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第三十二話 伯爵領の悪魔 その15

「“空断ち”」


 特に何も考えず、一番この技がしっくりくるような気がした。そんな理由からカズヨシはユウサイの編み出した絶技を不完全ながらも再現する。


 迫りくる氷の柱をスローモーションの世界を切り裂くように、真っ二つに切り裂く。続く第二、第三の柱も同様に目にもとまらぬ高速の刃をもって切り裂き、その勢いのまま一筋の線となってハインリッヒに迫る。


 ハインリッヒはその光景に驚愕し、目を見開くとともに槍を構え、カズヨシの軌道上を切りかかる。


 その速度は先ほど同様、驚異的なものであるが、カズヨシにはそれすらもまるで、ゆっくりとカタツムリが這うかの如く、目に映る。


 そして、刀を振り上げ、ハインリッヒの氷の槍に接触と同時にひびを入れ、


「せぇい‼」


 ひと思いに掛け声とともにふり抜くことで一刀両断するのであった。


 ハインリッヒは両断された槍を投げ捨て、瞬時に魔力壁を展開する。


 カズヨシはそんなものはお構いなしといったように振り抜いた刀の切っ先を再度、ハインリッヒに向け、深々と腰を落とし、肩ほどの高さで刀を構える。


 目にもとまらぬカズヨシの技にハインリッヒはこの瞬間、初めて恐怖するも、自分の魔力壁に絶対の自信をもち、カズヨシを迎え打つ。


「—————!」


 カズヨシの構えた刀は一呼吸する間もなく振り抜かれ、それはハインリッヒのものよりも早く、鋭い一太刀であった。


 しかし、それでもハインリッヒの魔力壁を破ることはかなわず、カズヨシは不愉快極まりないといった表情で歯を食いしばり、ハインリッヒは嘲笑にその顔をゆがませる。


 その時であった。ピキッ、という卵のカラが割れるような音が二人の間に小さく響く。それはわずかなものではあったが、ハインリッヒの魔力壁にひびが入った音であった。


(私の魔力壁にヒビだと……!。この男にいったい何が起こった⁉)


 先ほどまで確実に格下であった人間に突如起きた変化。それはハインリッヒの心をかき乱し、冷静な判断を鈍らせる。


 魔法は人間であれば生粋の魔術師や、相当な訓練を積んだものでなければ、スクロールなしに無詠唱や、魔法陣なしで発動することは困難を極める。


 現に、カズヨシもスクロールを用いてハインリッヒと戦っていた。であればこの変化は魔法によるものとは考え辛い。


 しかし、そうでないのならば、いったい何がこの少年をここまで変えたのか、ハインリッヒには全く見当がつかないのだ。


(まさか、この私に対して手を抜いていたのか?。人間風情が、この私に⁉)


「なめるなよ!、人間!」


 その言葉とともにハインリッヒは半径十数メートルを円形にくまなく魔法陣を展開させ、次々と様々な魔法を出現させる。


 鉄槍、氷の柱、炎の球、風の刃、とにかく多種多様な魔法がカズヨシを取り囲む。


「貴様にこれだけの魔法がかわせるか!。私をコケにしたこと、後悔して死ね!」


 怒髪天を衝き、激情に身を任せるハインリッヒは全魔力を注ぎ込む。


 それとは対照的にカズヨシはいたって冷静であった。ハインリッヒが魔法を展開し終え、カズヨシに魔法の雨を降り注ぐまで、のこり数秒もありはしない。


 しかし、カズヨシはある事実のみを確実にとらえ、考えを巡らせる。


 一太刀でハインリッヒの魔力壁にひびを入れることができたのだ。


 ならば——


 カズヨシは魔法の展開に夢中になるハインリッヒをよそにもう一度振り下ろした刀を再度、肩の高さまで構えなおす。そして今度は右足を大きく後退させ、どっしりと腰を落として、左手をまるで照準を合わせるように伸ばす。


「“八目穿ち”」


 刹那、ハインリッヒにはカズヨシの刀が八つに分かたれたかのように視界に映し出される。


 それとともに、つんざくような甲高い亀裂音が響き渡り、ハインリッヒの魔力壁は無残に破片となって周囲に飛び散る。


 “八目穿ち”。一呼吸のうちに文字通り八回の突きを繰り出す絶技である。


 昔、ユウサイの突きは鈍重で、美しさのかけらもなかったらしい。そんな中、刃物での攻撃というのはそれ自体が強いというのに、一突きでは殺せない獣と対峙することになったらしい。そんな獣を倒すためにユウサイは一呼吸のうちに二突き、三突き、とじゅんじゅんに数を増やしていったという。そして、どんな敵も八回つけば確実に殺すことができたらしい。


 そのため、ユウサイが一呼吸のうちに敵を倒す必殺の絶技として“八目穿ち“を完成させた。


 初めて成功させた“八目穿ち”ではあったが、それはカズヨシにとって満足のいくものではなかった。


 “空断ち”や“水面”の時もそうであったが、ユウサイの放つものであったならば、もっと早く、鋭く、重く、それでいて美しい。それはもはや芸術の域であり、到底カズヨシのたどり着ける位置にあるものではなかった。


 しかし、今はそれを嘆く時間はない。


 間発を入れずカズヨシはハインリッヒの首めがけて“空断ち”を放つ。


 それは確かにユウサイのものと比べるとどうしても見劣りしてしまう完成度のものではあった。しかし、それでも十分すぎるほどの速度をもって刃はかの者の首を通り過ぎるのであった。


「あ、ありえ……ない」


 そう口にしながらハインリッヒの首はボトリと落ち、展開されていた魔法陣は燃えるように夜空に書き消えていった。




次回の投稿は15日になります

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