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第二十八話 伯爵領の悪魔 その11

遅れてしまい、申し訳ありません……


「ワシは先に向かっているぞ」


 そう言ってユウサイは一時間ほど前にゆっくりと伯爵の館に向かっていった。

残された村人やカズヨシは村の防備である。


「そっち、スクロールお願いします」

「おう」


 カズヨシたちは村の入り口周辺にスクロールを配置している最中であった。スクロールに封じ込められている魔法は“防壁”。一度のみではあるが一定威力以下の攻撃を防いでくれる強力な魔法である。


この魔法をガラスのようにユウサイはパリンパリンと破ってしまうが、それはかなり異常な例であり、この魔法を破ったユウサイもよっぽどのことでなければ壊れることはないだろうと言っていた。


「しかし兄ちゃん、こんなにスクロールを大量によくそろえれたもんだな……」


 スクロール貼りを手伝っている村人の一人がカズヨシに問いかける。


「これは僕の作った試作品です。商品として売り出せるほどのものじゃないですから、気にしないでください」

「へえ、兄ちゃんはスクロールが自作できるのか」

「あまり出来は良くないですけどね」


 カズヨシが村人に渡したスクロールは野営用のものである。本来であれば森などで眠る際、獣の攻撃などを防ぐために使うものである。


 その程度の役割さえ果たせればいいため、カズヨシはスクロール作成の練習として“防壁”の魔法のスクロールを大量に生成していた。枚数としては百枚程度。多いように感じるかもしれないが、効果が一回限りという点を考慮するとあまり安心できる枚数ではない。


 また、市販されているものであっても効果は一回のみでせいぜい魔法の強度が少し強くなる程度であるため、あまりこの魔法のスクロールは売れないため、出回らない。


「さて、これで最後かな」


 カズヨシは最後のスクロールを張り終え、周囲を確認する。


 ユウサイの影響を受け、数十人の村人が村の警護のためにと立ち上がってくれた。村人の士気はかなり高い。中にはユウサイに負かされたペンタグラムの兵士もいる。


 日は傾き、やがて夜が来る。その意味を村人たちはしみじみとかみしめ、槍や剣を握りしめる。


「あの、カズヨシさん」


 振り返るとそこには、エルザが不安げにカズヨシの後ろに立っていた。


「どうかしましたか」

「ここまで来てしまって、その、こんなこと言うのも失礼な話なんですけど、どうして私を助けてくれるんですか?」

「それは師匠に聞いてほしいんですけど……そうですね、これは僕、個人の考えになりますけどそれでもかまいませんか?」

「はい」

「あえて理由をつけるなら、師匠があなたを助けるといったから、ですね。でも、きっと、そこに深い理由なんてないんですよ」


 カズヨシの言葉にエルザは首をかしげる。


「うちの親父はお人よしなんです。だから困ってる人はほっとけないんですよ。たぶん、僕もそうなんだと思います。だから、あなたを助けるんです」


 正直な話、カズヨシ自身、ユウサイの決定にうなずいてしまった理由はよくわかっていなかった。ただ勢いに任せて首を縦に振ってしまったが、やはり後々になって考えてみるとメリットが一つもないし、むしろデメリットばかりが付きまとう。


 報酬は出ない。命の危機もある。おまけに野営用のスクロールも使い果たす羽目になる。どう考えても受けるべき依頼ではない。


 それでもなお、この依頼を受けてしまった理由はやはり自分がユウサイのようにお人よしになってしまったのだろうとしみじみと思うのであった。


「うふふ、優しいんですね」


 エルザは晴れやかにそう言って破顔した。


「どうなんですかね。自分にもよくわかりません。さ、そろそろ村に隠れててくれませんか?。さすがにあなたを守りながらというのは厳しいものがありますから」

「……わかりました。生きて、帰ってください」


 エルザは最後にカズヨシに笑いかけ、村の中に消えていった。それとともに日は没し、村人は静まり返る。そして、耳を澄ます。


 遠くから馬の走る音と馬車の車輪の回る音がかすかに響いてくる。しばらくすると、否が応にもその正体を視認することとなった。


 馬の足音。それは馬、というにはあまりにも立派なものであった。足元をこうこうと青く光らせ、透き通るような白い毛並みの白馬。そして一番の特徴は角が生えていることである。あれがいわゆるユニコーンという生き物なのだろうとカズヨシは瞬時に理解した。


 そのユニコーンは一台の漆黒の馬車を引いていた。カズヨシは馬車から、何か、得体のしれないまがまがしい肌を刺すような気配を感じる。


 ユニコーンは村の入り口前まで馬車を引くと停止し、馬車を止める。そしてひとりでに馬車の扉が開き、その中から貴族風の恰好をした悪魔が三体、姿を現した。


「ふむ、ずいぶんと品のない連中がぞろぞろと集まったものだ。今日は宴か何かが催されているのか?」


 そういったのは灰色の肌をした美しい美男子の悪魔である。人とは異なった異様なまでの色気を発している。その男の問いに隣のカエルのような頭の悪魔が返事をする。


「そんなことはないはずですが……なんでしょうね?」

「関係ナイ。俺タチノ役割ハ娘ヲ連レ帰ルコト」


 そう返答した男はどこかぎこちない話し方をしていた。男は見た目は人とそれほど変わりはないが、一番体が大きく、三メートル近くはあると思われた。また、白目をむいていて、ヨダレもだらだらと垂らしている。カズヨシからすればこの悪魔のほうがよっぽど品がないのだが、きっと彼らの基準と人間の基準というものは異なるのだろう。


「フム、その通りだ。確かに私たちには関係ない。さて人間どもよ。娘を差し出せ」


 灰色の悪魔は堂々と人間の前に出ると、その場にいるすべての人間を見下すようにそう言い放った。その視線はとても冷たく、鋭く、一瞬でその悪魔の強大さを示唆するものであった。


 先ほどまで使者の悪魔を追い返してやろうと息巻いていた男たちもその視線を受け、肌で血の気が引くことを体験する。


 圧倒的強者。その明確な敵意の視線。それは男たちの戦意をそぐには十分すぎるものであった。


「丁重にお断りいたします」


 村人がたじろぐ中、カズヨシは一人足を踏み出し、悪魔と対峙する。彼の役割は時間稼ぎなのだ。何も戦う必要はない。交渉で時間を稼ぐことができればそれが一番なのだ。


「ほう、それはなぜだ」


 悪魔は驚いたように眉を引くつかせ、腕を組む。


「あなた方に娘を差し出す義務は私どもにはございません。お引き取り願いたい」

「義務はない、か。なるほど。確かにその通りだ。確かにお前たちが娘を差し出す義務はない。しかし、それが何を意味するか分かっていっているのだろうな」

「そうですね。大方村を滅ぼすとか、そういう類のことをおっしゃられるのでしょうね。ですが、一つお尋ねしたい。この村を滅ぼしてあなた方に何のメリットがあるのでしょうか?」

「そうだな。我々に逆らった村がどうなるか、という見せしめにはなる」

「なるほど。では、なぜ娘を周期的にさらいに来るのですか?」

「それを答える必要があるのか」

「ありませんね。ですが、返答次第ではそちらにすんなりと、我々も娘を差し出すこともあり得るでしょう。村を滅ぼして回るよりは楽だと思いますよ」


 悪魔は少し考えたのち、忌々し気にカズヨシをにらみつける。


 確かにカズヨシの言葉は真実である。エルザがより幸福な環境に置かれるというのであれば喜んで彼女を差し出すだろう。


 しかし、そんな可能性は万に一つもない。しかし、悪魔側としてはカズヨシの言葉に乗らなかった場合、交渉よりもせん滅を選ぶ、頭の悪い悪魔、という印象を人間たちに与えることとなる。


 そうなれば、より一層人間たちの恐怖心をあおることになり、魔獣が数多く生息する周辺の林や草原を超えてでもこの地から逃げ出そうとするものが出てくる。そうなれば今までと違って娘をさらうことも難しくなる。それだけは何としても避けなくてはならない。


「若い女の血肉には特殊な魔力が宿る。わが主はそれを摂取することで力を増し、やがて魔界の頂点に君臨することを目標としている。だから若い娘が必要なのだ」


 悪魔は渋々自分たちの目的を話す。そしてカズヨシはその言葉を聞き、思わず眉を顰めることになる。


 悪魔の話はおそらく真実だろう。昔の伝承でも悪魔が女をさらうというのはよくある話だ。そしてその手の話で悪魔が村を滅ぼして回ったという話はない。しかし、問題はそこではない。


 今あの悪魔は確かに、自分には主がいると言っていた。それはつまり、この悪魔以上の怪物をユウサイは相手にしているということを意味していた。


 一目見たとき、ペンタグラムの副隊長を追い返したという悪魔はこの悪魔なのだろうとカズヨシは考えていた。それだけに圧倒的な実力を兼ね備えていた。少なくとも昔見た上位悪魔よりも強いことは確実である。


「つまりは食料、というわけですか」


 カズヨシは平静を装って淡々と言葉を返す。


「その通りだ。我々としては何も、お前たちを一人残らず殺して回ろうなどと考えているわけではない。税も取るつもりはない。ただ、定期的に娘を差し出しさえすればそれでいいのだ。それだけで生贄の娘達以外は永住を許可している。悪い話ではないだろう」

「いや、そもそもあなた方に税を納める義務は我々にはありませんし、娘を差し出す義務もありません。もとからこの村の人たちにはこの地に住む権利があるのですよ。ですから、本日はお引き取り願えま……」


 カズヨシがそう言おうとした瞬間、突如、氷の柱が飛んでくる。そしてカズヨシにあたろうとした途端、スクロールが発動し、薄いガラスの膜のようなものが出現し、氷の柱と膜はお互い衝突し、跡形もなく消え去った。


「まだ話の途中なのですが……」

「聞く必要はないと判断した次第です。はっきりといえばいい。我々が目障りなのでしょう?。でしたら、なすべきことは一つなのでは?」


 そう言ってカエルの悪魔は右手を肩ほどの高さまで上げると、背後に無数の魔法陣を出現させた。


次回の投稿は8/23日の18:00~18:30ごろになります

ブクマとかしていただけたら作者の励みになります!

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