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第二十九話 伯爵領の悪魔 その12

遅れて申し訳ありません……

 魔法陣を書き物なしに出現させる行為は魔力消費が激しく、本来であれば緊急時以外は用いるべきではないとされている。しかし、人間と違って、悪魔の膨大な魔力からすれば、そんなものは些細な違いでしかないのだ。


「できるだけ平和的に済ませたいのですよ。警告しておきますが、今であれば間に合いますよ。お引き取り下さい」

「見たところ、あなたでは我々を撃退することは不可能だと思うのですが、ずいぶん自信がおありのようだ。よろしい。カリーナ様。ここは私共にお任せを」

「いいだろう」


 カリーナと呼ばれた灰色の悪魔はカエルの悪魔と巨人の悪魔に許可を与えると、そそくさと馬車の中に戻っていってしまった。


「ありがとうございます。ヘイル、お前は周りのゴミどもを始末しろ。私はあのふざけた鎧の男を嬲り殺す」

「食ッチマッテモイイノカ?」

「構わん」


 カエルの悪魔の言葉を受け、巨人の悪魔は下卑た笑いを浮かべ、品定めをするように周囲の人間たちを見渡す。


「ゲヘヘ、人間ノ肉ハ結構ウメェンダ。感謝スルゼ」


 巨人の悪魔はよだれを垂らしながらゆっくりと歩き出した。その姿に村人は恐怖し、思わず後ずさりする。


「ひるむな!。敵はたかが一体だ!。何としても食い止めるぞ!」


 村人の誰かがその場の皆を鼓舞する。それに続き、決意を固めたように次々と雄たけびを上げて村人は悪魔に突撃を開始していった。


 しかし、まるで人形遊びでもするように次々と村人は悪魔の拳によって吹き飛ばされ、次々と死傷者を出していった。それでも昼間のペンタグラムの兵士らが中心となり、果敢に悪魔に挑んでいくのであった。


「こちらも始めると致しましょうか。私の名はハインリッヒと申します」

「ご丁寧にどうも。僕は……」

「ああ、あなたの名は聞く必要はありません。覚えるだけ脳みその容量の無駄遣いというものです。この場で死んでしまうんですから」


 そう言ってハインリッヒは先ほど出現させた魔法陣から氷の柱を十数本出現させ、カズヨシめがけて発射させる。


「失礼な悪魔だ」


 カズヨシは間一髪でその槍をよけ、懐から一枚のスクロールを取り出し、ハインリッヒに投げつける。


 スクロールはハインリッヒに到達する一歩手前で爆発し、緑色の液体をハインリッヒの目の前でまき散らすのであった。


 カズヨシの放ったスクロールに込められていた魔法“爆酸”は指定した場所に酸をまき散らす魔法である。


 この魔法には直接的な打撃などはないため、“防壁”などの基礎的な防御魔法では防ぐことができない。


「くだらないですね」


 ハインリッヒは何事もなかったかのように円形の薄い魔力の膜を半径一メートルほどに展開させ降り注ぐ酸の雨を回避する。


 それはもはや名前の付いた魔法ではない。魔力壁と呼ばれる、単純に自分の持ちうる魔力を具現化させるものである。カズヨシにもできないわけではないが、ハインリッヒのように半径一メートルもの広範囲に展開させることはできない。せいぜい、拳を覆う程度のものである。


 酸はハインリッヒをよけるように地面に流れ落ち、きれいに周囲の草を溶かす。


「頑張ってくださいよ」


 ハインリッヒは手のひらを頭上に掲げると先ほどの氷の柱とは違い、魔力を帯び、細かな造形が施された氷の槍を出現させた。


 間髪入れずにハインリッヒは槍を構えカズヨシに突進してくる。


「!」


 カズヨシはぎりぎりのタイミングで腰から鞘ごと刀を引き抜き、槍による斬撃を受け止める。


(間に合った!)


 そう思った瞬間であった。刀と槍が触れ合うその瞬間、腕からとてつもない衝撃を受ける。それはあまりにも重く、とても人間が真正面から受け止められるものではなかった。


 実際、カズヨシは十メートル近く後ろに吹き飛ばされることになる。


 ハインリッヒの腕の太さとカズヨシの腕の太さにそれほどの違いはない。にもかかわらず、明らかな力の差がそこにはあった。それはまるで、クマかなにかの、大型の獣と対峙した時のそれにすら似ていた。おそらくはこれが人間と悪魔の差なのだろう。


 わけがわからず、衝撃を地面に流すも、ハインリッヒは容赦なくカズヨシに襲い掛かる。


(集中しろ)


 己に言い聞かせる。それともにまたも強烈な一撃が飛んでくる。


 今度もやはり真正面から受け止めれば相当な力となってその身を吹き飛ばすことだろう。ただ受け止めるのではだめだ。そう思い、とっさにユウサイから教わった、唯一の守りの技を繰り出す。


「ほう、受け止めましたか」

「完全とは程遠いですけどね」


しばらく忙しくなりますので次回の投稿は9月ごろにります。

申し訳ありません……

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