第三十七話 伯爵領の悪魔 その20
魔法は大きく分類わけすると、現象系と物質系の二つに分けられる。
現象系魔法とは、炎や雷、見えない壁。ほかにも重力や光など、形のない多種多様な現象を扱う系統のものを指す。
対して物質系魔法は水や鉱物などを単純に作り出すことに重きを置いた系統のものを指す。
一般的に現象系魔法は自由度が高く、魔法陣も複雑になりがちで、奥が深い分野であるのに対し、ただ物質を作り出すのみに重きを置く物質系魔法は単純な魔法陣となることがほとんどである。
そのため、物質系魔法の魔法陣であればカズヨシであれば一目見れば一瞬で判断がつくはずなのだが……
(なんだ……あの魔法陣は⁉)
先ほどの光の収縮魔法と比較するとやや魔法陣に書き込まれた幾何学模様の密度は低いように見えたが、それでもやはりカズヨシには理解できない魔法式から導き出されたであろう記号によってその魔法陣は形成されていた。
次の瞬間、魔法陣は消滅し、それとともに夜空に無数の鈍い光が出現し、それは次第に大きく、鮮明になっていった。
魔法の正体、それは複数の隕石であった。それも大小さまざま、落下地点もランダム。ユウサイ一人で村を守ることは不可能である。カズヨシの作った試作品のスクロールなど、紙切れほどの価値も持たない。
落下までの時間はおよそ五秒弱。しかし落下地点は予測がつかない。それを悟った瞬間、カズヨシは刀で地面に簡単な魔法陣を物の二、三秒でかきあげる。“加速”の魔法陣である。
魔法陣を書き上げるとともに魔法を発動させ、空を見上げ落下の直前まで隕石の落下地点を予測する。
運よく魔法が功を奏し、カズヨシは隕石の落下そのものの直撃を避けることはできた。しかし、迫りくる衝撃波に吹き飛ばされ、意図せずはるか後方に逃げ去ることができたのであった。
落下の直前になけなしの魔力をもとに空中で魔力による魔法陣を書き上げ、“浮遊”の魔法を発動させる。
息を整え、上空からあたりを見渡すと、それはまさに地獄絵図であった。
建物は倒壊し、ところどころから火の手が上がり、隕石の破片によって人々は命を奪われていく。
文字通り村は壊滅状態にあった。当初の目的はすでに達成不可能である。かろうじてエルザの家には被害が及んでいないようだが、村がこのありさまでは彼女一人を救えたところで意味がない。
カズヨシは言い訳の言葉を考えるよりも先にユウサイがこの戦闘を終えるとともにこの村を逃げ出す手はずを整えるべきだとしみじみ思うのであった。
もっとも、カズヨシにはユウサイがあの化け物に勝つはっきりとしたビジョンが浮かび上がらなかった。
村の入り口では今もなお壮絶な戦闘が行われている。
ノヴァによる圧倒的な魔力による殺戮魔法と、ユウサイによる修羅の絶技による応酬。
迫りくる隕石はユウサイの刀の届く範囲に入るや否や瞬時に真っ二つにされ、切り裂かれた隕石を踏み台にし、ユウサイはノヴァに歩み寄る。
しかしノヴァも多種多様な魔法を駆使しユウサイの斬撃に迎え撃つ。それは幻影魔法による分身であったり、尋常ならざる出力の全方位放射魔法であったり、とにかくカズヨシの知識をはるかに超えるものばかりであった。
二人の戦いを前に思わずカズヨシは息をのみ、同時に己の無力を思い知る。
中位悪魔の単独撃破という偉業を成し、自分の剣術に多少の自信を持つことができたカズヨシだが、やはりユウサイと比べるとそれは吹けば飛ぶ木ノ葉のような、致命的なまでに薄っぺらいもののように思えてならなかったのだ。
魔法もまた同様である。図書館通いをして毎日魔導書ばかりを読み漁っていため、魔法の知識に関してそうそう他人に負けることはないだろうと自負していたカズヨシだが、やはり悪魔と比べるとそれはどうにも心もとないものであり、もはや実践においてはほとんど意味をもたないほどに陳腐なものでしかなかった。
ユウサイの流麗なその一太刀は、形なき魔法を切り裂き、続けざまにノヴァの肉体をもシュレッターにでもかけたかのように分断する。
ノヴァの圧倒的なまでの魔法は、空を裂き、大地を揺るがし、切り裂かれた肉体を瞬時に回復させてしまう。
あまりにも二人の強さはカズヨシから隔絶されたところにあり、その一端すらも測ることは不可能なほどなのだ。
その二人のどちらが強いかなど、カズヨシに判断がつくはずもない。
一見、攻撃をすべて相殺し、なおかつノヴァを何度も切り裂いているユウサイが優勢に見えるが、それはあくまで人間の視点から見たものに過ぎない。
どれだけノヴァを切り裂こうと瞬時に回復され、一つミスをすれば一撃で命を刈り取る魔法が常に飛び交っているのだ。これではとてもユウサイが優勢とは言い切ることができない。
カズヨシはただ、ユウサイの勝利を祈るばかりであった。
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