第二十一話 伯爵領の悪魔 その4
しばらくニックからこの村のことを聞くとユウサイはジャイアントグリフの解体に取り掛かった。
「てなれたもんだなぁ」
「獣を主食にしてもうずいぶんになるからな」
「あんたの住んでたとこにはこんな化け物もよく出るのか?」
「さすがにそうとも限らん。まあ、探せば見つかるといったところだ」
ニックの話によると、この辺りにはもともと怪物は出てこなかったという。しかし、悪魔が伯爵の館を占拠してからというもの、大量の怪物が召喚されたらしく、それが時折村はずれなんかで目撃されるらしい。
作物が育たないのも、怪物どもが荒らしにきたときに強力な魔力の影響を受けてしまうためなのだという。
「師匠、羽はむしっててもいいですか?」
「構わんぞ。何にするつもりだ」
「荷車は腰が痛いんですよね。そろそろ下に敷くものがほしいなぁと」
そう言ってカズヨシは一羽を隣に持ち出して羽を荷車の隅にため始めた。
羽をむしる間、村の様子をうかがう。やはり活気はなく、道行く人の表情はどことなく人生への絶望を表している。そんな中、村の一角に何やら人が集まっているようだった。
「あれは何をしてるんですか?」
「あまり気持ちのいいもんじゃないが……聞きたいか?」
「ええ。まあ」
「ありゃ、明日の生贄前の最後の挨拶さ。館を占拠してる悪魔が人間の娘を定期的にさらいに来るんだ。さらわれた娘が戻ってきたことはない。具体的に何をされるかはわからんが、化け物どもの慰み者とか、食料だとかいわれてるな」
ニックの説明を受け、よくよくその人々を見てみると確かにひとり、カズヨシとさほど歳の変わらない娘がいるようだった。なんとも幸が薄そうな地味顔の娘である。
「今晩はあの子のために最後の別れの宴が催される予定だ。……とはいえ、祝いの品なんてこの村には残っちゃいないが」
そういうニックの顔はなんとも悲壮なものではあったが、どことなく悪魔を憎む気持ちが表れた表情だった。
すると、向こうでのあいさつが終わったのか、その一行は今度はこちらに歩み寄ってきた。
「ニックさん、こんにちは」
こちらに着くなり、生贄の娘はニックにあいさつを交わす。そのたたずまいはとても落ち着いているようだった。
「ああ。エルザちゃん。その、なんといえばいいのか、わからないんだが……娘も悲しんでいたよ」
言葉に詰まりながらどこかバツが悪そうにそっぽを向いてニックは言葉を交わす。
「そちらの方は……見ない顔ですが、旅人さんでしょうか?」
「はじめまして。ワシはユウサイという。こっちは弟子のカズヨシだ。なんとも災難な話だな」
「ええ。私もつくづくそう思います」
エルザは表情を曇らせ、少し困ったように応対する。その時だった。勢いよくニックの家の扉がバタリと開く。
「エルザお姉ちゃん!」
すると中から幼い少女が飛び出す。少女は髪もクシャクシャで目元を真っ赤に涙で晴らしているようだった。
「フレデリカ……」
「行っちゃダメ!。行っちゃったお姉ちゃん、きっとひどいことをされるわ!。だからいかないで!」
涙ながらに少女はエルザに抱き着き、駄々をこねる。
「こら、フレデリカ!。エルザちゃんを困らせるんじゃない!」
「でも、でも……!」
ニックに引きはがされながらも少女、フレデリカは駄々をこね、そのガラス玉のように澄んだ瞳に涙を浮かべる。
「娘が申し訳ない」
「いえ、気にしないでください。私のために泣いてくれる子がいる。それだけで私も救われますから」
そういうエルザは強がっていながらも涙を浮かべていた。そんなエルザを見てユウサイがたちあがる。
「今晩、お前さんのために宴が催されるのだろう。ならここの肉を持っていくといい。ジャイアントグリフは人間を襲う怪物だが、肉は鶏と何ら変わらん」
「まあ、ありがとうございます。旅人さん。よかったらあなた方もいらしてください。なにもありませんが歓迎いたします」
そう言ってエルザ達一行は別の家に向かっていった。一方、フレデリカはずっとニックの腕の中でぐずっているばかりであった。
そんなフレデリカをなだめようとニックは戸惑いながら家に入っていった。
「師匠、なんでまたあんなこと言ったんですか?」
「最後の晩餐が質素なものでは浮かばれん。坊主でさえも誰もみとらんところでは酒を飲む。普通の村娘に最後に肉を恵むくらいのことはしてもバチは当たらんだろう」
「本当にそれだけですか?」
カズヨシにはユウサイがもっとほかのことを考えているように見えた。二人はもう一緒に暮らしてそれなりになる。そのため、お互いが何を考えているかは無意識のうちに察してしまうのだろう。
次回の投稿は明日の18:00~18:30ごろになります
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