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第二十話 伯爵領の悪魔 その3


 村についてはじめに目に入ったのはしおれた畑の農作物であった。また、入り口の建物は老朽化が進んでいるのか、かなりボロボロでヒビも多い。


 ある意味、今の曇り空との雰囲気はマッチする、遠くから見た通りの村であった。


「その、なんだ、なんといっていいのかわからんのだが、あまりにぎわってはいないな」


 さすがのユウサイも周囲の異様な雰囲気に思わず言葉を失う。


「ハハハ、よそ者のあんたたちから見ても、やっぱりそうかい。この村はずいぶん前から作物がうまく育たなくてな。何人も飢え死にしちまってる。俺の家はまだマシなほうだが、ひどいとこだと、自分のガキをデカい街で売って、その金で暮らしてる奴なんかもいる」


 なんとも寂しい表情でニックはとぼとぼと歩いていく。


「原因は何なんですか?」

「悪魔どもの仕業さ」

「悪魔……ですか?」


 悪魔、と最初に聞いてカズヨシは少し落胆する。


 もともと知っての通り、カズヨシの生きていた地球の二十一世紀ではほとんど悪魔の存在は信じられていない。そのため、この手の、人の手にはどうにもならない事態を、すべて悪魔のせいにするその考え方にはどうも賛同できなかったのだ。


 確かにこの世界には悪魔は存在する。しかし、実際にカズヨシは目にしているからこそ、本当に村一つを変貌させてしまうほどの悪魔が存在するのか、逆に存在するとして、こんな辺鄙な村を襲ったりするのだろうか、と、どうしても疑問に思ってしまう。


「最初のほうは日照りが続いて作物がダメになっちまって、でも来年はまたやり直そう、って時にやつらが来やがった」

「実際に襲ってきたんですか?」

「ああ。連中はこの辺りの領地を治めていた伯爵様を惨殺してその館を乗っ取り、今もそこで夜な夜な宴を繰り広げているらしい」

「伯爵家を……国は何もしてくれなかったんですか?」

「まあ、その話は中に入ってからするとしよう」


 そう言ってニックは一軒の家屋を指さす。その家屋は周囲のものと比べると少しだけこぎれいであったが、それでもやはりどこかボロ臭い雰囲気を漂わせていた。


 隣の小屋に荷車を入れこみ、三人は玄関をくぐる。


「ただいま」

「早かったわね。ちゃんと全部売れたの?」


 先行してニックが中に入る。すると、奥から女性が出てくる。その女性はあまり美人というわけでもなく、どこかきつめの性格を思わせる、釣り目の中年女性であった。


「まあ、もっていった分はなんとか売りさばけたよ」

「そう。それならよかったわ。それで、そちらのお二人は?」

「この人たちは俺の命の恩人さ。ジャイアントグリフに襲われたとこを助けてもらってな。今晩、ここに泊まってくださるそうだ」

「まあ、どうも。こんなどうしようもない主人を助けてくださりありがとございます。私はアンリエッタともうします」

「はじめまして。ワシはユウサイという。こっちは弟子のカズヨシだ」

「はじめまして」

「ええ。なにもありませんがごゆるりと」


 そう言ってアンリエッタは奥の部屋に行ってしまった。


「お前さん、妻とはあまり仲が良くないらしいな」

「ハハハ、恥ずかしい限りだ。最近はすっかり関係も冷めちまってるよ。まあ、とりあえずかけてくださいな」


 ニックに案内されるまま椅子に腰かける。


「さっきの続きを話すとしようか。この国の対応なんだが、一応半年前に悪魔討伐部隊が五十人余り来たんだ。そりゃあ、強そうな連中だったね。高そうな鎧を着てたし、武器だって一級品って感じだった」


 五十人。無責任にも少ないとカズヨシは思った。相手の悪魔の実力も知りはしないのだが、それでもわざわざ国からよこされた兵が五十人だけというのはなんともケチな話に思えたのだ。


 実際には個人個人の悪魔殺しとしての実力や、人件費を考慮すると、これは妥当な数字ではあるのだが、しょせん、歳は中学生と変わらないカズヨシには考えが及ばなかった。


「それで、その五十人はどうしたんですか?」

「ほとんど死んじまったよ。伯爵の館にこっちに着いたその日に乗り込んでいったんだが……ひどいもんさ。翌日には連中の首が館の前にさらされてたらしい。今でも白骨化して残ってるよ。何人かは周辺の村に逃げ延びたが、そいつらも重傷を負ってたやつが大半で逃げた先で死んじまったよ。あれを見てみな」


 そう言ってニックはカズヨシの後ろを指さす。そこにはまだ美しい鎧が飾られていた。


「そいつはこの家に逃げ込んできたやつのもんだ。結局死んじまったがな。ほら、腹回りの部分に刺された跡があるだろう?」


 よくよく見てみると、きれいな鎧のその一部分だけには穴が開いていた。おそらく一突きで戦闘不能に追い込まれたであろうことがうかがえる。


「それで、事態を重く見た国がそのあとペンタグラムの騎士さまを派遣してきたんだが、それでもだめだったみたいでな。今度も多数の死者を出しちまった。連中も勝てずに逃げていったよ」

「ペンタグラム……王家直属精鋭騎士団か」

「なんですかそれ?」

「ん?。兄ちゃんは知らんのか。王家直属精鋭騎士団、ペンタグラム。この国で最強の騎士団さ。五つの部隊から構成されててその五部隊の隊長は一人一人が化け物らしい。んで、その化け物に鍛え上げられる騎士様方も正真正銘化け物ってわけだ」


 カズヨシはなんとも中二心をくすぐられるその設定に一瞬気持ちが昂る。


 しかし、すぐに正気に戻りとある疑問が浮かぶ。


「師匠とその隊長、どっちが強いですかね?」

「どうだろうな。確かにユウサイさんは強いがペンタグラムの隊長も噂じゃとんでもない化け物だ。一人で千人を相手取ったとか、魔界から生還したとか、とにかくいろいろな噂が飛び交ってる」

「こっちに来た討伐隊に隊長は含まれていなかったのか?」


 カズヨシに言われて少し対抗心が芽生えたのか、ユウサイが詳細を求める。弟子の前で少しでも恰好をつけたいのだ。


「隊長殿は首都で王族の警護が忙しいとかできてくれなかったよ。代わりにペンタグラムの団員三百人が第三部隊の副隊長を筆頭にやって来たんだ。その副隊長も俺から見ればかなりの化け物だったんだが、まあ、悪魔にはかなわなかったよ」

「ふむ、そうか」


 そう言ってユウサイは何かを考えこみ穴の開いた鎧をじっと眺めだした。カズヨシにはどうもその様子が気になり、なにかよからぬことを企んでいるように見えた。



次回は明日の12:00〜12:30ごろになります

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