第四話 山の麓の町のとある物語 その1
一章は前置きとか、設定的な部分が多いので戦闘シーンとかは少なめです。二章からは戦闘描写を増やす予定なのでこの章はサラッと読み流していただければ幸いです
詳しくは第十二話のあとにある、これからについてをご覧ください
ユウサイは三十年ほど前、合戦にて敗走していく途中でこの世界にカズヨシ同様、奴隷となるべくしてこの世界にやってきた。
しかし、召喚主は運悪く武装状態のユウサイに惨殺され、彼は鉱山から脱出し近くに山小屋を作り、そこで日々剣の修行に明け暮れていた。
日々の生活は山にいる獣や、山菜を食べ、金が必要な時のみ山のふもとの町で仕事を請けている。
五年ほど世界各地を旅もしており、そのさなかで現地の言語はほとんど読み書きできるようになったらしい。
「よーし、次はあそこの薪を運んどいてくれ」
「はーい」
カズヨシが拾われてから半年近くが経過した。大蛇に負わされた怪我はほぼ完治し、今ではユウサイの手伝いをよくするようになっていた。
カズヨシは普段、ユウサイからもらった、ぶかぶかの西洋兜をかぶるようにしていた。東洋人の子供はこの国ではめったにいないため、さらわれてまた奴隷にされるかもしれないし、ストレスによってできた白髪やニキビを隠すという意味でもその兜はカズヨシにとって必需品となっていた。
また、時折ユウサイに剣術を教わるようになった。ユウサイはあまり人に教えたがらなかったがカズヨシ自身のつよい希望から稽古をつけるようになった。
「師匠―、薪木、運び終わりましたー」
「よろしい」
そういうとユウサイはカズヨシと自分自身の稽古に入った。
ユウサイの剣術。それは戦国の世の修羅の技をこの世界の怪物と戦ううちに昇華させたものであった。一太刀一太刀が必殺の一撃であり、実に可憐なものである。
カズヨシは日本にいたころ漫画やアニメで見たようなその絶技に魅了され、心からユウサイを尊敬した。
しかし、ユウサイ自身はどこまでも自分に厳しく、常に理想を追い求め自分を未熟者とよく口にした。しかし、決してカズヨシにはその理想を押し付けることなく剣術の基礎を徹底して教え込んでいた。
カズヨシとしては自分もはやくユウサイのような絶技が繰り出せるようになりたくてこっそりとユウサイの技を盗み見し一人で練習したりしていた。
剣術のほかにもユウサイはこの世界における常識や文字の読み書きをカズヨシに教えていた。もっとも、まだ半年しかたっていないため、カズヨシはどれにおいても身になっていないのではあるが。
「今日は町に行ってみるか」
「まち……ですか?」
「ああ。この山のふもとのエラス町だ。言語は書くのも悪くはないが、やはり聞いて話すのが一番上達につながる。いい経験になるだろう。それにそろそろお前の服なんかも買ってやらにゃならんしな」
カズヨシは現在、ユウサイの来ていた服の丈を短くしたものを着ている。しかし、肩幅はどうしようもなく、いつも不格好な服と不釣り合いな兜がなんとも幼い雰囲気を醸し出していた。
カズヨシの傷も完治し、ちょうど寒くなりだす時期でもあるため、ユウサイは町に行くことを決め、カズヨシに身支度をさせた。
「師匠、町まではどのくらいあるくんですか?」
「うーむ、まあ、片道三時間といったところか」
「うぇぇ、そんなにあるんですか?」
「まあ、歩いてみればすぐよ。ほれ、行くぞ」
ユウサイはそういうとカズヨシなどお構いなしに歩き出した。
「ま、待ってくださいよぉー」
しばらく歩くとカズヨシはあんのじょう、音を上げだした。奴隷時代の忍耐に加え、最近はよく食べ、よく寝るため、体力もついてきているカズヨシであったが、それでもユウサイのペースにはなかなかついていくのが難しかった。
いや、むしろ一時間もついてこれたことをほめてやるべきなのだろうとユウサイは思う。
「このくらいで音を上げとると山を下るだけで日が暮れるぞ」
半分笑いながらユウサイはカズヨシに声をかける。ユウサイのペースは明らかに常人のものではなかった。現に、ここまでついてきたカズヨシはもう歩くことすら苦になるほどであった。
「仕方ない」そういうとユウサイはカズヨシを抱え上げる。
「え、師匠、これってまさか……」
「そのまさかだ」
そういうとユウサイは疾風のごとく山を下ってゆく。ユウサイのもとで暮らすうちに何度か体験したが、その勢いにカズヨシは毎回、乗り物酔いになったような感覚になっていた。
がけを飛び越え、獣のように木を渡るようにしてユウサイは山を下る。物の十数分で山を下り終え、カズヨシを下すと兜越しにもわかるほどカズヨシは衰弱していた。
「いい加減なれんか」
「さすがに無理です……」
そう言いながら周囲を見渡すと、あまりにぎわっている様子はなかったが、そこには確かに町があった。畑があり、レンガ造りの家屋があり、商人が露店を開いている。
「うわぁ!」
いまさらながらカズヨシは自分が別世界に来たことを実感する。
文明レベルは明らかに彼が元居た世界よりも低く、一般的な平民は農作物を育てて生計を立てている。一部違ったものがあるとすれば魔法があることだろう。
もっとも、彼が想像するような派手なものはほとんど存在しないらしく、大概は少し力を増やしてくれる、水をきれいにしてくれる、などの日用的なものばかりなのだという。
現に、目の前の農夫は魔法を使って荷馬車に信じられないほど早く荷物を運び込んでいる最中だった。
「そういえば、師匠は魔法って使えないんですか?。師匠の剣術ってものすごい速さだし」
「ワシは使えんよ」
「うっそだぁ」
「魔法なんぞ使えたならワシは今頃、世界最強の剣士だっただろうな。つまり、ワシには才能がなかった。そして、それだけワシの上がおるということじゃ。ほれ、行くぞ」
そういうとユウサイはキツネの面をつけ町に入っていった。ユウサイも東洋人のため、厄介ごとを避けるという意味で面をつけているのだ。
しばらく歩くとこぎれいな建物中に入っていく。
「ここはどこですか?」
「役場だ」
「や、役場……!」
一瞬カズヨシは身構える。奴隷だった自分を引き渡そうとしているのではないかと考えてしまったのだ。
「アホウ。お前はワシの息子だ。おいそれと他人に渡さんわ」
そう言ってユウサイは建物入り、立派な髭を生やした老人のもとに歩いていく。
「何か仕事はないか?。できるだけ高額なやつを頼む」
「ユウサイか。相変わらず奇妙な面をつけとる。かえって目立たんかそれは」
「こいつには薄いが隠ぺいの魔法がかかってる魔法使い以外には目立たんよ」
ユウサイのキツネ面には旅の途中で出会った魔法使いに気配を薄くする魔法をかけてもらっていた。そのため、めったなことでない限り、周囲はユウサイを気にも留めないのである。
「そっちの不格好な子供はどうした」
「ああ、ワシの息子だ」
「おぬしの?」
「ああ、ワシのだ」
「……ふむ、まあ、深くは聞かんが、ほれ、この辺りがおぬしにはおあつらえ向きかの」
そう言って老人は後ろの掲示板から一枚の書類をユウサイに差し出す。
この世界の役場には時折、怪物退治などの依頼が舞い込んでくる。たいていの場合は大都市から傭兵を派遣したりして依頼をこなすのだが、ユウサイはそれを目当てに役場に時折顔を出す。
「どれどれ……山の主討伐、報酬は……銀貨100枚って、ぼったくってねぇか?。あの化け物は以前見たことがあるがありゃこの五倍の報酬はもらってもばちは当たらん化け物だったぞ」
「今は町にも金がないんじゃよ。大体、銀貨20枚でひと月は暮らしていける額だというのに、そんなに稼いでどうする」
「うちの息子は成長期なんだ。これから先、確実に入用も増える。いつまでもワシも体が動くとは限らんから蓄えは必要なんだ」
「ふむ、とは言ってものう……仕方ない。後でこい。上の人間に掛け合ってみる」
そう言って役人は奥の部屋に消えていった。
「だそうだ。先にお前の服を買うぞ」
次回は16:00ごろ投稿になります
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