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第二十七話 伯爵領の悪魔 その10

「ふん!」


 中央広間。そこでユウサイはまるで奇術師か何かのように村人の見世物となっていた。


 手始めに丸太を宙に放り投げる。そして刀に手をかける。すると、常人にはもはや目で追うことも叶わない絶技をもって薪をパスタのように何百本もの繊維に変えてしまう。


 ユウサイの技はこんなものではない。今度はレンガを持ち出し、切り株の上に置く。そして一瞬、居合い抜きの構えをとったかと思えばその姿勢を一瞬で崩し近くの男を手招きする。


「そのレンガを触ってみろ」


 わけがわからず男はレンガを持とうとする。すると、


「うおぉっ!」


 レンガは男がもったその瞬間、いくつもの規則正しい立方体となって男の手からすり落ちていった。


「ほかに何か希望があれば見せてやるんだが……そうさな、なにか、希望はあるか?」


 ユウサイはそういうが誰一人としてその場から動くものはいなかった。


「なんだ、誰もいないのか?」

「ま、まて!。俺と勝負しろ!」


 ユウサイが落胆し、周囲を見渡したその時、一人の男が後ろのほうから剣を掲げる。


「ふむ、構わんが……やめておいたほうがいいぞ」


 ユウサイは男を見るなり、何やら残念そうにそう言い放つ。


「俺は元兵士だ!。かつての副隊長殿とお前、どっちが上か俺が見極めてやる」


 男は以前やってきたペンタグラムの生き残りだという。よく見ると、肩の肉がえぐられた痕跡がある。おそらくは、重傷を負い、この村で休息をとっていたのだろう。


「ほう、それはいい。ワシにとっても魅力的な提案だ。さあ、どこからでも打ち込んで来い」


 そう言ってユウサイは大きく手を広げ、男を挑発する。しかし、男は特に挑発に乗る様子もなく、冷静に剣を構える。そして


「“火炎球“!」


 無防備なユウサイに距離をとって魔法を放った。これには周囲の人間も卑怯だと感じたのか、一斉に目を見開く。


 ”火炎球”はその名の通り、火の球を敵にめがけて飛ばす攻撃魔法の中ではかなり基礎的な部類に入るものである。しかし、通常、魔法は魔法陣を用いて発動するため、何もない状態で魔法を放てるようになるまでは相当な練習が必要になる。


 彼はそれをさも当たり前のようにこなしているため、やはり国内最強の騎士団といわれるペンタグラムに所属していただけのことはある。


 しかし、ユウサイは相も変わらず余裕の態度で、特に守りの体制に入ることもなく魔法の到達するその瞬間まで平静を保っていた。


「よけろ!」


 見学していた村人が大声を上げる。

しかし、その間、僅かゼロコンマ一、二秒。ユウサイの周囲に円形の光が出現すると物に男の放った”火炎球”は掻き消える。


 その光景にわけがわからずその場にいた誰もが間抜けずらをさらす。それは魔法を放った本人である男も例外ではない。


「さて、これで終わりか?」


 男はユウサイのその言葉を受け、我に戻るとともに連続してまたも“火炎球”を唱える。


 しかし、男の放つ魔法はことごとくユウサイの目の前で光に飲み込まれ、どれ一つとしてその身に達することはなかった。


「一体、何をしたんだ…?」


 男はまるで理解ができずに、思わずユウサイに質問してしまう。


 無理もない話である。男はペンタグラムの兵士として、それなりの強者としてこの国に仕えていた。しかし、このような全く持って意味不明な事態に出会ったことは、過去一度たりともありはしなかった。


「お前さんの魔法を斬った。それだけの事だ。さて、これ以上やっても無駄だと思うんだが、どうだ?。満足したか?」


 男は魔法の打ちすぎで息切れを起こしていた。誰の目から見ても勝敗は決している。


 近接戦では先ほど見せられた絶技から容易に敗北が想像できる。かといって魔法を放っても目の前でかき消されてしまう。この時、すでに男の勝敗は決していた。


「……参ったよ。確かにあんたならあの化け物どもとも対等にやり合えそうだ」

「ふむ。それは重畳。お前さんの言う副隊長殿よりもワシは強い。そう考えてもいいのだな?」

「ああ、間違いない。あんたが相手じゃ、うちの副隊長……いや、隊長連中でも勝ち目があるかどうか怪しいよ」

「そうかそうか。さて、村人よ」


 満足気に首を縦に振ったのち、ユウサイは身をひるがえす。そして少しオーバー気味に派手に手を広げ、その場にいる村人に語り掛けた。


「今見てもらった通り、ワシは強い!。ゆえに、この土地を占拠しておる悪魔を今宵、ワシはうち滅ぼしてやろうと思っておる!。異論があるものは前に出よ!」


 先ほどまでとは打って変わり、ユウサイは村人をまるで脅すように声を張り上げる。その気迫に村人は黙り込み、反対意見を出そうとするものはなかなかいなかった。


 しかし、しばらくすると一人の男が力なく声を上げる。


「あ、あんたが悪魔を倒しに行ってる間、この村が悪魔の手下どもに襲われるかもしれない。その時はどうするんだ!」

「安心せい。ワシが出ている間はワシの弟子がこの村を守る!」


 その言葉とともにユウサイは隣に立つカズヨシを指さす。


 カズヨシを見て村人は「おおー」と歓声を上げ、なぜか深く安心感を抱くこととなる。


 その理由は、その時、カズヨシはニックの家の立派な鎧を着こんでおり、まさにこの国の戦人としては理想的ないでたちをしていたからである。


 内心、カズヨシはなぜこんなことになったのだろう、とあきらめたように村人の歓声を受けていた。


「しかし、弟子は一人だ!。勇気あるものは弟子を助けてやってほしい!。敵を仕留められなくても構わん!。ワシが戻ってくるまで持ちこたえれればそれでいいのだ!」

「こ、ここは俺たちの村だ!。俺はやるぞ!」

「俺もだ!。もう悪魔どもに女を貢ぐのもこりごりだ!」

「娘のために俺も命を張ろう!」


 続くユウサイの演説に村人たちは感化され次々と暑苦しく声を荒立てる。そしてその男たちはまっすぐとカズヨシに希望のまなざしを送りつけるのであった。


(ああ、なんでこんなことに……)


次回は20日の18:00~18:30ごろに投稿します

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