それは幼い少年の心に深い傷をつけるのには十分なものであった。


「まあ、思うところはあるだろうが、あまり、深く考えるな。ワシだって思い出したくない出来事の一つや二つはあるが、そんなものは何の役にも立たん足かせでしかない。だから忘れるのが一番賢い。長生きしたいならおぼえておけ」


 そう言ってユウサイは行きとは打って変わってゆっくりと山を登り始めた。それから山小屋に戻るまでにかなりの時間がかかり、すっかり日も暮れていた。カズヨシのペースにユウサイが合わせたことや、大蛇の痕跡がないかなどを調べていたからだ。


 その日は残念ながらあの大蛇の痕跡が見つかることはなかった。いや、カズヨシにとっては幸いなのかもしれない。


 翌日、ユウサイは朝早くに大蛇の住処を探しに出かけた。それを知っていたカズヨシはユウサイが出ていくとともにある計画を実行することにしていた。


 カズヨシは一度奴隷となったことで、己の命について深く考えるようになっていた。それと同時に、自分の寿命についても同様に考えるようになっていた。そのため、自分の命があるうちにできる限りのことをしておきたいと考えていた。命の大切さに気付いたことで急速に知識欲が湧き出たのだ。


 その手始めとしてまず、ユウサイから語学と剣術を教わっている。どちらもまだ身になっていないが、語学であれば簡単な読み書き、剣術であればいくつかの基本を押さえられるようになっていた。


 この二つに加え、カズヨシは何かもう一つ、打ち込めるものが欲しいと考えていた。そのため、町の図書館でこの世界の知識を収集しようと考えたのだ。


 ユウサイが出ていき、戻ってこないことを確認したのち、いつもの兜を装着し、カバンには昼食の干し肉を入れ、山を下り始めた。


 帰ってきた道を思い出し、一人で明け方の山道を歩くことには抵抗はあったが、何とか昼頃には山を下り、何とか町につくことができた。


 昨日同様、あまりにぎわっている様子はなかったがカズヨシからすれば、山と比べるとやはり心躍るものがある。また、一人で山を下ることで達成感も発生し、大量のアドレナリンが分泌される感覚を彼は知った。


 図書館は山道の入り口からも見える目立つ大きなレンガ造りの建物である。一度しか来たことがないといっても道を間違えることはなかった。


 入り口の扉は重く、重厚なもので、体格に恵まれないカズヨシにはなかなかに厳しいものであった。中はカビ臭く、老朽化も進んでいるようでところどころ壁にはひびがあったが、本だけは丁寧に保管されているらしく、本棚の木目は美しく磨かれていた。


 中央と、壁際には本を読むためのイスと机がいくつか用意されており、すでに何人かが使用している。


 カズヨシは一通り図書館内を探索し、興味を持てそうな本を手に取る。あれもこれもと欲張るうちに辞書のように分厚い本を十冊ほど持ち出し、空いている席を探す。


 運よく壁際の一席が開いており机に両手いっぱいにかかえる本を乱暴に置く。


 数学、農業、政治、化学、歴史、武術、etc……。様々な分野の専門書を持ち出す。


 一冊、一冊、適当に目を通していくも、どの本も彼にとって、それほど興味を惹かれるものではなかった。


 どの本も堅苦しい専門用語ばかりで言語に乏しいカズヨシでは辞書を片手に読み解くも、ほとんど理解することはできなかった。小学校高学年の少年に小難しい専門書を読ませること自体、無理のある話なのだろう。


 結局、平民の識字率を向上させるために国から出版されている語学書に行きつくのであった。国から正式に発行されているものということもあり、内容はそれなりにしっかりしていたため、ユウサイから教わるものよりも幅広い知識がカバーされていた。もっとも、この本には致命的な欠点がある。この本を読むためにもともと文字を読める人間が必要な点である。これでは平民にはなかなか浸透しないだろう。


 かろうじてカズヨシは基本的な構文を理解していたため、ゆっくりと読み進めていくが、やはり効率が悪い。


「でもなぁ……」


 本の貸し出しには住人証が必要と壁にでかでかと貼り付けられていた。仕方がないと思いつつも本を読み進める。あまり効率は良くないがそれでもユウサイが仕事に出かけている以上、この本で勉強するのが一番効率の良い手法なのだ。


 また、このような参考書を読んでいるとどうしても紙とペンが欲しくなった。山ではユウサイが剣の稽古で薄くスライスした木版と墨を使って文字の練習をしていたがさすがに村ではそうすることはできない。いかに日本が恵まれていたかをいやでも改めて彼は思い出す。


 結局、読むばかりでは気力がもたず、数時間後には兜の内側をよだれで濡らすことになった。

 


次回の投稿は明日の18:00ごろになります

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