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第二十四話 伯爵領の悪魔 その7

遅れてしまい申し訳ありません。



「カズヨシさんはどうして旅をなさってるんですか?」


 エルザは優しくカズヨシにそう問いかける。


「師匠の目的のためです。僕はその付き添いですね」

「師匠って、いったい何の師匠なんですか?」

「剣術です。ほかにも生きるために知恵をたくさん教わりました。本当に僕にはもったいないくらい素晴らしい師匠ですよ」

「よろしければ、お師匠さんの目的とかも教えてもらえますか?」

「すみません……。これは僕が口にしていいことじゃないんです。できれば聞かないでほしいのですが……」


 旅の目的である神樹の朝露は、魔法使い、ローネによってもたらされた偶然の情報である。そして、彼はあまりこの情報を人に話したがりはしなかった。カズヨシとユウサイに話したのは、たまたまカズヨシが彼の恩人であり、かつ神樹の朝露を口にしたからである。そうでなければローネはその存在すらも明かしたりはしなかっただろう。


 ならば、この情報はあまり周囲に漏らしていいものではないのだろう。カズヨシはそう考え、あまり周囲に話したがりはしなかった。


「ああ、無理に聞こうなんてこれっぽっちも思っていませんから、安心してください。きっと訳ありなのですね」


 エルザは慌てたように手を振り、言葉を連ねる。


「ええ、そんなところです」


 しばらく歩くと先ほどの小川にたどり着く。そしてバケツで水をくみ上げ、地面に“水質浄化”の魔法陣を書き込む。


 その時、後ろのほうから少しガザガサと草を踏むような音が聞こえた気がした。


「魔法が使えるんですか?」

「ええ。おかげで飲み水に困ることはないですね」

「魔法……」


 カズヨシが魔法陣を書き終えると、興味ありげにフレデリカが魔法陣をのぞき込む。


「これは水をきれいにする魔法だよ」

「その水だったら野菜も育つかな?」

「たぶんね」


 そう言いながらカズヨシは魔法陣の上に水がいっぱいいっぱいに入ったバケツを乗せる。そして魔法陣に魔力を注ぎ込み、見る見るうちに水が浄化されていった。


「どうぞ」


 機嫌よくカズヨシはフレデリカに水を差し出す。恐る恐るフレデリカは水を救い上げ、口に運ぶと……


「ふつうのお水だ!」


 そう言ってフレデリカは喜んで顔を洗いだした。


「すごいですね。魔法で川の水なんかも浄化できるなんて知りませんでした」

「この村に魔法使いはいないんですか?」

「いましたよ。でも、皆さん、ほかの町に行ったほうが稼ぎがいい、って言って消えていっちゃいました」


 カズヨシも薄情な連中だとは思ったが、この村から出ていった魔法使いの気持ちもわからないことはない。


 魔法使いというのは絶対数が少ない。そのため、どのような町でも需要と供給が間に合っていないことが多いのだ。


 したがって、必然的に彼らの収入も高くなる。しかし、このような辺鄙な村ではそもそもそれに見合うだけの対価が払えない。そのため、よりよい生活を求めて別の町に移住したのだろう。カズヨシだって同じ立場であればそうしたかもしれない。


「まあ、仕方がないことなんでしょうけど、ひどいもんですね」

「ですね。本当にひどい話です」


 ため息をつくようにエルザはそう言って地面に座り込み、小川の流れを眺めだした。


 小川を眺めるエルザは相変わらず幸の薄い地味なたたずまいではあったが、どこか、不思議な魅力があり、人を引き付ける何かがそこにはあった。


 そしてしばらく流れを見続けた後、思いつめたようにカズヨシを見つめた。


「カズヨシさん、私を、助けてはくださいませんか?」


 突然出てきたその言葉は、今まで話してきた彼女の性格上、出るはずのない言葉であった。しかし、カズヨシはその言葉に驚くことはなかった。


 むしろ、これが本来の彼女なのではないかと思うほどに、その言葉は自然な響きに聞こえていた。


次回は明後日の18:00ごろになります

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