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第二十二話 伯爵領の悪魔 その5

遅れてしまい申し訳ありません……

「な、なんだ藪から棒に」

「師匠は人がいいですからね。まさか、あの子を助けようなんて思ったりしてないですよね?。最初に言っておきますけど、僕は反対ですよ。仮にあの子を救えたとしても、村のほうに被害が出ます。そうならないように村人も甘んじて生贄の制度を受け入れているんですよ」

「ま、まだ何もいっとらんだろう!。というか、お前は何も思わんかったのか!、そんな薄情な人間に育てた覚えはないぞ!」

「そりゃあ、思うところはありますけど、リスクが大きすぎます。先に殺された騎士の実力というのがどの程度かわからないんで、なんとも言えませんけど、師匠が負ける可能性だってあるんですよ。第一、僕らに何一つメリットがない。はっきり言って時間の無駄です」


 カズヨシの言葉に何一つ反論できずにユウサイは言葉を詰まらせる。


「わ、わかっとる!」


 そう言ってユウサイは黙々と死体の解体を再開する。


 カズヨシも助けられるのであればエルザを救いたいと思っていた。しかし、カズヨシにはその力がない。


 ユウサイであれば、あるいは可能なのかもしれないが、それでも還暦を間近に控える男性にすべてを押し付けるわけにはいかない。何より、養父であるユウサイには長生きしてほしいとカズヨシはかねがね願っていた。


 そのためであれば、旅先の小さな村で出会った少女のことに構っている余裕はないのだ。


 羽をむしり終えるころにはすっかり日も傾き始めていた。そのころになると、宴の席が大通りに設けられはじめていた。


 そして、しばらくすると完全に日は没し、たいまつが焚かれるとともに少女の最後の晩餐が始まるのだった。


「ずいぶんと賑やかですね」


 心なくカズヨシはそんなことをつぶやく。少女がさらわれていくというのに周りの人間はずいぶんと能天気に食事を楽しんでいた。確かに食糧不足でまともに食事をとれていないのかもしれない。それにてももう少し陰鬱とした雰囲気を醸し出すものではないのかと疑問を抱いてしまう。


「エルザちゃんのお願いなんだ。自分のために周りを悲しませたくないってみんな言われてるんだ」


 ニックはそういうと中央へ笑顔で歩み寄っていった。その笑顔は何ともいびつなものだった。


「……そうですか」


 この時、兜の下のカズヨシの表情は言葉には表せない違和感をため込んだような、そんな複雑な顔をしていた。しかし、その表情が周りにみられることはない。それは、ユウサイも同様である。


 いつもなら食事の時はどうでもいい話を始めるユウサイであったがこの日だけは終始黙って早々と食事を済ませてニックの家に戻っていくのだった。


 そんなユウサイを見てカズヨシは、今回ばかりは人のいい自分の師匠が少し面倒だと感じてしまった。


「なにかお困りですか?」


 ふいに後ろから少女が話しかけてくる。そこには先ほどのあいさつ回りの時よりも着飾ったエルザがいた。


「僕ってそんなに何考えてるかわかりやすいですか?」


 ユウサイには兜の下の表情をよく読み取られるが、ほとんど初対面の少女に見破られるとは思っていなかったのか、すこし驚いたように返事をする。


「さあ、どうでしょう?。でも、今回はすぐにわかりましたよ」


 そう言って少女はカズヨシの隣のベンチに腰を掛ける。


「旅の方にはこの光景が異様に見えますか?」

「ええ」

「うふふ、素直なんですね。もう少し答えを濁すかと思ってました。……でも、そうですね、あなたの言う通り、確かに普通ではないかもしれないですね」


 少女は少し笑いながら空を見上げる。その姿からは、歳はそれほど変わらないはずなのに、何倍もカズヨシよりも大人びて見えた。それはまるで、教会の聖女のように清廉潔白な底知れないものであった。


「怖くはないんですか?」

「怖いですよ。怖くないわけありません。でも、父さんや母さん。ニックさんやフレデリカちゃん。村のみんなが、あの悪魔たちに殺されるほうがもっと怖いです」

「優しいんですね」

「ありがとうございます。でも……」

「……?。でも、なんですか?」

「すいません、忘れてください」


 言葉を濁し、最後に少女が何を言おうとしたのか、カズヨシにはわからなかった。ただ、なんとなくその答えは聞かないほうがいいような気もした。


「今日はごゆるりと楽しんでいってくださいね」


 少女は軽くベンチから立ち上がり、去り際にカズヨシにそう言い残して家族のもとにかけて行ってしまった。


 それからすぐにカズヨシもユウサイ同様、本日の寝床に向かうのであった。



次回の投稿は明日の18:00~18:30ごろになります

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